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3 事件の夜

「昨夜10時以降アドラー伯爵の邸宅にいた人物は、次の5人です。


まず、邸宅の主人であるアドラー伯爵。

アドラー伯爵はスカーレットのパトロンだった。

そしてアドラー伯爵夫人。


それから伯爵家には2人の成人した子供がいます。

息子のハインリヒと娘エラです。

ハインリヒとエラは昨夜の夜会で初めてスカーレットに会いました。

けれど夜会でハインリヒはスカーレットと一曲踊っており、スカーレットに気に入られたようです。


それともう1人、アドラー伯爵の弟ヤコブが泊まっていました。

ヤコブはアドラー伯爵よりも先にスカーレットに出会っており、以前はスカーレットに少なくない額を出資していたようです。


使用人たちは仕事を終えると皆敷地内の宿舎に帰っており、12時過ぎには全員が本宅から引き上げたそうです。」


「ヤコブはアドラー伯爵の前のパトロンということですね。

兄にスカーレットを奪われたのでしょうか。」


私の質問にレストレード警部は「そのようです。」と頷く。


「ヤコブは兄のアドラー伯爵に逆らうことはできないのでしょう。

スカーレットのパトロンは兄に譲ったものの、スカーレットへの執着心は捨てられなかったようで、昨夜の夜会でもスカーレットに言い寄っていたのを目撃されております。」



スカーレットに好意を寄せていたと思われるのは、アドラー伯爵とヤコブ、それとハインリヒの三人だ。

この三人のうちの誰かが犯人なのだろうか。


「これから関係者に1人づつ詳しく話を聞きますが、カメリア嬢も同席されますかな。」


レストレード警部の誘いにカメリアは「ええ、もちろん。」と微笑み、「ヒルダ、あなたも来てちょうだい。」と私に命じた。



最初に話を聞くことになったのはアドラー伯爵夫人だ。

応接室のソファに腰掛けたアドラー伯爵夫人は不機嫌そうにため息をつく。


「警察の方に話をするのはいいとして、なぜカメリア嬢とその従者もいるのかしら。」


「私がカメリア嬢に捜査の協力をお願いしたのです。

我々王国警察は貴族社会の内情には詳しくありませんから、カメリア嬢に助言していただくことで事件解決がより迅速になると考えたのです。」


アドラー伯爵夫人は呆れたように目線を逸らした。


「それで、わたくしは何をお話しすればよろしいの。」


「昨夜10時以降何があったかお聞かせ願います。」



「夜会がお開きになって、客人たちをみな見送って落ち着けた頃には10時半すぎになっていたかしら。

そのときひどい雨が降り始めていたわ。

あの踊り子、スカーレットはハインリヒと話し込んでいたみたいでその時間になってもまだ屋敷にいたのよ。

仲間は先に帰ってしまったというので、わたくしが彼女に泊まっていくように言ったの。」


「アドラー伯爵はスカーレットのパトロンだったんですよね。

あなたはご主人が贔屓にしている女性を泊めるのに抵抗はなかったのですか。」


レストレード警部の問いをアドラー伯爵夫人は鼻で笑う。


「そんなこと気にしないわ。

主人はあの子の踊りを芸術として好んだのであって、あの子を愛人にしようとしていたわけではないもの。

あの子は一晩でハインリヒとも親しくなったようだけれど、自由気ままな踊り子の生き方に誇りを持っていたから伯爵家に嫁ぐ気なんかなかったんでしょう。

伯爵家に入る気がないのなら、あの子が主人や息子とどんな関係だろうとわたくしにはどうでもいいことだわ。」


「そうですか。

失礼なことを聞いて申し訳ありません。」


警部の謝罪をアドラー伯爵夫人は聞き流す。


「わたくしはスカーレットを客人用の部屋に案内したの。」


「スカーレット嬢が部屋に行った正確な時間はわかりますか?」


「確か10時50分だったかと思うわ。

あの子が部屋にあった置き時計を褒めたから覚えているの。

ガラスの板に時計板がはめこまれた美しい置き時計よ。」


「その後、あなたは何をされていましたか。」


「スカーレットを案内したあとですから11時頃からかしら、わたくしと主人はヤコブとこの応接室で話し合いをしたの。

わたくしどもは当然ハインリヒに伯爵家を継がせるつもりなのだけれど、ヤコブが伯爵家を継ぐ権利は自分にもあるなどと言い出して。

ずいぶんと揉めいたわ。

話し合いが終わったのは12時半だった。

それからわたくしは寝室で眠りについたの。」



「寝室にいってからは何か変わったことはありませんでしたか。

たとえば争う音が聞こえたとか。」



「ええ、あったわ。

けれど、スカーレットの声ではないのよ。

ハインリヒとヤコブだった。

あまりに激しく口論していましたので、わたくしは目が覚めてしまったの。

わたくしと主人の寝室の窓は中庭ごしにハインリヒとヤコブが使った部屋の前の廊下と向かいあっているから。

昨日の雨が止んだのは2時すぎだったのでしょう。

あのときは雨がまだ降っていたから、きっと1時ごろね。」


「そのとき、ご主人も一緒に2人の口論を目撃されたのですか。」


「いいえ、そのとき主人は寝室にいなかったわ。

まだ起きていたのかもしれないわね。

ヤコブとの話し合いが終わったとき、主人は酒を飲んで気持ちを落ち着けるから先に寝ていろとわたくしに言ったの。」


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