2 愛故の殺人
真っ赤な口紅のよく似合う、日に焼けた健康的な肌。
波打つ艶やかな髪と挑戦的な眉。
踊り子スカーレットは、溌剌とした美しい女性だったのだろう。
けれどもいま、彼女は首だけの姿で銀の盆に乗せらている。
「見つかっているのはここにある首のみです。
この温室には血痕も残っておらず争った形跡はないため、犯人は別の場者でスカーレットを殺害した後首のみをここに移動させたと思われます。
遺体の胴体と殺害現場は現在捜索中です。」
「犯人はとても悪趣味ですね。」
「そのようですわ。」
私の言葉にカメリアが頷く。
「赤い薔薇の花で飾って、ロザリオまで添えて。
彼女のための祭壇でもつくったつもりなのかしら。」
「我々警察もそのように考えていたのですよ。」
レストレード警部はカメリアの見解に同意する。
「なぜ殺した相手のために祭壇をつくったのでしょう?
殺したいほど恨んでいたのではないのですか。」
カメリアは「それは違うわ、ヒルダ。」と首を振る。
「飾られた赤い薔薇は三本。
赤い薔薇は本数によって様々な花言葉を持っていますわ。
三本なら『愛しています』を意味します。
それから、銀の盆に乗せられた首というのは、戯曲サロメを連想させますわ。
愛した男に拒絶されたサロメが、褒美として彼の首を要求し、その首に口付けるという話ですわ。
男の首は銀の盆に乗せられてサロメの元へ運ばれてくるのです。
犯人がこのような祭壇をつくったのは、自分がスカーレットを愛していたことを示すためでしょう。」
「愛していたから殺した、というのですか。」
レストレード警部は「珍しいことではないですよ。」
と言う。
「愛というのは殺人の動機になりやすい。
裏切られたり、己の愛を受け入れてもらえなかったが故に殺意を抱いたというのがよくある犯人の言い分ですわな。
殺されたスカーレット嬢は人気のある踊り子で、関係を持った男性も少なくなかったと聞きます。
容疑者はスカーレットを愛していた人物だと考えて良いでしょう。」
「私もそう思いますわ。
けれども少し気になることがありますの。」
「なんですかな。」
「この薔薇は庭園に咲いていると同じ品種。
犯人は庭園から薔薇を持ち出したのでしょう。
銀の盆には伯爵家の紋章が刻まれていますから、これも伯爵家から持ち出されたものです。
ロザリオは祭壇とするために必要だったのでしょうが、もし祭壇にするならば彼女のために大きな十字架を用意するべきでは?
愛するスカーレットのためにつくられたわりには、この祭壇はありものの寄せ集めで作られたように思えます。
事前に準備をしていたとは思えません。」
「犯行は計画的なものではなかった、ということでしょうか。」
「その可能性があると私は思いますわ。」
レストレード警部は「なるほど。」と頷くとジャケットの胸ポケットから手帳を取り出した。
「第一発見者はアドラー伯爵家の庭師の男です。
今朝6時ごろ、庭園の植物に水をやりにきたところ、温室に生首が置かれていることに気づいたそうです。
しかし彼は、昨日の夜11時には生首はなかったと証言しています。
昨夜11時、夜会会場の装飾に使われた花瓶を片付けるため庭師はこの温室に来た。
その際生首は置かれてなく、とくに不審な点もなかったと。」
「では、犯行が行われたのは11時から6時までの時間になりますね。
となれば、容疑者は夜会が終わって他の客人たちが帰ってからも邸宅に残った人物でしょうか。」
首を捻る私にカメリアも頷き、レストレード警部に尋ねる。
「その中でスカーレットと深い関係にあった人物はいますか。」
「ええ、いるにはいるのですが。
屋敷に残った人物のなかで、スカーレットに好意を寄せていたと思われる男は3人いるんです。」
スカーレットという女性は、複数の人物から愛されていたらしい。
彼女を殺したのは、誰の愛か。




