第5話:魔女っ子ギルドへ営業申請に参上します!
ここは〈聖都アルフェリア〉中央ギルド支部。
冒険者たちが集い、依頼を受け、戦いへと旅立つ──そんな活気ある朝の始まり。
「ふぁ~……今日は静かに終わるといいなぁ」
受付嬢のリゼが書類を片づけていたそのとき、ギルドの空気が急にぴりりと張りつめた。
「……え、風?」
次の瞬間、
ギルドの窓がバリバリと音を立て、突風が書類やカーテンを巻き上げる。
床が震え、天井から魔力の粒子がきらめき──
ギルドの中心に、巨大な魔法陣が出現した。
「っ……!?」「な、なんだコレ……魔法陣!?」
「いや、デカすぎるだろこれッ!」
冒険者たちが即座に武器を構える。
「魔物の召喚か!?」「いや、これ……魔力量が桁違い!」「上級クラス──いや、それ以上の魔物の気配だ!」
「終わった……終わったぞ……俺、婚約したばっかなんだぞッ!」
一人が膝をつき、仲間の手を取る。
「俺の遺言、頼んだぜ……」
「バカ、言うな……絶対生き延びるんだ!」
ざわつきが絶望に変わりかけたそのとき──
風が渦を巻き、ギルド全体が雷鳴のような轟音に包まれる。
そして、魔法陣の中心から、彼女は『降臨』した。
「我は──魔女っ子バーガーの店長! ルミナ!!
営業申請に、参上したッ!!」
冒険者全員が固まった。
……あまりにも予想外すぎて。
栗色の髪をなびかせ、魔法の杖を高く掲げる少女。
背後にはスーツ姿の執事と、ふわふわ浮いた妖精の姿。
「……え、営業申請……?」
「今の演出、完全にラスボス級の登場だったけど……」
「いや……逆にこえぇわ……」
場のざわめきをよそに、ルミナは得意げに一歩踏み出す。
「まずはご挨拶代わりに、うちの試作品をどうぞ!
特製・カツ丼バーガー!」
「今朝、市場を駆け回って、かき集めた食材でつくったんです! あつあつですよ!」
包み紙を開けると、湯気を立てる黄金色のバンズと、ド迫力のとんかつ。
その場の空気が一気に「腹が減る匂い」に支配された。
「おおっ……お、美味しそう……!」
受付嬢のリゼが思わず身を乗り出すと──
「うぅ~~~ん……やっぱり私が食べて確認しないとね!
ガブリッ!!」
「えっ」
「もぐもぐ……うん、ソースはもうちょっと甘口がいいかもね~」
──自分で差し出したバーガーを、自分で食べた。
「……やっぱりこうなると思いましたので、もう一つご用意しております」
クラウスが懐からスッと予備バーガーを取り出し、リゼの前にそっと置く。
「い、今のは見なかったことにします……」
香ばしい香りに、思わず顔がほころぶ。
「うっふふ、これが魔女っ子バーガーの実力よ!」
(お嬢様、次は窓ガラスの修理費が請求されると思いますが……)
ギルドのカウンター前には、すでに人だかりができていた。
冒険者たちが遠巻きに見守る中、リゼは丁寧にバーガーを受け取ると、ほかほかの包みをそっと開いた。
「……わぁ、香ばしいお肉の香りと、甘辛いタレ……それにふわふわのバンズ。カツ丼バーガーって、初めて見たけど……すごく美味しそう……!」
「でしょでしょー!? これをね! この街で広めたいのよ! それにはまず、営業許可が必要でしょ?」
「え、ええと、そ、それはもちろんですけど……営業申請、ですよね? あの、書類は──」
「フェリィ! 書類っ!」
「は、はいぃぃっ! あの、これとこれとこれとぉ……あと判子、判子ぉ~!」
フェリィがあたふたと鞄から書類の束を取り出すが、途中で手が滑って、ぱらぱらと床に舞い落ちる。
「ぎゃぁぁ! わ、私の努力の結晶がっ! 風に散ったぁ~!!」
「落ち着いて。クラウス、お願い!」
「了解です」
クラウスが手際よく用紙を拾い、端から順に整えていく。まるで紙にも礼儀を尽くしているかのような動きだ。
「こちらが申請書、営業許可願、食品提供許可に、魔法具使用届、そして調理魔法記録です。必要書類はすべて揃っております」
「え、完璧……!」
リゼは感動したようにぱちぱちと瞬きしながら、受付カウンターの奥へと書類を運ぶ。
「それでは、ギルド管理端末で確認を……あ、申請内容、問題ありません! 審査印もすぐに出せますので──」
カチッ。端末から軽快な音が鳴り、紙が一枚吐き出された。
「──『魔女っ子バーガー1号店』、聖都アルフェリアでの営業を正式に認可します! おめでとうございます!」
「やったー!! やったわフェリィ、クラウス! これでようやく、堂々と営業できるのね!」
「ふふ、これもバーガーの魔力ですね……」
フェリィは感極まり、そっとハンカチで目元を拭う。
「……ようやく、スタートラインに立てましたね。これからが本番です、お嬢様」
「うん、覚悟してよ、聖都の胃袋! 魔女っ子バーガーが、街をとろけさせてあげるんだからっ!」
こうして、「魔女っ子バーガー1号店」は無事、ギルドにて正式に営業申請を完了した。
──のだが。
「よぉし、じゃあ最後にお祝いの爆発魔法で締めくくりましょっか!」
と、ルミナが無邪気に魔法の杖を構えた瞬間──
「待て待て待て待てぇぇええええええッ!!」
ギルド中から総ツッコミが飛んだ!
「爆発って、おい、ギルド粉々になるぞ!?」
「今の魔力量ならマジで危険だって!」
「この子、さっき『降臨』したばっかなんだぞ!? 信用ゼロだわ!」
「えぇ~? ちょっと火花がパチパチッてするだけよ? フェリィ、準備して!」
すると突然、フェリィがバッと頭を抱えてしゃがみ込む。
「ギルドの床が割れて、私たち吹き飛ばされて、空中でぐるぐる回転して、爆炎がドーン!
そのあと建物が跡形もなくなって、新聞に《謎の爆発事故、ギルド消滅する》って見出しが出て……!」
「うちの営業許可取り消し、店長はお縄、私は職を失って魔法界に強制送還、ブラックリスト入りにぃ~!!」
「そこまで行く!? 空想にしても縁起でもないわよ!」
わちゃわちゃと騒ぐ一同をよそに、クラウスが静かに一言。
「……お嬢様、お祝いの花火は、営業初日に改めて。できれば屋外で、お願いします」
「ちぇ~……じゃあ今回は『点火だけ』でガマンしてあげる!」
ぽふっ、と小さな火花がルミナの杖から弾けた。
「うん、完璧な締めくくりだったわね!」
「どこがだよ!!」
ギルドに響くツッコミと、ほんのり香ばしいバーガーの匂い。
魔女っ子バーガー1号店、聖都アルフェリアにて──本日、爆誕。
To Be Continued...☆