第51話:ルミナとナナの まじめなお買い物(予定)
王都アルフェリアの朝。
魔女っ子ハウスでは、クラウスの静かな声が今日も響いていた。
「本日の任務は――“実用的なものを買ってくる”こと。予算は、金貨3枚と銀貨5枚でございます」
「なんで“実用的なもの”限定なんだろ……」
ぶつぶつと文句を言いながらも、ルミナは差し出された袋を受け取る。
「わー!けっこうあるじゃん!」
「お嬢様、あくまで“生活に必要な品”に限る、という条件をお忘れなきよう」
「はーい!」
「……今、絶対聞いておりませんでしたね」
クラウスはため息をひとつ吐き、もうひとりの同行者に視線を向ける。
「ナナさん、どうか監督をお願いします」
「は、はいっ! 責任重大ですっ!」
こうして、ルミナとナナの“実用的なものを買ってくるミッション”は始まった。
目指すは、王都でもっとも魔法文明が進んだ大型施設――《デパート・アルフェリア》である。
* * *
「うわぁぁぁ……これがデパート……!」
ナナがきらきらと目を輝かせる。
店内は魔導エスカレーターに魔法浮遊カート、空中に商品紹介が浮かぶ情報魔法モニターまで完備された未来空間。
「なにこれすごいね!? 近代文明! 魔法の進化!」
「お、お嬢様、目が完全にお祭りですっ!」
最初は、まじめにキッチン雑貨コーナーをチェックしていたふたりだったが――
「ルミナさん! この鍋、火の強さを感知してくれるらしいですよ!」
「え〜〜っ、お鍋が!? えらい!」
「あとこのトング、食材に応じてグリップ圧が変わるらしいですっ!」
「えっ、優秀すぎない!? 天才じゃん!? なんで道具がこんな優しいの!?」
――完全にテンションが上がってしまった。
そして運命の出会いは、ふと立ち寄った“おもちゃコーナー”で起きた。
「……あれ」
ルミナが棚のすみを指さした。
そこに、丸っこくて緑色の、ちょっとくたびれたぬいぐるみが座っていた。
タグにはこう書かれている。
しゃべる! うごく! まねっこカエルくん!
「あなたの言葉、ぜ〜んぶマネしちゃうぞ!」
「……これ」
「えっ、ルミナさん……それ“実用的”ですか!?」
「うん……」
「うなずいたぁあああっ!?」
ルミナはなぜか真顔だった。
「これは……絶対、家に一匹必要なやつ」
「どういう理論ですかっ!?」
……そして帰宅。
「ただいまー!」
「ふたりとも、お疲れ様でした。さて、購入品の確認を――」
クラウスがふたりを迎え、手にした紙とペンを構える。
「購入品は?」
「はいっ! トングです!」
「なるほど、“魔力感知式グリップ”ですね。実用的です」
「鍋も買いました!」
「魔法温度制御鍋、完璧です。では……」
クラウスが最後の袋に手を伸ばした、その瞬間。
「クワッ」
袋の中から、妙に湿った鳴き声が響いた。
「…………」
「…………」
クラウスは静かに、袋から“それ”を取り出す。
丸くて、緑で、ぷにぷにしてて――
「まねっこカエルくん」がぴょこんと顔を出した。
「お嬢様。これは……いったい」
クラウスが問うと、
カエルがぴょんと跳ねてこう言った。
「オジョウサマ。コレハイッタイ?」
「ッッ!!」
ナナが噴き出し、ルミナはテーブルに突っ伏して笑い始める。
「くっ、くはははっ!! 言ったーーーっ! まねしたーーーっ!!」
「な、なにこれお腹痛いですっ!!」
「や、やめて、反復しないでぇぇっ!!」
クラウスは手を顔にあて、深々とため息をついた。
「お嬢様……これはいったい、どこに実用性が……?」
「オジョウサマ……。コレハドコニジツヨウセイガ……」
「癒しです……!」
「ぜったい役立つやつです……!」
──その後、“まねっこカエルくん”は店のカウンターの片隅にひっそりと設置され、
「ゴチュウモン、チーズバーガート、フライポテトデ、ヨロシカッタデショウカ?」
「フクロハ、ゴリヨウニナリマスカ?」
などと、お客さまの注文を繰り返し確認する“便利カエル”として、まねっこカエルくんは活躍を始めた。
まさかの有能っぷりに、クラウスがぽつりとつぶやく。
「……お嬢様。結果として、最も実用的だったのは……」
「“まねっこカエルくん”でしたね……」
クラウスとナナがそろってうなずく横で、ルミナはどや顔で叫んだ。
「ほら見たーっ!? だから言ったでしょ!? 家に一匹必要って!!」
「ま、まさか本当に役立つとは……」
「オジョウサマ。ミトメテホシカッタンダネ」
「ひぃっ!? 思考まで読まれてるぅっ!」
──こうして、今日もまねっこカエルくんは、ぴょこぴょこと跳ねながら、
店にやって来るお客さまを、次々と笑顔にしているのであった。




