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第44話:パンケーキの香りに包まれて。魔女っ子バーガー、やすらぎの日

 石畳の道を、馬車がカタコトと音を立てて進んでいく。


 まだ朝もやの残る王都アルフェリア。

 尖塔の影が淡く伸び、色あせた旗が、ゆっくり風に揺れていた。


 路地裏からは、香ばしいパンと甘いバターの匂いが漂う。

 煙突からのぼる煙が、空にとけていく。


 パン屋が扉を開け、果物商が木箱を並べ、

 薬草店の少年が、ほうきで石畳を掃いていた。


「本日営業中」の札が、ことりと掛けられるたびに、街は少しずつ、目を覚ましていく。


 そんな幻想的な風景を背景に、杏奈がぽつりとつぶやいた。


「……あれ、今日って、魔女っ子バーガー……お休みの日じゃなかったっけ?」


 そう。

 今日は週に一度の“完全休業日”。

 戦いも、魔法も、接客スマイルも――全部、おやすみ。


 王都の一角にある拠点、かつてはボロ屋敷だったその場所も、

 今ではすっかり「帰る場所」になっていた。


 朝のキッチンには、ふわりと甘い香りが立ちこめている。


「おはよう、みんなーっ!」


 元気な声とともに、ドアが勢いよく開いた。

 現れたのは、パンケーキ工房ミルフィーユの店主――パンナ。


 手には山盛りのホットパンケーキをのせた大皿。

 顔には、これぞ「休日スマイル」と言わんばかりの笑顔が咲いていた。


「焼きたてだよーっ! 今日はお休みでしょ? のーんびり朝ごはんしよっ!」


「……パンナさん……女神です……」


 ティオがいの一番に反応し、ララと一緒に駆け寄る。


 テーブルには、ブルガノスミルクで淹れた温かいミルクティー。

 ドラゴンポテト入りのふわとろオムレツ。

 そして、分厚いパンケーキの上には、バターとメイプルがとろ〜り。


「今日のパンケーキ、ふわもち強化配合だよっ! おやすみの日仕様ってことで!」


「……ふわもち……やば……」


 いろはがふにゃっと笑って、ソファにぽすんと沈んだ。


「今日はごろ寝モードかな〜……毛布持ってこよ……」


 そんな中――


「いただきます……って、ルミナ様は?」


 ふと、杏奈が首を傾げた。


「裏庭の温泉です」


 クラウスが、優雅に紅茶を注ぎながら答える。


「朝から温泉って、どんだけ贅沢よ……」


「お嬢様の“魂の癒やしルーティン”だそうでございます」


 そのころ、裏庭からは、もくもくと湯気が立ちのぼっていた。


 石畳の露天風呂に木桶が並び、バラの香りがふわりと漂う。


「ふわぁ〜〜〜……天国……」


 バスタオルを巻いたルミナが、首まで湯に浸かって極楽顔。


 空の雲がゆっくり流れていき、朝日と湯気が幻想的な光を描き出す。


 そんな中――


 クラウスは静かにナプキンを広げ、一枚の皿にパンケーキを取り分けていた。


 バターは少なめ。メイプルは横に添えて。

 ミルクティーは、湯気が消えぬよう魔法で保温。


「……ルミナ様の分、取り分けておきます」


「なにその“愛を込めた一皿”……」


 後ろから現れた杏奈が、タオルで髪を拭きながら呆れたように言った。


「ほんと、クラウスだけルミナの生活リズム全部把握してるのよね……」


「当然でございます。執事ですので」


 杏奈はパンケーキをひと口つまみながら、肩をすくめて苦笑した。


 キッチンには笑い声が満ち、毛布にくるまったいろはがソファの上で寝返りを打つ。


 ティオとララは、パンケーキに顔をうずめて「しあわせの味〜」とつぶやく。


 パンナはパンナで、次のホットケーキの山を焼いている。


 休日の朝は、ゆっくり、ふわふわ、甘くはじまる。


 仕事も戦いもない、ほんのひととき。


 それでも、いや、だからこそ――みんなにとって、大切な、大切な時間。


 そして――朝食がひと段落したころ。


「……街、見てこようかな」


 隼人が静かに立ち上がりながらつぶやいた。


「今日は買い出しじゃないから、ぶらっとね。気分転換に」


「わ、わたしも行っていいですかっ!?」


 ナナが勢いよく手をあげ、顔を真っ赤にする。


「フェリィも〜いきたいな〜。お店の外って、空気おいしいから〜」


 ふわふわした声でフェリィも立ち上がる。


 こうして、三人は連れ立って、気ままな休日の街へと出かけていった。


 のんびりと、パンケーキの余韻を残したまま――。

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