第43話『魔女っ子頂上決戦!ルミナvsミレイ、甘くて危険なステージへ!』
デルカノス帝国上空に――
お菓子でできた、巨大なコロシアムが浮かんでいた。
クッキーの観客席、ゼリーの床、チョコレートの壁。
空中ステージには虹色の飴細工が舞い、まさに“夢のおやつバトルアリーナ”が完成している。
観客席にはバーガーとクレープの食べ放題、さらにはチョコレートドリンクバーまで完備。
甘くて香ばしい香りが、空一面に広がっていた。
「こちら、マジカル☆ウィッチ放送局です!」
「実況は、私いろは、そして……実は甘党、クラウス、さらに――」
「スマイル担当なのに毒舌ぎみ、星見杏奈でお届けします!」
「……なんで私が実況? 解説とか聞いてないんだけど……って、ちょっとカメラこっち向けないでよ!」
「クラウスさん、クレープ落ちそうです。手より口が動いてません?」
「むっ……この実況席は甘味との戦場……舌が先に動くのも、甘党の本能というもの……」
「実況中に泣きながらスイーツ食べてる人、初めて見たんだけど……」
「はーい! ではでは、本日のメインイベント、ついに開幕ですっ!!」
「まずは――今や昼ドラにCM、そして“魔女っ子鑑定団”にも出演中!
話題独占の白フリルアイドル魔女っ子、ミレイ選手の登場です!!」
\ミレイちゃーん!/ \魔女っ子ナンバー1ー!!/
観客の歓声が爆発するなか、ミレイはくるりと一回転し、キラキラの光をまとって宙に舞い上がる。
「マジカルきらめき、スタンバイ♪」
スカートをひらりと揺らし、ミレイは指を掲げると、空にハート型の魔法陣が現れ、淡い光がステージを照らす。
「そして対するは――異世界からバーガー店ごと転移させた元凶にして、食の魔力を操る謎の魔女っ子!」
「黒のドレスとジャンクな夢をまとう、魔女っ子バーガー1号店・店長――レミィ・ルミナァッ!!」
「しかも今、お菓子食べてて全然緊張感ありません!!」
「ルミナさん! 真面目にやってください! これは魔女と魔女の――頂上決戦ですよ!!」
いろはが叫んだその瞬間、ミレイがくるりと空中で一回転。
眩い光の尾を引きながら、空へと舞い上がる!
「いくわよっ!」
ハート型の魔法陣が煌めき、観客たちが一斉に息を呑む。
「――マジカル☆ブリリアント・ハートレインッ!」
無数のピンク色のハート型レーザーが、キラキラと軌道を描いて降り注いだ!
それはまるで流星のように、一直線にルミナめがけて――
だが――
「マジカル・ミート・ストーム☆リターンズ!」
ルミナの両手から、ジューシーな肉の幻影が広がった。
厚切りステーキのような魔力の膜がハートレーザーを次々と吸収していく!
「な、何その魔法っ!?」
ミレイが驚きの声を上げる。
「ふぅ〜、あぶないあぶない……バリバリッ」
ルミナは口元にクッキーを運びながら、まるでランチ中のように微笑んでいた。
「ミレイちゃん。魔女っ子っていうのはね――“属性”があるでしょ?」
「属性……?」
ミレイが小首をかしげる。
「そう。たとえば……」
ルミナの指先がふわりと円を描き、光と闇の魔法が空に花のように咲いた。
羽のように優雅な光、棘のように鋭い闇――まさに対極。
「ミレイちゃんは光と闇。対極の存在。しかも最上位属性。素晴らしいわ」
「ふふん、当然よっ!」
「でも、わたしの属性は――空腹よ」
「……は?」
「空腹属性……? 聞いたことないぞ……」
観客席がざわざわとざわめいた。
「魔導書にそんな記載なかったわよ!?」
ミレイがキレ気味に言う。
「それ、ただの体調じゃ……」
杏奈が冷めた目でぼそっとツッコんだ。
「ちっちっちっ」
ルミナが人差し指を振ると、背後で“ギュルルル”とリアルな腹の音が響く。
「空腹とは、己を削りし極限の美学……それ即ち、世界に満ちる飢えへの共鳴!」
「つまり、“空腹が起こる”ことで発動する、暴走系魔法属性……」
「別名――禁断属性!!」
ゴゴゴゴゴ……!
周囲にうねるような魔力。観客席からは「えぇ……」という困惑の声が混じる。
「空腹によって魔力が暴走し、次々と魔法を生み出してしまうのよ」
「だからね、ミレイちゃんの魔法――全部いただきます☆」
バンッ! バンッ! バンッ!
ルミナの周囲に魔法陣が次々と展開される。
火、水、風、地――さらに、さっき受けたばかりのハート光線までもがコピーされ、宙を舞う!
「魔法属性って偏りがあるでしょ? でも私は――喰って補うの」
その言葉に、実況席でクラウスが静かに指を組む。
「ルミナ様、“喰う”では少々物騒な印象がございます。“いただく”など、より丁寧な言い回しをですね……」
ルミナがバーガー袋を開けながら振り返る。
「じゃあ、“ありがたく魔力を美味しくいただきます♡”で♪」
「……完璧です」
クラウスが納得して小さく拍手した。
「いやいや、なんで成立してるのその会話!!」
杏奈がマジで困惑した顔で叫ぶ。
ルミナはにっこり微笑むと、豪快にバーガーにかぶりついた。
「私は属性の偏りを“いただいて”、最強のバランス型になるの。だけど――ひとつだけ、弱点があるの」
バリバリッ……(クッキーをかじる音)
「それが――空腹」
ぐぅぅぅううう……
ルミナのお腹が、全力で鳴り響く。
「さて、もう一つとっておきのバーガータイムっと♪」
ポケットからスッと取り出したのは、特製のカツ丼バーガー。
ソースがきらめき、湯気がふわりと立ちのぼる。
「ちょ、今ランチ!? 戦闘中だよね!? 本気で!?」
ミレイが叫ぶ。
「あと、シュワシュワっと♪」
ルミナは星降りベリーシロップをポンと開けて、一口。
「ぷはぁ~……しみるぅ……」
「……ルミナ様、本当にやってしまわれました……」
クラウスが額に手を当てる。
「俺たちなんで……魔女っ子の食事見せられてんだ……」
辰人がぽつり。
「わからん……」
隼人が首を振る。
しかし――
「わたし、光と闇が使えるだけじゃないんだからねっ!」
「――マジカル・トゥインクル・ファントム・シュート!」
高速詠唱から魔弾が放たれ――
「撃ち合いがしたいのね、ミレイちゃん……!」
ルミナの魔法陣が五重展開!
きらきら光るポテト型魔法弾、ハンバーガーの輪を描く光の衝撃!
「なにこの魔法!?形がおかしいわよ!?」
撃ち合いが加速!
「でも……空腹ってことは、エネルギー切れも近いってこと!」
「むしろ逆よ☆吸収した魔法で、私の魔力は加速するのっ!」
「ずるいっ!」
「ずるかわいいが魔女っ子よ!!」
撃ち合う魔法。交差する属性。
だがその時――
ひとつの“誤爆”が生まれた。
ミレイの魔弾と、ルミナのポテトビームが空中で激突。
そこから逸れた魔力の波が、ルミナの手元を直撃した。
「きゃっ……!」
ルミナの手元から、ふわりと舞い上がる――トレイ。
上に乗っていたのは、今日という決戦のために用意していた――
愛と魔法と秘伝のレシピで作られた、特製カツ丼バーガー。
ポヨン、と弾んだバンズは、空中で一回転しながらスローモーションで落ちていく。
ふわふわのバンズ。
ジューシーなカツ。
とろけるチーズと、キラリと光る特製ソース。
それが、コロシアムのゼリー床に――
ぽとり。
着地した。
しみる音がしたような気がした。
「………………」
ルミナの瞳が、静かに細められる。
「……やっ……」
いろはがごくりと息をのむ。
「やばい……これは……!」
クラウスが頭を抱える。
「伝説の“怒り飯モード”……!」
「カツ丼バーガー落とすとか……地雷にもほどがあるだろ……」
辰人がこめかみに手をあてて小声で言う。
「これはもう、我々の手には負えません……」
千尋が冷や汗をぬぐう。
「……や、やばいやばい……ルミナの魔力が収束して……収束してないっ!!広がってるっ!!」
隼人の声が上ずる。
コロシアム全体が、ざわめいた。
ルミナはゆっくりと、落ちたバーガーに視線を落とし、そっとつぶやいた。
「……それ、今日のために作ったのに……」
指先が、カタリと宙をなぞる。
空気が震える。
――魔法陣が、八重に重なり始めた。
静かに、確実に、世界のバランスが傾く音がした。
「誰か止めてえええええ!!」
いろはの絶叫が、チョコレート天井に響き渡った――。
「……フフッ。いいわ、ルミナさん。そっちが本気ならこっちも“深夜枠”モードで応じてあげる……」
ミレイがゆっくりと空を見上げる。
「ある日、読者から手紙が届いたの……」
チョコでできた観客席が静まりかえる。
「“ミレイさんの本音が聞きたいです”って……だから、今ここで言わせてもらうわ!」
ミレイの目が燃える。
「本音を言うわ。“主役をください!”ヤンデレ役ばっかじゃ満足できないの!!」
「それ言っていいやつなのか……?」
隼人が真顔でツッコんだ。
「ふふ……もうどうなってもいいわ……!」
ミレイがそっと指輪を掲げる。
「この指輪……“魔女っ子鑑定団”で渡されたもの……!」
黒い光が走る。
「闇の指輪よ!」
パチン、と小さく音が鳴ると同時に――
ミレイの背中に、黒い羽根が咲き、背景にはゆっくりと開く黒薔薇!
その姿は、まさに“深夜枠の魔女っ子”!
「このコロシアムを、感動で包み込む魔法よっ!」
ミレイが空中でくるりと一回転し――
「――マジカル☆ミッドナイト・ドリーミング・ラブリィ・ブレッシングッ!」
「ならこっちは……」
ルミナが天を指し、魔力を爆発させる!
「マジカル・バーガー・オーバーキル☆インフィニティ!!」
ドォォォォン!!!
白と黒の羽根が舞い、二つの魔法が世界の中心でぶつかる!
光と闇、そして空腹の魔力が交錯する!
「魔女っ子はね、みんなに元気を届ける存在なのっ!」
ミレイが空に光のリボンを描き、声を張り上げる。
「そして、自分の魅力を最大に高め――輝く自分で、みんなも輝かせる存在よ!」
「アニメを観てくれてるちびっ子たちに――笑顔を忘れさせないために!」
続けてルミナが言う。
「空腹で、誰も悲しまない世界! 食べ物で、誰かの人生を変えられる!それが――」
「魔女っ子革命よ!!」
「そして――その笑顔が、誰かの“幸せの記憶”になるなら!」
ふたりの叫びが――
世界を、光で包み込んだ。
◇ ◇ ◇
……気づけば、あま〜い香りが立ちこめていた。
中央には、大きなケーキがそっと置かれている。
「……カール様。どうぞ」
「これは皆様からの贈り物です。今日の戦いは――祝福のバトルでした」
「こ、これは……」
「カールさんお誕生日お祝いされたことないって聞いたから。ね?」ルミナが言う
「わ、わしは……」
「まさに……人生が変わってしまったのかもしれん……」
カールが、ゆっくりと語り出す。
「ふらりと入店した、“魔女っ子バーガー”なる謎の店。
その味に魂が震え、弟子入りを志願……弟子になったのかも定かじゃなく、気づけば2号店の店長に……そして、“魔爺っ子”として研究を重ねて……」
「仕事だけじゃない。わしは……仲間を得てしまった……」
「カールさん……」
後ろに立っていたのは、かつて空腹で倒れていた浮浪者の老紳士。
「これは……たいしたものじゃありませんが……」
差し出されたのは、一本のペン。
「昔、あんたがくれたスープで、生き返った気がしたんです。ずっと恩返しの品を探してて……ようやく渡せました」
「カールさんは、立派な魔女っ子ですよ」
「……いや、“魔爺”ですね」
カールは、ふっと笑った。
「こいつで、魔法レシピでも書いてみるかの……」
ペン先が、やさしく光る。
「……この味こそが、人生を変える魔法だったんじゃな……」
――その手にあるのは、料理という名の魔法。
初めての誕生日祝い。
胸の奥に灯ったのは、魔女っ子の魔法――あたたかな、感謝のぬくもりだった。
“魔爺っ子”カール・グレイスの物語は、まだまだ続いていく。
カールは空を仰ぎ、心からの想いを込めて、ぽつりとつぶやくように叫んだ。
「魔女っ子たちみんな……ありがとうよ!!!!!」




