第42話:魔女っ子とは!?カール、フリルと笑顔の狭間で悩む
デルカノス帝国。
その片隅、2号店に隣接する倉庫には、今――とある狂気の研究室があった。
「……なぜ“魔女っ子”は、笑顔を振りまけるのか……?」
カール・グレイス。
かつて伝説の料理魔導士と呼ばれた男にして、現・魔女っ子バーガー2号店店長。
その彼が、魔導スクリーンの前で何かに取り憑かれたように呟いていた。
「魔力構造に何らかの共通性があるのでは……いや、感情波動による空間共振……?
いや待て、語尾に“☆”をつけることで空間魔法を安定させている可能性も……!」
しわがれた手で魔導ノートをめくり、「フリル」「ツインテール」「語尾に♡」など、そっと閉じたくなるような単語が、魔導ノートをどんどん埋めていく。
「このままでは……“魔爺っ子”のままでは……!
新規顧客層のハートが……つかめぬぅ……ぐぬぬ……!」
【魔女っ子観察記録001】
レミィ・ルミナ
観察結果:よく食べる。動きが速い。空腹時、魔力放出が不安定。
仮説:空腹が魔力の供給源。
【魔女っ子観察記録002】
星見杏奈
観察結果:スマイル担当。だが目が笑っていない。
仮説:“微笑の魔法”は外的演出による。恐怖支配型魔女っ子の可能性。
【魔女っ子観察記録003】
フェリィ・ノアール
観察結果:妄想を具現化。想像力を魔力変換する異常構造。
仮説:もはや妖精界の超兵器。研究対象ではない。理解不能。
「……カールさん、何やってるんですか……」
呆れ声で扉を開いたのは、毒舌スマイル担当・杏奈だった。
「研究だ。
“魔女っ子”とは何か。
それを理解せねば、真のバーガーなど作れるはずがない……!」
「……どこまで本気なんですかそれ」
「常に本気だ。これは信仰であり、探求であり、調理である」
どや顔で机の資料を広げる。
『魔女っ子入門・初級編〜今日から君もぷりぷり☆マジカル〜』
『変身の心得と語尾の黄金律』
『笑顔は凶器。スマイルの物理魔術』
『魔法少女の立ち方大全集』
「これらすべてを理解し、再現することが――
真のバーガーへの近道だ……!」
「もはや遠回りどころか別の惑星に行ってる気がするんですが」
「ところで……杏奈、ちょうどいいところに」
カールが謎のキラキラスカートを持ち出す。
「このスカートを履いて、“魔法のポーズ”を試してくれないか?」
「履かないよ!?
てか私、魔女っ子じゃないからね!?」
――そこへ。
「悩める中年よ!魔女っ子ここに参上っ!!」
どーん!
光エフェクトとポーズと共にルミナが登場した。
「さあ、魔女っ子マスター・ルミナ様が来てやったわよ!」
「ルミナ殿!そなた、魔女っ子なる存在に詳しいのか……!?」
「当然でしょ?
魔女っ子バーガーを名乗る以上、魔女っ子の魂くらい知ってなきゃ話にならないわ!」
「では、教えてくれ……魔女っ子とは、何なのだ……!」
「ふふん。魔女っ子とは――!」
天に突き上げたルミナの指が、きらりと光を反射した。
「可愛さと魔法と元気でできてる、愛と夢の塊よ!!」
「なるほど……つまり元気……!」
「だけじゃダメ!
変身エフェクトとポーズ、それから敵に説教して泣かせる力もいる!」
「敵に説教……?」
「そう!心と心で通じ合ってこそ、真の魔女っ子なの!」
「ふむ……ふむむ……!」
「あとは、お菓子ね、お菓子を食べる!」
――そのとき。
空間がキラキラと歪み、きらめくビームと共に登場したのは――
「ごきげんよう、凡庸な魔法少女の皆さま」
白いフリルに身を包んだ、劇場版仕様の魔女服少女。ミレイ・フラムである。
「えっ……ミレイ!? マジカル・ウィッチ放送局の……!」
「ふふふっ、今日は視聴率のために“魔女っ子”の調査中よ。
ところでルミナさん、あなたの魔女っ子論、ちょっと薄くない?」
「はぁ!? なに言ってんのよアンタこそ!」
「魔女っ子とは、魔法と恋と衣装チェンジで世界を救う存在よ!」
「違うわよ!!
魔女っ子は空腹でも笑顔を忘れない、そんな強さを持った存在なの!」
「なにその貧乏くさい定義!!」
「言ったわね!?
なら、決着つけるしかないでしょ!!」
「受けて立つわ!――勝負よ、ルミナ!」
「ああもう……なんでそうなるのよ……」
杏奈が肩を落とす。
「魔女っ子 vs 魔女っ子、夢の対決……」
フェリィが、そっと指先を光らせる。
「魔法と魔法がぶつかって……空が割れて、星が泣いて……
最後は、ふたりが力を合わせて、巨大魔女ドラゴンを浄化するの……!」
「勝手に最終回みたいな空想始めないで!!」
「じゃあ、フェリィ。コロシアムの準備するわよ!」
「了解っ!お菓子コロシアム建設開始っ☆」
フェリィが空に舞い、爆発的な想像魔力が世界を塗り替えていく。
「えぇと、クッキーの観客席、ゼリーの床、壁はチョコ!
実況はクラウス、観客にはバーガーとクレープ食べ放題コーナー、あとチョコレートドリンクバーを設置!」
その背後で、ルミナとミレイが魔力をきらめかせながら睨み合う。
◇ ◇ ◇
次回予告!
第43話『魔女っ子頂上決戦!ルミナvsミレイ、甘くて危険なステージへ!』
お菓子でできたコロシアム!
語尾が飛び交い、フリルが舞い、魔女っ子プライドがぶつかる!
魔法と魔法の、ちょっとバカバカしい、だけど熱い、
魔女っ子の名にかけた真剣勝負が今、始まる――!
(そして杏奈の胃が限界)




