第41話:魔女っ子バーガー2号店誕生!渋いバーガーショップの秘密
デルカノス帝国、東商業区。
王都の片隅、元老院跡地に残された瓦礫の広場。
かつて魔導貴族たちが知性と権威を誇ったこの地に――
ルミナは、堂々と宣言する。
「よーし、ここに渋〜いバーガーショップを作ろうか!」
魔法陣が足元で輝き、空に魔力が舞う。
周囲では、治安が悪いと評判の浮浪者たちが一斉に聴き耳を立てている。
「フェリィ、イメージお願い!」
「おっけー!イメージするよぉ〜っ!」
フェリィがくるくる宙に舞いながら、空想を語り始める。
「まず壁は、年季の入ったアンティークレンガで、ちょっとくすんだ赤茶色〜!」
「外壁にはツタ植物が巻きついてて、季節によって色が変わるの!」
「照明はランタン型で、ガスじゃなくて魔法で揺れる炎仕様!ほんのりセピア色!」
「カウンターは古木を使ってて、椅子がくるくる回るやつで、回すと昔語りが始まるエンチャント付き!」
「天井には、ハンバーガー神の顔を彫ったレリーフが浮いてて、たまにしゃべるの!」
「ドアを開けると――スモークと共に渋いおじさまが登場ッ!」
「ってあれ!?なんか魔女っ子バーガー感が消えてきてるけど!?まあいっか!」
どごごごご……!
地面が震え、建材が空から降ってきて、魔法の建築が完成する。
“魔女っ子バーガー2号店”、いよいよお披露目である――!
◇ ◇ ◇
そして、開店初日。
「……なんで……なんでおじさんしかいないのこの店……!?」
品物を届けにきたナナが、泣きそうな声で絶句した。
厨房には、口ひげをたくわえた渋顔の男が、無言でバンズを焼いている。
ドリンクコーナーでは、白髪の筋肉紳士が黙々と炭酸を注いでいた。
そしてレジには――裁判官のような雰囲気のある、謎に厳格な男。
「皆、熟練の腕と経験を持つ者たちだ。
フレーバーで語り、語らずして魅せる……それが大人の仕事だ」
――カール店長、堂々のドヤ顔である。
「いや違うんですよカールさん!?
雰囲気の問題が……!お客様、明らかに引いてます!」
ちょうど視察に来たいろはも、頭を抱えた。
「というか、これはもう魔女っ子ではないような……?
どう見てもこれは渋さと重みが過剰るきが!?」
「ふむ。“魔女っ子”の代わりに、“魔爺っ子”というのはどうかね?」
「だめだこの人ほんとに分かってない!!」
「この肉の味は……わしがドラゴンと戦った夜に思いついた漬け方じゃ……」
唐突に語り出す厨房のおじさん。
その手には伝説の“骨付きドラゴン肉”が握られている。
だが、そんな渋い空間に――予想外の客たちが、ふらりと足を踏み入れた。
東商業区の隅で日々を過ごす浮浪者たち。
日差しを避けるように佇み、空腹のまなざしでカウンターを見つめている。
「……いらっしゃいませ」
金は要らぬ、と手を振るカール。
ドノヴァンはスープを差し出しながら、そっと席を引いた。
彼らは震える手でカップを持ち、すすると――
「……ここのスープ、腹だけじゃなくて、心もあったけぇ……」
「昔、戦場で飲んだスープの味がした……」
ぽろぽろと、しわだらけの目から涙がこぼれた。
それを見たナナは、なぜか胸の奥が、じんわりと温かくなった気がした。
その頃、通りの向こうでは、若い冒険者グループが様子をうかがっていた。
「な、なんだよこの照明……レトロすぎるだろ……」
「うわ、レジ打ってるおじさん、絶対口きかなそう……」
だが、一人がふらりと中に入り、注文してしまう。
「じゃあ……“五十年熟成バルサミコドラゴンバーガー”ひとつ……」
返ってきたのは、煙をまとい、渋い香りを放つ黒パンのバーガー。
恐る恐る、かじる。
「……う、うま……なんか沁みる……」
「これ、バーガーなのに、食べるたびに人生語られてる気がする……」
「このソースの香り……深い……!」
徐々に“おじさんたちの本気”が、客の心を揺らし始めていた。
◇ ◇ ◇
「というわけで……ではまず、みんなに自己紹介をしてもらおうか」
カール店長の一言で、渋すぎるスタッフたちが前に出てきた。
まずはカール自身が胸を張る。
「カール・グルメリアン。元・七王国の料理魔導士だ。
背中とレジ打ちで語る……それが我が信条。
“魔爺っ子”界の開祖を、どうぞよろしく頼む」
「だからその“魔爺っ子”ってジャンルどこに需要あるんですか!?」
ナナの鋭いツッコミが飛ぶ。
続いて、無言で一歩前に出る渋顔の男。
「……ラト・バルメッソ。かつて、火の精霊と鍋で会話していた男だ。
今でもスープに風のざわめきが宿る。……犬が好きだ。以上」
「ちょ、最後に急に可愛いの入れてくるのズルい!」
厨房の片隅で、ドラゴン肉を回しながら、もう一人が重々しく名乗る。
「ドノヴァン。元・騎士団副団長。今は接客係。
笑顔とは、口角ではなく誠実であることだ。……アイス、つけておいたぞ」
「ギャップが強すぎるのおおお!!」
ナナの評価がまたも揺れる。
そして最後に、ドリンクカウンターの奥から、白髪の巨漢が静かに現れる。
「ヴィルト・シュテンベルクである。……シュワ……」
「最後シュワは“照れ”……だね〜」
フェリィがそっと補足する。
「伝わるかぁぁ!!」
◇ ◇ ◇
魔女っ子バーガー2号店――
それは、魔力ではなく経験と渋みで勝負する、伝説の新業態である。
だがこのままでは終わらない。
「ねぇ……フェリィ。魔爺っ子って、ほんとにアリなの……?」
「うーん、アリだけど、このままだと威圧感で売り上げはナシになるかも〜」
「よし、カール店長に“魔女っ子講座”開くしかないわね!」
「あと、新しい風が必要ね〜」
ルミナの瞳が、魔導書のようにギラリと輝いた。




