第40話:魔女っ子バーガー2号店、意外な店長候補!?
「さーて、誰に2号店を任せようかな〜♪」
朝の会議室に響く、ルミナの無邪気すぎる声。
テーブルに広げられた魔法地図には、デルカノス帝国の名が赤丸で囲まれている。
「場所は決まってるのよ!
デルカノス帝国の東商業区、元老院跡地!
いまは廃墟だけど、魔導市場のすぐ近くで、職人多め、再開発チャンスありってわけ!」
「要するに……治安は最悪、客のクセは最強ってことですね」
杏奈がジュースを吸いながら冷ややかに突っ込む。
「……ねぇ、無理じゃない? いろは、そういうの向いてないって……魔導マフィアとか怖いし……」
「いろは、まだ誰も任せてないってば」
沈黙が、じわりと会議室を包む。
誰もが目をそらしかけたその時――
「……む」
静かに立ち上がる、ひとりの男。
「誰だ? 今、立ったのは……」
「わたしに、やらせてくれんかね。2号店を」
空気が凍る。
全員の視線が一点に集中する。
「カールーーーーーー!?!?!?!?」
そこにいたのは、漆黒のローブにスパイスの香りを纏った、伝説の料理魔導士――
カール・グレイス。
「わたしは……魔女っ子になりたい」
一瞬、全員の思考がフリーズした。
「……えっと、なんて?」
「ガチで言ってる……?」
ルミナが困惑した表情を見せる。
「魔女っ子バーガー。
この店には、“食を通して人を笑顔にする魔法”がある。
わたしは、それを目の当たりにした」
クラウスが咳払いをひとつ。
「たしかにカール様は初来店の際、全メニューを的確に分析し……ルミナ様を泣かせるほどのコメントを残しましたが……」
「むしろ、ラスボス側の貫禄なんですけど……」と千尋。
「……気づかされたのだ。
わたしの料理は“完成”していた。だが、魔女っ子バーガーには、“未完成”だからこその輝きがある。
そこには――成長と、希望が宿っている」
「魔女っ子の定義が……思ったより哲学……!」
「うんうん、いいねー!カール! はいっ、手出して〜!」
ルミナが無邪気に笑い、魔法の光がぽんっと舞う。
キラキラと宙を踊るそれは、空からひらりと落ちてきて、カールの手の中におさまった。
小さなネームプレート。
そこには、丸っこく愛らしい魔女っ子のイラストとともに、金の文字が浮かぶ。
《魔女っ子バーガー2号店 店長:カール・グレイス》
カールは指でその名をなぞり、ふっと目を細めた。
「デルカノスの地で。
魔女っ子2号店――任せたわよ、店長!」
――カールは静かに膝をつき、ネームプレートを抱きしめるように見つめた。
「これは……魔導勲章ではない。
だが、この胸に最も重く、最も温かい、“称号”だ……」
そして、ゆっくりと立ち上がる。
「わたしは、魔女っ子になる……
そして、デルカノスに笑顔を届けるのだ!!」
全員が拍手を送る中、カールがそっと手元の紙袋を掲げた。
「……それと、ルミナ殿」
「ん?」
「これを。――あげよう」
「え?」
ルミナが紙袋を受け取ると、中から出てきたのは――
白とピンクのリボンがあしらわれた、可愛らしい魔法ブーツ。
「うわっ、これ……すっごく可愛いっっ!?!?」
ルミナの目がキラキラと輝いた。
「サイズは調べておいた。魔力も通るように調整してある。動きやすさも重視した。
……戦って、飛んで、走って、踊る。君のような魔女っ子にふさわしい靴だ」
「う、嬉しすぎるんですけど!?
ねえ見て見て!みんな、これ!カールからの初☆プレゼント!」
ルミナはその場で靴を抱きしめて、ぐるぐると小躍りを始めた。
「いやっほぉぉぉう!!あたし、魔女っ子だし!これ履いてデルカノスの空を舞っちゃおうかな!」
「……はしゃぎすぎでは……」とクラウスがため息をつく。
「よかったですね!ルミナさん」
杏奈が微笑む。
「……この様子を見れただけでも、買ってよかった気がする」
カールが静かに微笑んだ。
靴を抱きしめながらはしゃぐルミナ。
その姿を見守る皆。
そして――
伝説の料理魔導士が率いる、魔女っ子バーガー2号店計画が、いま静かに幕を開けた。
混沌の都市、デルカノス帝国。
その荒野に、新たな“希望”が芽吹こうとしている。




