第39話:味の巨匠来店!追放された料理長の過去
バカンスから戻ってきたその日、バーガー店の裏手の空き地にふたつの影が立っていた。
「よし……ここに、我が新たなる“味の城”を築こう!」
マントを翻しながら高らかに宣言するのは、果物の精霊を連れたステラだった。
「って、そこ、果樹園にするんじゃなかったっけ?」
ジト目のいろはがツッコミを入れる。
「昨日“自然と共に生きる”とか言ってましたよね?」
「共に生きる城を建てるのだ! 自然と共に、私が果実の女王となる未来だッ!」
「自己主張が強い果樹園だなあ……」
そこへルミナとフェリィがふらりと登場。
「なるほどね!じゃあ、空想でいっちょ造っちゃおっか!」
「果実が自動で育って収穫される、魔法果樹園モードの設計っと!」
ルミナの一言に、フェリィの瞳がきらんと光る。
「フェリィ空想モード、開始〜☆」
ふわりと宙に浮かび、魔法陣の中心で両手を広げたフェリィが、ぽわぽわと語り始める。
「えっとね……天井は、太陽の光がたくさん浴びられるように透明の光膜でできてて、季節に応じて日照角度が自動調整されるの!」
「床はふかふかの苔じゅうたん。踏むと甘い香りが広がる“フルーツミスト”が舞うよ〜」
「木の幹はね、しゃべる! 精霊の声が聞こえる仕組み!」
「あとあと! 収穫は自動でふわっと浮かぶマジカルハンドがキャッチして、ジュースかジャムかフルーツバーガー素材に選別!」
「食べごろの実だけを瞬時に見分ける、“甘味感知スキャンシステム”つきっ!」
「そしてそして〜、おやつタイムには、木の枝から直接“しぼりたてシロップ”がとろ〜り流れるんだよ〜♪」
きらきらと魔法陣が輝き、フェリィの妄想が現実に転写されていく。
「ということで! “フェリィ式マジカル・フルーツファーム”の完成〜っ!」
「やっぱり自己主張が強い果樹園だったーー!?」
いろはが思わず叫んだ。
ふと見ると、隣に奇妙なドーム型の建物が出現していた。
「こっちのは?」
「これはねー、この前のダンジョンで使った“食材再生成装置”!」
ルミナが得意げに説明する。
「戦利品から素材を再現できるの! スライム風ゼラチンとか、炎玉香辛料とか!」
「何そのネーミング……てか、ちゃんと食べられるのそれ?」
その時、メイドのフローラがあわててルミナたちの前に現れた。
「大変です! 魔女っ子バーガーに、ものすごいオーラをまとった方が来店されています!」
◇◇◇
ルミナたちが店に戻ると、店内は異様な緊張感に包まれていた。
「な、なんなの……この緊張感……!?」
「厨房の鍋が……震えてますわ!?」
メイドのフローラが厨房から飛び出し、杏奈が眉をひそめた。
「……客席の、いちばん奥のあの人物。あれ、ただ者じゃない」
そこに座っていたのは、全身黒づくめのローブに身を包んだ中年の男。背筋はまっすぐ、テーブルに置かれたバーガーを前に、沈黙を保っていた。
「おひとりさま、“特製カツ丼バーガーセット”ご注文で〜す!」
いつもの元気な声で料理を運んだのは、成美いろは。
「ほら見なさいよ。うちの味に文句あるわけ――」
――カツッ。
バーガーをひとかじりした瞬間、男の表情がわずかに動いた。その瞬間、空気が……“うま味”に震えた。
「っ! うそ……この“気”……!」
フローラが一歩、後ずさる。
「彼は……“味の巨匠”だわ……!」
「え、それ有名人?」
隼人が首を傾げると、クラウスが眼鏡を押し上げながら説明した。
「“カール・ラズベル”。かつて七王国の王宮料理長を歴任し、“ひと舐めで国家を掌握する男”とまで呼ばれた伝説の美食魔導士です」
「なんでそんなやつがウチに来てんのよ!!」
杏奈が悲鳴をあげた。
そして巨匠は、静かに手を挙げた。
「このカツ丼バーガー、いい……“和の魂”をパンで包むという暴挙。だが、それがいい。だが……まだ何かが足りぬ」
「たりない……?」
その一言に、ルミナがぴくりと反応する。
「それ……言ったわね」
「いくわよ。魔女っ子バーガー、ガチの本気見せたげる!辰人、隼人。今回はふたりに任せるわ。あの人を唸らせる、本気の一品を出して!」
「ふっ、いいぜ。火加減も魂も、全開でいく」
「全力でやる。精密さなら負けないからね」
ルミナの号令で、厨房に熱が走る。
「隼人! スパイス調合いける?」
「任せろ。温度と湿度、今日の気圧まで加味したブレンド……いくぞ!」
「辰人、パティはいつものじゃ足りないわよ。全力のヤツ、焼いて!」
「へっ、言われるまでもねぇ! “俺様バーン焼き”の真髄、見せてやる!」
ゴゴゴゴ……という勢いで、厨房の鉄板に火が灯る。隼人は薬瓶と香草を次々と調合し、黄金色のスパイスパウダーを生み出す。それを辰人が豪快にパティへふりかけ、絶妙な火加減で中に旨味を閉じ込める。
「チーズ! 二種ブレンド、焦がし寸前でオン!」
「玉子、いけ!」
「よし、ドラゴンポテトスライス、炭火グリルで仕上げる!」
カン、カン、カン、とリズムよくナイフが走り、鉄板と網の上で香ばしい音が踊る。そのひとつひとつが異様に丁寧だ。
そして5分後。
「――できた。“炎玉チーズストーンバーガー”」
完成したのは、溶岩石のように熱々のスパイシーバーガー。香ばしく焦がした二種のチーズ、とろける半熟の玉子、そして炭火で焼き締めたドラゴンポテトの分厚いスライス。すべてが、火と手と技だけで生まれた“人の業”。
その香りに、誰もが息をのんだ。
「……これは……」
一口、巨匠が噛みしめた――
その瞬間、周囲に“天啓”のような光が差した。
「……これは……もはや料理ではない。“表現”だ……!」
ゆらりと立ち上がる巨匠。
「わしは今日、ひとつ悟った。この世には、“料理で殴られる”こともあるのだと……!」
「それ誉めてる!?」
「……弟子にしてくれ!!!」
「!?!?!?」
「いやいやいやいやちょっと待て!?!?!?」
辰人と杏奈が声を揃える。
そんな中、ルミナはケロッと笑っていた。
「じゃあ、試食係!やって? あと掃除もよろしくね♪」
ルミナに感謝するように一礼をし、そして急にカールは語り始めた。
「……ふ、あの頃を思い出すな」
静かに笑うカールに、クラウスが首を傾げる。
「“あの頃”とおっしゃいますと……?」
「昔の話だ。わしは王都の五ツ星ホテルで、総料理長を務めていた。“皿一枚で外交を動かす男”として、王族にも重用されていた。だが――」
彼はゆっくりと、視線を落とした。
「ある日、厨房に迷い込んだ小さな子供がいた。飢えた顔で、隅っこに置いていたまかないを食べた。魔法も使っていないまかない飯をだ。そして言ったのだ。『今まででいちばん、あたたかい味だね』……と」
「その言葉に、わしは震えた。高級食材でも、魔法調理でもない。腹を満たす一皿が、人を救うと知ったのだ」
「だが、貴族たちはそれを“汚れた料理”と罵った。わしは宮廷を追われた。……“本当に食わせるべき相手”の顔も知らぬ者たちに囲まれて働いていたのだな」
フェリィがぽつりと呟いた。
「……だから今日、この店のお客さま笑ってくれたのが嬉しかったんだね」
「ああ。わしが追い求めていたのは、料理で誰かの心を救うことだったのだと。……今日、それを思い出させてもらった!」
ルミナがくるりと回って、カールを振り返る。
「それなら、ここにいてよ。私たち、魔法でも料理でも、誰かの“笑顔”を作るお店なんだから!」
こうして、“味の巨匠”は魔女っ子バーガー1号店の一員となった。
伝説の味覚と、ノリと勢いの魔法キッチン。
この世界のグルメは、まだまだ進化を続けていく――!




