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第36話:辛さマシマシ☆地獄のクレームバーガー、ただ今お届けにあがりました!

 今日も大行列の魔女っ子バーガー1号店。昼どきの鐘が鳴る頃には、すでに行列の最後尾が曲がり角を超えていた。


 そんなバーガー注文ラッシュもようやく落ち着きを見せた午後。

 魔女っ子バーガー1号店のバックヤードでは、厨房の熱気とは真逆の、冷静な会話が交わされていた。


 木製の机の上に書類と魔導グラフが広がり、クラウスと千尋が向かい合っていた。


「デルカノス帝国の調査、まとまった?」


 千尋が眼鏡を押し上げながら問いかける。


「はい。千尋さんの分析と現地レポートを統合した結果を報告いたします」


 クラウスは資料を整え、静かに読み上げた。


「デルカノス帝国は、魔導機械と魔法技術の融合によって急速に発展した国家です。一見、高度な文明社会ですが、その実態は――」


 一枚の紙をめくり、声のトーンが落ちる。


「国家インフラの多くが“国民から徴収した魔力”をエネルギー源としています。その結果、慢性的な魔力疲弊、精神的負荷、そして出生率の低下が続いています」


「しかも都市部と地方の魔力量格差が激しい。魔力設備が集中する都市部では吸収が強く、田舎は放置されたまま崩壊が進んでる」


 千尋は地図を広げ、各地を指差す。


「魔導炉の暴走記録、通信網の断裂、未整備の道路区域……インフラの崩壊と格差の拡大、そして過去、聖都アルフェリアを襲った魔物事件――全部繋がってるのよ」


 その言葉に、クラウスが静かに頷く。


「……魔力を過剰に搾取したことで、大地の循環が乱れ、魔物の棲域にまで影響が出ていた可能性があります。帝国は、自ら魔物を呼び込んだようなものです」


「なるほどー!つまり――上がポンコツってことね!」


 ソファでだらけていたルミナが、マフィン片手に姿勢を起こし、口をはさむ。


「ルミナ様、分析の流れを一言で台無しにするのはおやめください」


「でも結論的にはそうでしょ? こういうときはバッサリいくのが魔女のやり方!」


「というわけで、セレナ姫に報告いれといてね♪」


「……いや、魔女以前にただの暴露系では……」


 クラウスの反論は半分で終わった。すでにルミナは机の前に仁王立ち。


「よーし、決まり! 《マジカル・ウィッチ放送局》に報道要請よ! バラしちゃおう、帝国の闇!」


「バラすって……社会的に、ですか?」


「もちろん! 魔王も悪いけど、地位が偉いだけで無能なのも罪よ! 私、そういうの見逃せないタチなの!」


「軽いです、軽すぎますルミナ様!」


「ミレイーッ! 放送局、出番よーッ!」


 空間がキラリと光を帯び、魔力が空気に混じる。


 次の瞬間――


「呼んだー!? 爆裂☆放送魔女っ子、ミレイちゃん、現場突撃ですっ♪」


 白と金のヒラヒラ衣装に包まれた少女・ミレイ・フラムが、逆さまにくるくると宙を舞いながら登場!


 通りかかった杏奈が、事務室のドア越しにぼそりと漏らす。


「……この国、ほんとどうなってんの……」


 ***


 その頃、フェリィ・ノアールはひとり店の裏で空を見上げていた。


「デルカノスかぁ……行ったことないけど、想像はできる!」


 両手をぱんっと合わせると、空中に妄想ビジョンが展開される。


 ――高層ビルの上を魔導トラムが走り、猫型ロボがパンを運び、蒸気を吐く怪獣ロボと巨大ハンバーガーゴーレムが握手する光景。


「なんてロマン!蒸気と歯車と、友情とバーガー!」


「……フェリィ、何してるの?」


「あっ、ミーナさん! 今、頭の中で戦争と恋とハンバーガーが交差する超大作が上映されてて!」


「……理解不能です」


 ***


 ――数時間後。


 空飛ぶ魔導車《グルメ・フライヤー号》が、デルカノス帝国上空へと突入していた。


 ミレイは天井ハッチから実況中継。


「ただいま《マジカル・ウィッチ放送局》より、緊急潜入レポートをお届け中です!」


「デルカノス帝国、霧の中から姿を現したわ……」助手席のルミナが乗り出す。


 機械の街。回る歯車の時計塔、煙を吹き出す鉄の路地。上空には無数の監視オーブが飛び交い、スチームの香りと金属の軋みが空気を満たしていた。


「うーわ……完全にスチームパンク」


「歓迎されてない雰囲気もすごいけどな」辰人がぼそり。


「よし、行くわよ!」


 ルミナが車体の上に仁王立ち。


「おーい!デルカノス帝国に告ぐ! この辛さマシマシバーガー、受け取ってもらうわよーーーっ!!」


「絶対に交渉じゃないだろそれ!?」杏奈の悲鳴が響いた。


 ***


 政庁前、中央広場。

 ルミナ一行が突撃すると同時に、警備用の魔導機械兵がわらわらと出現。広場を取り囲み、砲台が起動し、街の上空には警戒音が鳴り響く。


「身元を明らかにせよ。我が国の中枢に不法侵入とは――!」


「はーいっ、こちら《マジカル・ウィッチ放送局》でーすっ☆ 本日も生中継で突撃取材中っ♪」

 ミレイが笑顔で応えると、機械兵たちの動きが一瞬止まった。


「なっ、生放送だと!?」

「回線を切れ!……切れない!? 全魔導通信、乗っ取られている!?」

「このルート、封鎖できません!?」


 混乱する警備陣を横目に、ルミナはすっと前へ出る。


「このバーガーは――デルカノス帝国政府様への、正式なクレームよ!」


 政庁の扉が開き、重厚な機械のローブを羽織った帝国技術大臣が現れる。


「貴様ら……何のつもりだ。愚かな騒ぎはやめろ。我が帝国は理と制御に従い、混乱を排除する」


「えーと、ちょっと黙っててくれる?」

 ルミナが指をパチンと鳴らすと、次の瞬間、辛さマシマシバーガーは一瞬で消え、大臣の口にワープイン!


「グボォ……!? な、何を……が、があああああッ!!」


 黒煙が噴き出し、大臣の身体がねじれ、魔力が暴走。

 背中から巨大な羽が生え、頭部には歯車の角。腹部の炉が赤熱し、蒸気を吐きながら咆哮を上げる。


「デルカノスに……栄光を……秩序を……感情など……不要……!」


 その叫びに呼応し、市街地に点在する魔導機械が一斉に共鳴音を放つ。

 スチームが立ち上り、街中の機械が魔物へと変貌していく。


「市街地に魔物散布って……最悪の展開じゃない!」


 ミレイが空中でホバリングしながら、放送ステッキでビジョンを展開し、叫ぶ。


「危険です! みなさん、すぐに避難してくださいっ! これは――昼ドラで言うなら“婚約発表の場に元彼が突入する回”ですっ! 親族の前で大炎上! 逃げてくださいっ!」


「避難誘導! クラウス、お願い!」


「了解いたしました。皆さま、こちらへ!」


 クラウスが人々を静かに誘導する。

 一方ルミナは、バーガー片手に堂々と仁王立ちしていた。


「さーて、とりあえず一発目は済んだわ。あとは――」


「ちょっと待ってルミナちゃん、私……妄想が止まらない……!」


 フェリィは頭を抱え、空中でぐるぐると回り始めた。


「えーっと……まずはスチームよ! 蒸気がふわあって立ち上がって、歯車がカラカラ回って! 頭にはゴーグル! 胸元には魔導メーター! スカートはもちろんフリルと革ベルトで、スチームブースター付きッ!!」


 彼女の周囲に、妄想がそのままビジョンとして現れはじめる。

 歯車が回り、蒸気が漏れ、空間そのものがきらめくように揺らぎ出す。


「それから……武器はトング型スチームキャノン! 技名は《鋼熱スパイラル・ブレイカー》! 仕上げは――決めセリフ付きのド派手変身っ!!」


 手をパンと打ち鳴らし、満面の笑みで叫ぶ。


 フェリィの妄想エネルギーが、空間そのものを熱く染め上げ、

 ルミナの魔力と共鳴する――!


「想像は力。妄想は魔力。そして今、それがスチームとなって現実になる!」


「よし、それで行こうフェリィ!!!」

 ルミナの声が空間に響き……


 その瞬間――


 ルミナの声が空間に響き、妄想ビジョンと魔力が共鳴!


 光と蒸気が巻き起こり、彼女の体がふわりと浮かび上がる。


「ちょ、なにこれ!? うそ、変身――うわぁぁぁっ!!」


 蒸気が爆ぜ、歯車が弾け飛び、魔法のギアがルミナの全身を包み込む。

 服が変化し、蒸気と魔力でカスタマイズされた魔女っ子衣装へと変わっていく――


 メカゴーグルに、フリルと革ベルトのついた歯車スカート。背中には白く蒸気を吹き上げる小型スチームブースター!


 そう、それは――


 《スチームパンク魔女っ子モード》!!


「な、なにこれ!? この衣装、私のテンションもスチームで燃え上がるんだけどっ!」


「“怒れる魔女っ子、鋼の美学”って感じでっ!!」


 フェリィが空中でポンポンを振るように舞いながら、大歓声を上げた。


 目の前では、魔物と化した大臣と、デルカノス帝国の魔装兵器部隊が暴れ始めていた。

 魔導キャノン、浮遊砲台、シールドドローン――都市を蹂躙するその姿は、まさに“暴走する過去の遺産”。


「クラウス、千尋、放送は続けて!」


「はい、ルミナ様。放送は続けております」


「街の魔力反応、安定してきてるよー!」

 フェリィが測定器をぐるぐる回しながら空を舞う。


 ルミナはぎゅっと拳を握ると、スチームの噴出音とともに前へと踏み出した。


 背中のスチームブースターが白く燃え上がり、ルミナは弾丸のように飛び出した!


 浮遊砲台が反応し、魔導レーザーを発射――

 咄嗟に体をひねってかわしつつ、ルミナは左手を掲げ、展開した魔法障壁で連射を受け止める!


 地上ではドローン型の魔装兵器が急降下し、通行人をさらおうとしていた。


「させないッ!!」


 蒸気の反動を利用し、ルミナは地面に蹴り込むように着地。

 振り返りざま、魔力を練り込んだ右拳をそのままドローンに叩きつける!


 ガガッ――ンッ!!

 破裂音とともに、歯車が飛び散り、機体が火花を散らして墜落する。


「人を道具みたいに扱って……! 誰かをさらったり、嫌な思いをさせたり――そういうの、もううんざりなのよ!!」


 怒気を帯びた瞳で、ルミナは上空の魔導キャノンに目を向ける。

 そのとき、魔物大臣が乗った司令機がルミナへ向けて黒紫の魔力砲を放つ!


 ギュオオオッ――!


「っ……!」


 ルミナは再び空へ舞い上がり、横回転で回避。しかし、右肩がかすり、衣装のフリルが焦げる。


 ――けれど、その顔には笑みすら浮かんでいた。


「……これくらい、ちょうどいいわね」


 瞬間、蒸気圧を極限まで高めたブースターが音を立て、ルミナは一気に加速!


 ビルの上空を越え、旋回しながら敵の背後を取る。

 両手に集めた魔力が、赤熱のスパークとなってほとばしる――!


鋼熱こうねつスパイラル・ブレイカー!!」


 ルミナの全魔力を込めた一撃が、砲台とドローン、そして大臣の乗った機体を一閃する!


 空を裂くような轟音。

 蒸気の渦が巻き起こり、機械の咆哮がかき消される。


 地上では、さらわれかけていた少女を辰人とクラウスが無事に保護し、安堵の表情を浮かべる。


 空からルミナが静かに降りてくる。蒸気を引きながら、焦げ跡のついたフリルを気にせず、毅然としたまま。


「人を泣かせるような正義なんて、いらないのよ……」


 その言葉に、風が静かに応えた。


 ***


 事態は終息。


 この街そのものが、ルミナたちとデルカノス国民へ――

 新しい“希望”に形を変え始めていた。


 その夜、まちは光と香りに包まれた。

 広場では祝祭が開かれ、焼き立てのバンズと笑い声が空を舞う。

 かつて無表情だった人々の頬が紅潮し、ぎこちなくも笑みが浮かんでいた。

 それはまるで、長い眠りから目覚めたような表情だった。


 王族からの感謝の言葉とともに、ルミナたちの名が、英雄としてたたえられる。

「でも、いちばんすごい魔法は――“美味しい”で人を笑顔にすること、だと思うんです」


 そう語るルミナの手には、どこかの子どもが差し出した、ほんの少し焦げたバーガー。


「……うん、ちょっと焼きすぎ。でも……すっごく、あったかい味」


 ルミナはにっこりと笑った。


「だから私、決めましたーっ!」


「これは嫌な予感がします」


 とクラウス。


 両手を高く掲げ、でかでかと宣言する。


「このデルカノスにも――魔女っ子バーガー2号店、開店しまーすっ☆」


「ルミナ様……。申請は?」クラウスが後ろで唖然としている。


「だってさ、こんなにお腹すかせてたんだよ? 心が、だよ?

 これはもう、出店しろって神のお告げだよ! もしくは胃袋のお告げ!」


 まわりが笑いに包まれる中、ルミナは満足そうに空を見上げた。


「争いも、憎しみも、裏切りも――

 バーガー一個で消えるとは思ってないよ? でもさ」


 ふわりと夜風に髪を揺らしながら、彼女は静かに語る。


「ひとくちでも『うまっ』って笑えたなら……その人、ちょっとだけ前を向けるかもしれないじゃん?」


 空に浮かぶ満月の下で、ルミナは最後のひと口を頬張る。


「――やっぱ人生、満腹が勝ちっ☆」


 魔法の花火が夜空に打ち上がる。


 その輝きは、祝福と希望と、ちょっぴりソースの香りが混ざった――

 異世界で一番“おいしい”未来のはじまりだった。



 ***


 ――数日後、王都の屋上。


 ルミナが空を見上げる。


「感情を奪われた街でも、ちゃんと笑えるようになったんだね」


「はい、ルミナ様の怒りと、少々無茶な手段が、民を救ったのです」クラウスが微笑む。


「……少々、ね♪」


 ルミナがくるりと振り返る。


「さーって、次は――南方群島“パラリナ諸島”! バカンス計画、発動よっ!」


「あれ?2号店は?!」杏奈、クラウス、千尋、全員の声が揃った。


「準備はもうバッチリよ♪ バカンス終わったら、2号店始動だからっ!」



 次回――


『パラリナ諸島、到着!のんびりバカンス……のはずが?』


 どうぞお楽しみに☆


 ――To Be Continued!


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