第32話:眠りの花園と甘味の幻宮。素材採取へ向かいます!
南西の地――霧にけぶる花の森〈眠りの花園〉。
ここは、甘い香りに満ちた静かな夢の領域。
空気にはいちごミルクのような芳香が立ちこめ、風が吹けばシュガーパウダーが舞う。
道なき道を進むのは、クレープ店チームの面々!
「視界……ぼやけてきた。霧のせいか、それとも糖分過多……?」
キラキラと花粉が舞う中、王女セレナ・フローラリアが慎重に足を踏み出す。
その背後では――
「ララ、寝るな!もう三回目だぞ!」
「むぅ……この森……眠気を誘う魔力が……zzz」
俊足の兄ティオが、脱力した妹ララを背負いながら文句をこぼす。
メロンパンAI「ピポ!この空間、睡眠効率112%です!オススメお昼寝コースです!」
「お前もかい!!」
エルミナのツッコミが飛ぶ。既にメロンパンAIは浮かびながら目を閉じかけていた。
「ふわぁ……でも、なんだか安心する場所ですね……」
花びらのシャワーに包まれて、フローラはうっとり。
(全員、甘味に飲まれかけている……これは、やばいのでは?)
そう感じたエルミナが振り返ったとき――
「……見て。空!」
霧の奥に現れたのは、雲の上へと伸びる――
光る階段。
「……甘味の幻宮。あの先に、何かがあるのですね」
そこには、雲のベールをまとったまま、空にそびえる幻想的な塔の影が見えた。
まるで夢の中のお菓子の城。
「行きましょう。目的は素材採取。……あと、ドリンク用の新しい果汁も確保したいところですわ」
セレナがスカートを翻し、先導する。
甘さに隠されたスパイス系植物。
クリームを吸う小さなキノコ。
バター香る葉っぱのような草。
「それにしても、甘い……すべてが甘いのですわ……」
セレナがため息混じりに言ったそのとき――
「ぴぃいぃ!プディング型モンスター、接近中!」
光る階段の手前に、突如ぷるんと揺れる黄金色の物体が出現。
「プリンゴーレム!?でっかい!……って、焦げてる!?いや、カラメルか!?」
「振動分析完了、これは……重たいです!」
メロンパンAIが大気振動を検出。
「どうやら、彼は“揺れ攻撃”を仕掛けてくるようですね」
エルミナが冷静に解説し、すぐにセレナが剣を抜く――と思いきや。
「……クレープのトッピングには、少しサイズが……」
と呟いてスルー。
プリンゴーレムのジャンプにより地面が揺れ、フローラが転んでララとぶつかる。
「いたたた……あっ、見てください!」
転んだ拍子に、地面に埋もれていたベリーのような果実が顔を出した。
「……これは、“星夢ベリー”!」
ララの目がぱちりと開き、意識が戻る。
「この森にしか生えない、幻の甘味……きっと、甘味の幻宮のエネルギー源……」
収穫モードへ突入した一同。
幻宮の外縁で、小さな素材を次々と採取していく。
ふわふわのクリーム苔、しっとりした砂糖花のつぼみ、しゃりしゃりとした氷菓草の葉――どれも見た目も香りも魅惑的。
「ぴぴ!シュガーハーブ発見!」
メロンパンAIが嬉々として分析を続け、ティオは跳ねるように花畑の奥へと走る。
「こっちにもあったぞー!ルミナの好きそうなやつ!」
だがその時だった。
存在を無視されていたプリンゴーレムが、突如ブルブルと震え始めた。
「……あれ、まだいたの?」
「うわっ、怒ってる!?」
「プリンのくせに地震級の怒りっぷりだぞ!」
ゴゴゴ……と地鳴りのような振動とともに、巨大な影が地面を揺らしながら動き出す!
「ぴぃぃぃぃ!!戦闘再開です!逃走経路の確保をー!」
「ま、まずい!素材回収、いったん中止ー!!」
甘味の夢に包まれていた幻宮の空気が、一転して激戦モードへと変わっていく――
同時刻――王都・マジカルウィッチ放送局 実況ブース。
「本日も中継を担当いたしますのは、あなたの昼ドラ魔女っ子☆ミレイ・フラムでーす!」
ミレイがカメラにウィンクを送る。
隣では、実況解説席のルミナが――
「……すぅ……Zzz……ん……あれ……私のバーガー……食べたの、だれ……?」
「おおっと!?実況席でルミナ様、爆睡中ー!?眠りの花園の効果がこんなところにもー!?」
「ルミナ様!お目覚めを!中継中でございます!」
「えっ?あっ!はい!実況してましたとも!!」
バッと起きて、頭を振るルミナ。すかさず――
「……ねぇ、クラウス。なんか……緑の飲み物、飲みたくなってきた」
「では、お茶でございます」
静かに湯呑みを差し出すクラウス。
「ちがうっ!緑の……炭酸で……冷たくて、あまーいやつ!」
「……メロンソーダでございますね」
「それっっ!」
「……口腔内、甘さ過積載になりますが……承知しました」
「……ほんとに実況なの? 好き放題すぎでしょ……」杏奈が呆れ顔でぽつりとこぼす。
「そうですね……実況席が夢の世界に旅立っております。前代未聞ですね」
「ちょっと、クラウスさんその言い方なんか怖い」
そのころ現地、幻宮入口では――
「出たわね……スライム軍団」
ドロリと迫る、チョコスライム。
とろける笑みのアンコスライム。
泡立つホイップトカゲが口を開く――
「ティオくん、捕まるとべたべたですよー!」
と叫ぶフローラ。ティオは跳ねながら応戦!
「これ絶対、洗っても落ちないやつだあああ!!」
「核の位置、特定しました。突入します」
エルミナは真顔でホイップトカゲに肉薄。
「発酵状態良好、クリーム抽出します。……ふむ、素材合格ですわ」
素材ゲットに燃えるエルミナ。
そのとき――
「……甘くないやつ、来た……」
ララの指差す先。
そこには――
マヨスライム。
「おいっ!?なんでお前だけ調味料枠!?」
「素材なの?汚染なの!?どっち!?」
「うわ、酸味が!酸味がっ!!」
チーム混乱。しかし、なんとか全員で退治成功。
「よし……これで予定していた素材は概ね……」
そのとき、実況席のルミナが叫ぶ!
「待って、それ私欲しかった素材!たくさんとってきてー!」
「ティオ、頼める?」
「オッケー!魔女っ子のためならたくさん取ってくるぞ!」
ティオが親指を立て、キラリと歯を光らせる。
「ルミナ様、実況中に私的リクエストは控えてくださいませ」
クラウスが冷静にツッコむ。
「いやでもあれはレアだし!後でバーガーに使いたくて!……あ、マヨスライムの成分もチェックしといて!」
「マヨネーズ!それは昼ドラのようにドロドロのような素材!」
ミレイが魔法スクリーンに向かって叫ぶ!
「……あんたたち自由すぎないか……」
杏奈が冷静にツッコミ。
「ララちゃん、なにか感じる?」
セレナが尋ねると、ララはしばらく目を閉じた後、ぽつりと呟いた。
「この先に……すごく強くて、甘くないものがいる……」
そして、彼らの前にそびえ立つのは――
虹色の宝石がはめこまれた、大理石の大扉。
静かに、扉の奥から聞こえてくるのは……鼓動のような音。
熱気。怒気。
甘さとは対極の、焼け焦げたような気配が滲み出していた――
「……この先に、何かがいる。とても、甘くないものが」
次回――
「炎熱の決戦!パンナ、あの日の因縁にトールハンマーで応えます!」




