表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/53

第29話:ルミナ覚醒!――ダンジョン決戦!

 煙の中から、立ち上がる黒い影。


 それが、このダンジョンの“主”だった。


 全身を黒き魔鎧に覆い、顔は兜の影に沈む。名も知らぬその存在は、ただ“在る”だけで空間に重圧を生み、地面を軋ませる。


 その気配――圧倒的な魔力と、肌を刺すような殺気。

 視線が鎧の奥へと吸い寄せられたとき、記憶の底から――忘れたくても忘れられない光景が蘇る。


 (……この気配……まさか……)


 焼け焦げた瓦礫の中で、仲間が倒れ、涙をこらえて魔法を放ち続けたあの夜。

 その前に立ちはだかっていた、絶望の象徴――黒き鎧の男。


 「……あなた……あのときの……!」


 ルミナの声は震え、思わず杖を強く握りしめる。


 鎧の男は、その声にわずかに反応し、低く、冷ややかに言い放つ。


 「……あの夜の小娘か。まだ生きていたとはな。忌々しい……」


 甲冑の隙間からあふれる魔力が、再び空間をきしませた。


 ――その瞬間、冷静な声が響く。


 『視聴中の皆さま、注目ください。黒き鎧の男は、ルミナ嬢が過去に対峙した個体と一致する可能性があります。魔力波形の類似性、行動パターンから見ても、因縁の再戦とみて間違いありません』


 千尋の理知的な声が、魔力の高まりを的確に伝えていく。


 『なお、この魔物はかつて王都が襲撃された夜。複数の犠牲者が出た事件の主犯格と推定されます。今回、彼女自身の手で“因縁の決着”がつけられるかが焦点となるでしょう』


 「……決着、ですか」


 《マジカル・ウィッチ放送局》のクラウスが実況席で控えめに呟く。その隣ではいろはが青ざめていた。


この魔物によるダンジョン内、全区域にわたり魔力の流れが変化し、それは……まるで、この存在がすべてを支配しているかのようだった。


 その中心に立っていたのが――辰人だった。


 彼は斧を肩に担ぎ、巨大な敵と対峙していた。


「てめぇが……この洞窟のラスボスってわけかよ」


 全身から炎のような闘気を立ちのぼらせ、筋肉に魔力を巡らせていく。


 巨体が一歩、また一歩と前へ。


 踏み込みの瞬間、地面が砕けた。


「喰らえぇええええっ!!」


 正面から振るわれた斧の一撃は、音速を超えたかのような風圧を生み出し、洞窟全体を震わせる。


 しかし――


 ガキィィィィン!!


 激突したのは、黒き鎧の男の剣だった。


 重々しい鉄の音が響いた刹那、辰人の斧が真っ二つに砕けた。


「なっ……!」


 鉄よりも堅牢なはずの斧が、まるで飴細工のように破壊される。


「くそっ……!」


 柄を投げ捨て、辰人は咄嗟に距離を取る。


 黒い剣の男は無言のまま、一歩踏み出しただけで地面に亀裂が走る。


 その存在は――まさに破壊の権化。


『ご覧ください! 筋肉の化身、辰人の全力の斬撃を受け止めた上に、武器を破壊!? この敵……尋常ではありませんっ!!』


『戦略変更を! 辰人くん、無理しないで! 下がって!』


 千尋の声が中継に割り込む。


 しかし――


「こっちは、退く気はねぇ!」


 辰人が拳を握った瞬間、砕けた斧の柄から光が弾けた。


 その時だった。


「援護入るっ!」


 隼人が叫び、魔導モバイル端末を操作する。


 画面上で展開された魔法回路が連動し、《スウィートアーマメントⅢ号》――あのキュートで強力なミニ魔導戦車が応答する。


 キャタピラを轟かせながら戦車が突進し、自動砲が回転。


 バババババッッッ!!!


 甘いキャラメルの香りを残しつつ、エネルギー弾を連射。


 ――だが。


 黒き鎧の男が剣を振ると、その一閃で放たれた弾丸がすべて弾かれる。


 次の瞬間――


 ザンッ!!


 光と闇が交錯したかのような軌跡が走り、戦車の砲塔が真っ二つに断たれた。


「えっ!? 嘘、まって、うそでしょ……!?」


 フェリィが悲鳴を上げる。


『スウィートアーマメントⅢ号がっ……!? あれだけの装甲を……一撃で!?』


 クラウスも言葉を失う。


 戦車は大破。


 戦況は、決して楽観できるものではなくなっていた。


「フェリィ、後ろ下がれッ!」


 隼人が前に出て、モバイル端末をしまうと、手にした魔導銃を構えた。


「杏奈、ルミナ、こっちに連携してくれ!」


 だが――ルミナはすでに動いていた。


「――《フレア・テンペスト》!」


 彼女が振り上げた杖から、灼熱の竜巻が黒き鎧の男へと放たれる。


 巻き上がる魔炎が洞窟を照らす。


 しかし。


 ズ……ン……。


 火炎の中から、無傷のまま現れる黒き鎧の男。


「通じて……ない!?」


 ルミナが唇を噛む。


『えっ!? 魔法、無効!? いえ、魔法耐性の可能性もありますっ! どちらにせよ……この敵、規格外すぎる~~!! まるで別次元の存在だよっ!』

 ミレイの実況が熱を帯びる。


 仲間たちは一斉に距離を取り、体勢を立て直し始めた。


「これ、食べて」


 杏奈の手には、丁寧に包まれた包みが握られていた。包みを開くと、中には見慣れた――けれど異常なほど濃厚な香りを放つ――黄金色のカツが挟まった、分厚いバーガーがあった。


「“特製かつ丼バーガー”。ダンジョン素材をめいっぱい詰め込んで作った、最高の応援料理よ!」


 火竜トマトのソース、とろける炎玉チーズ石、フレアミントのスパイス。


 その匂いが、記憶のどこかを呼び覚ました。


(……杏奈……)


 彼女の差し出す手から、あの日の厨房の記憶が蘇る。

 初めてかつ丼を試作していたとき、焦げ付かせて、ふたりで大笑いした――


 その笑顔が、脳裏に浮かんだ。


「ありがと。……いただきますっ!」


 ルミナはその“特製かつ丼バーガー”を両手で掴み、豪快にかぶりついた。


 ――バリッ。


 溢れ出る肉汁のかつ丼バーガーが、ルミナの口いっぱいに広がった。


「……んっ! これ……すご……!」


 ひと口で、ルミナの魔力の波動が跳ね上がる。


 次の瞬間――


 ドンッ!!


 魔力が広がり、洞窟そのものが震え始め、空間が光と風で揺れる。


 ルミナの瞳が輝きを放ち、マントがぶわっと風に煽られるように立ち上がった。


「いっくよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 その叫びに合わせるように、フェリィが跳ねるように前へ出る。


「まってましたっ☆ このために考えておいたんだから!」


 空想魔法が解き放たれ、周囲に魔法陣が幾重にも浮かび上がる。


 キラキラと輝くそれらが重なり、純白の布地と銀糸の刺繍が交錯するように空中で舞い、気品と力強さを併せ持った白銀のローブが形作られていく。


「見た目はキュート、でも戦闘力もバツグン! 空想力全開モード、起動☆」


 ルミナの身体に、装備が装着されていく。


 白銀に光を宿すローブは、流麗な装飾と繊細な銀糸の縫い目が星のようにきらめき、背には天翼の紋章が魔力で刻まれる。そして両手に現れたのは、幻想を具現化した両手剣セレスティアル・グレイス


 その剣は、光の粒子を凝縮したかのように透明感があり、中心には脈打つ魔力のコアが宿る。刃のエッジには古代文字が輝き、振るうたびに風と光を生む――まるで“希望そのもの”を具現化した剣だった。


「よし……いける……今なら……!」


 全身に魔力をまとったルミナが、再び立ち上がる。


 クラウスの実況が響く。 『ご覧ください! これぞ魔女の本気――否、剣聖の覚醒です!』


 ルミナの足元に魔法陣が集束し、風と光がうねる。


 黒き鎧の男が静かに剣を構える。


 ルミナもまた、両手に剣を持ち構えた。


 その一閃。


 剣と剣が激突し、魔力の火花が洞窟の天井を照らした。


「……逃げてもいいのに、まだ来るのか」


 黒き鎧の男の低い声。


「もうあの歴史は繰り返させない! 誰もが、笑って食べられる世界にするためよ!」


 斬撃、火花、回避。再び接近し、ぶつかる。


 そのたびに空間が軋む。


 ルミナは剣をくるりと回転させ、空中を跳躍しながら、螺旋のような一撃を放つ。

「はぁぁあああああっっ!!」


 回転する白銀のローブが流星のようにきらめき、黒き鎧を何度も切り裂く。


『すごいっ、すごいよルミナちゃん!!』

 ミレイの声が高鳴る。


『日曜の私の魔女っ子アニメより派手じゃん!? くやしいっっ!!』

 なぜかスタジオで悔しがっているミレイ。


 杏奈は拳を握りしめ、祈るように見つめた。

(負けないで……)


 隼人は小さく呟く。

「……やっぱ、すげぇな。ルミナって」


 その瞬間、洞窟の奥で――


 ルミナが魔力を一点に集中させる。


「――見せてあげる。これが、私の全て!」


 《セレスティアル・グレイス》が眩い光を放ち、両手に剣を構えたまま、ルミナは跳ぶ。


 白銀のローブが天翔ける。


「《ディメンション・エクリシス》――!!」


 放たれた一撃は、空間ごと軋ませ、時空そのものに亀裂を走らせる。

 剣が描いた軌跡は、視認できぬ速さで空を断ち割り――

 巨大な亀裂が、黒き鎧の男と背後のクリスタルを包み込む。


 その一閃は、次元を超えた斬撃。


 世界が、切り裂かれた。


 ――ギンッ!!


 高音の破裂音。


 刹那、黒き鎧の男が絶叫する。

「バカな……この力は……!!」


 爆発的な光の中で、男の姿が崩れていく。

 同時に、魔力クリスタルが粉々に砕け散った。


 ギギギギギ――ッ!!


 大地が悲鳴を上げるように震え、天井が崩れ始めた。

 地面が割れ、壁が崩れ、あちこちから光が漏れる。


 その中で、クラウスの実況が響き渡る。


「かつて王宮の壁を破壊してバーガー屋を開き、今度はクレープ屋の開店まで成し遂げた令嬢が――ついには、ダンジョンにて己の過去と決着をつけられました。……もはや何を成しても驚きませんが、それでも称賛は惜しみません。これぞ、“魔女っ子バーガー1号店”の真骨頂でございます。」



「クラウス褒めてるのかわからないわ!いまだよっ、みんな!!」


 ルミナの手に最後の魔法陣が浮かび上がり、空間にゲートが開いた。


 白銀の光が満ち、仲間たちが走り出す。


「行こう、戻ろう! 私たちの場所に!」


 手を取り合い、杏奈、隼人、フェリィ、辰人、そしてルミナがゲートを駆け抜ける。


 いろはの声が締めくくる。

『ダンジョン、クリア! 魔女っ子バーガー1号店、勝利です!!』


 この戦いの果てに待つのは、きっと次の一歩。そして、笑顔と料理の未来だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ