第2話:魔女っ子バーガー1号店、はじめます!
まさか空腹の魔女が召喚魔法を使ってくるとは――
そんなこと知る由もなく、今日も元気に働いていたバーガー店員たち。
だけどこの日、“ドオォン”という音と共に、運命の歯車が回りはじめたのです。
ここから物語が本格的に動き出します!
正午のピークタイム、マジカルミートバーガーに怒涛の注文が舞い込む。
「チーズバーガー3個注文入ったよー!」
揚げたてポテトが宙を舞い、バンズの焼き目が踊る。
「よし、ポテトに塩爆弾、空中投下します!」
隼人がFPSのノリでフライヤーを軽快に捌く。
「筋肉が喜ぶ厚焼きパティ入りまーす!」
と辰人が力こぶつきで叫ぶ。
「何の戦場ですかここ……」
と冷静ないろはが、アニメのキーホルダー付きのドリンクサーバー前で袋詰めに集中する。
そしてカウンターでは、星見杏奈がスマイル担当……のはずが、
「この店内ちょっと暑苦しいですが……慣れてください」
「接客に毒を混ぜないで!? いやむしろスパイスなの?」
と千尋シフトマネージャーが小声でフォローしていると──
ドオォォォォォンッ!
――店が、浮いた。
厨房全体が揺れた。ケチャップが舞い、ポテトが宙をさまよい、バイト全員が硬直する。
巨大な魔法陣が床に出現し、発光。そして一瞬の静寂のあと、
マジカルミートバーガー店舗まるごと、異世界に転送された。
「………………」
「いや、なにこれ???」
外を見れば、見慣れない石畳の街、行き交う馬車、マントの人々、そしてファンタジーな空気感。
完全に、異世界。
「リスポーンポイント間違えたか」と隼人がつぶやく。
そんな混乱の中、扉が開いた。
チリン──とベルの音と共に、
フラフラと、ふらつきながら入ってきたのは……魔女っ子。
「おなか……すいた……っ」
そのまま、バフッとカウンターに突っ伏して倒れこむ。
マントからのぞく魔法の杖。きらめく魔石のアクセ。どこからどう見ても、魔女っ子。
「お、お客さん倒れた!?」
「大丈夫ですか!? 口元木屑だらけですが?」杏奈が声をかける。
ざわつく店内に、すっと黒スーツの執事クラウスが現れた。
「ご安心ください。お嬢様は少々空腹の限界だっただけです」
「少々の範囲、広すぎません!?」と千尋が突っ込む
さらに、メイド服のミーナと、浮遊するフェリィも駆け込んでくる。
「ルミナ様!? お腹空いたって言っても異世界から店を召喚するなんて!」
「……ハンバーガーの香りに……吸い寄せられたの」
魔女っ子が起き上がり、指をピンと立てて叫ぶ。
「ハンバーガーとポテトと、あと……シュワシュワを希望する!」
シュワシュワ。
クラウスが一歩前に出て、右手を胸元に当てて丁寧に一礼した。
「お嬢様、シュワシュワは……麦茶にしましょう。カフェインも控えたほうがよろしいかと……」
「ええ~!? シュワシュワしたい!」
「そもそも我々、この世界で炭酸を見たことも……いや、なぜ知っているのか……」
「やだ! シュワシュワじゃないと魔力が戻んないもん!」
お嬢様のわがままに仕方なくクラウスは注文をする。
「このマジカルバーガーセットというものを4つ。ポテトは塩分控えめで、浮腫んでしまうといけませんので」
クラウスは胸ポケットから銀貨を取り出し、カウンターに置いた。
「お会計は……この銀貨でよろしいでしょうか?」
千尋がひと目でそれを見て、即断する。
「……OK、受け取りまーす!」
注文は入った――しかし次の瞬間、電源が、落ちる。
厨房の機材が止まり、冷蔵庫が唸り、ディスペンサーのランプが消えた。
「え、ええ!? 電気止まった!? 電気異世界にある!?」
「これは提供できませんね、あきらめましょう」と杏奈がすぐ諦めようとする。
「あたしに任せなさいっ!」
魔女っ子、腰のポーチから魔石を取り出すと、厨房のコンセントに向かい――
「ぶっ刺す!!」
ズボッ!
パキィィィンと魔石が輝き、店内の電源が全回復!
「で、電気通ったぁ!? 魔石万能すぎない!?」
「めっちゃくちゃするな」とミーナが呆れる
かくして、マジカルバーガーセットが完成。
「いただきまーす!」
魔女っ子が、がぶりとバーガーにかじりついた。
「なにこれ……パンのふわふわと、肉のジューシィ……! ポテトもカリカリ! シュワシュワも最高!!」
「……!」
クラウスが無言で目を見開き、バーガーを口にする。
一口、また一口――
その頬を一筋の涙が伝った。
「ハンバーガーで、泣くなよ!?」
「いや……これは……食の魔法……」
千尋が「このバーガー食べたら現代戻してくれるんだよね?」と聞くと
「もぐもぐ……」
「……」
「……戻し方の魔法、わからない」
「……マジで?」「嘘でしょ」「バイト、永住ですか」
一同がぽかんと固まる中、ルミナがぱっと立ち上がった。
「よし……じゃあ、決めた!」
クラウス、顔をひきつらせた。
「お嬢様……これは嫌な予感しかしません……」
魔法少女が、ビシィッと指を突き出す。
「この店、気に入った! このまま異世界で営業する!」
「えええええええええええええ!?」
魔女っ子、くるりと一回転し、マントを翻す。
「マジカルミートバーガー改め――」
\\魔女っ子バーガー1号店、はじめますッッ!!//
続く!
召喚した勢いで始まる魔女っ子バーガー1号店。
これから波乱がまっている……。