第27話:ルミナの光、街に届く。静かな夜明けと未来のために
──明け方の空に、ひと筋の光が差し込み始めていた。
ルミナは毛布を肩に掛けたまま、静かに体を起こした。頬に触れる空気はまだ冷たいが、炎のぬくもりが残っている。
「おはよう」
焚き火のそばで湯を沸かしていた隼人が、マグカップを差し出した。
「……ありがとう」
ルミナはそれを両手で受け取り、一口すする。湯気とともに、胃の奥から温かさが染み込んでくる。
「見てたよ、夢」
隼人が、唐突にそう言った。
「……えっ」
「というか、全員が、な。街も」
「……街?」
ルミナが眉をひそめると、隼人は苦笑した。
「“マジカル・ウィッチ放送局”が、勝手に中継してた。あれが夢だったのか、魔力の記憶だったのかはわからないけど……少なくとも、全部映ってた」
ルミナは目を見開き、湯を吹き出しそうになるのを必死にこらえた。
「よりによって……うわ、ミレイに見られたとか最悪……!」
「いや、案外泣いてたぞ。実況席でも。クラウスも目ぇ閉じて動かなくなってたし、いろはも無言になってた」
「うそでしょ……!」
「……うわあ、タイミング悪いなぁ……」
ルミナは毛布に顔をうずめたまま、頭を抱えた。
だが、隼人の声はやわらかだった。
「それでも、良かったと思う。みんな、見てたよ。お前が、どんなふうに生きてきたか」
ルミナはそっと起き上がり、まだ冷たい空気に肩を震わせながら焚き火に手を伸ばす。
「誰にも、言わないつもりだったんだけどな……。でも、ちょっとだけ、肩が軽くなった気がする」
その言葉に、後ろから眠そうな声が重なった。
「……うん……わたしも、泣いちゃった……」
フェリィだった。丸めた羽をほぐしながら、もぞもぞと毛布の中から顔を出す。
「ルミナの魔法、かっこよかったよ……パンナさんも……」
「ちょっ、あたしも起きてるから! そんなしんみり空気で始めないでよね……!」
杏奈が髪を結び直しながら、半ば照れたように叫ぶ。
「ま、でも……あれ見たらさ、なんかもう、気合い入れ直すしかないっていうか……!」
焚き火の向こうでは、辰人が黙って鍋をかき混ぜていた。火核ゼラチン入りのスープから、香ばしい湯気が立ちのぼる。
「俺も、見たぜ。泣いたりはしねーけどな。でも……」
そう言って、辰人はルミナに正面から向き合った。
「お前、すげえよ。魔法が強いとかじゃねぇ。諦めなかったのが、マジですげえ」
「……ありがとう」
ルミナは、焚き火の光に目を細めながら微笑んだ。
そのころ、聖都アルフェリア――
かつて、幼い少女が灯した小さな魔法の光。
焼け落ちた街。
雷槌の降臨。
そして、誓い。
そのすべてが、静寂の中で見守られていた。
「……これが、ルミナ様の……」
街角のパン屋で、焼き立てのパンを手にした少年が呟く。
「嘘でしょ……あの子、そんな過去が……」
メイド服の女性が胸を押さえ、涙ぐむ。
実況席でクラウスは目を閉じたまま、眉をわずかに動かした。
「……あまりにも幼いながらに、背負いすぎておられた」
「これ、昼ドラ枠超えちゃってるよ……!」
ミレイがタオルで目元を押さえながら、真剣な表情でつぶやく。
「でも、綺麗だった……“魔法”って、こんな風にも人を救うんだね」
千尋がそっと声を乗せると、いろはが実況席で小さく頷いた。
「うん……今、聖都中が、ルミナに声援を送ってる。聞こえてるかな……?」
──場面は、ダンジョンへ戻る。
「えー、というわけで!」
ミレイの声が再び耳飾りから鳴り響いた。
「現在、王女セレナ様より『ルミナの勇気は、わたくしの誇りですわ!』とのお言葉を頂戴しました!感動の渦です!」
「街の声も多数! 『ハンバーガー食べに行きたい』『雷ハンマー最高』『録画して保存した!』などなど!」
「やめてえぇぇぇぇぇ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶルミナ。
仲間たちは、思わず吹き出した。
「……なあ、ルミナ」
隼人が、ふと真面目な声に戻る。
「お前さ。もう、ひとりで背負うな。なにかあったら、ちゃんと俺たちを頼れよ」
「そうそう。あんたの過去、あたしたち全員で見ちゃったんだから、いまさら隠し事してもムダなんだからねっ」
「うむ。筋肉は何でも受け止める!」
「空想も!!」
ルミナは、少しだけ目を潤ませながらも、強く頷いた。
「……うん、わたし……もう、逃げない。みんながいるから。どんな敵が来ても、絶対、負けないよ」
その言葉に、焚き火の火がぱちりと音を立てる。
そのとき、千尋の冷静な声が通信に入った。
「全員、聞いてください。ダンジョンの魔力反応に変化あり。深層部にて、異常な魔力の“うねり”が観測されています。……きっと強い敵がいます」
全員の表情が引き締まる。
──決戦が、近い。
「……よし」
ルミナが立ち上がる。魔導具を装備し、ローブの留め具を締め直す。
「いこう。世界を壊そうとするものがあるなら、今度は……あたしたちが壊す番よ」
「まったく、出陣前に泣かせるんじゃねえよ……」
隼人が小さく笑いながら、魔導銃を肩に担ぐ。
「街の皆さん、実況もお楽しみに! “魔女っ子バーガー一行”、ただいまより、ダンジョン第三層に突入します!」
いろはの明るい声が、空に響いた。
──そして一行は、火の香りと希望を胸に、灼熱の階層を越えて歩き出す。
その先に待つのは、未知の魔物か、あの黒い鎧か。
だがもう、ルミナはひとりではなかった。
仲間とともに進むその背中は、確かに──未来へと、光を灯していた。




