第25話:灼熱の中でほっと一息!キャンプごはんと、仲間の素顔
灼熱の〈焔の牙山〉ダンジョン、地下第二層。
それまでの灼熱が嘘のように、空気が一転してひんやりとしていた。
「……なんか、急に涼しくない?」
ルミナが立ち止まり、額の汗をぬぐいながら振り返った。
「おう、助かるっちゃ助かるけど、逆に不気味だな……」
辰人が腕を組み、岩肌を見上げる。
「気圧と温度の落差が激しいです。地熱の断層がずれてるんでしょうか」
魔導地図を睨みつつ隼人が答える。
「ふぇぇ、でも冷えてきて助かったぁ……!」
フェリィが肩に羽織っていた布をきゅっと締めながら、ホッとしたように宙を漂う。
そのときだった。
ふら、とルミナの足元が揺らぐ。
「ルミナ!?」
隼人が駆け寄ると、ルミナは膝から崩れ落ち、そのまま地面にへたり込んだ。
「……ごめん、ちょっと、魔力が……吸われてる……みたい……」
彼女の頬は蒼白で、唇も乾いていた。近くの岩壁に手をつきながら、なんとか体を支えている。
「チート魔女が調子悪いと、こっちも調子くるっちまうからな……ったく、頼りすぎかよ」
隼人が低く言いながら、そっとルミナの肩を支える。
「わたし、もう少し冷却グッズ出すね!」
フェリィが宙をくるくる回りながら、喋りつつイメージを語り始める。
「こう、帽子の中に氷の妖精が入ってて、頭をひんやり冷やしてくれるの。あと、冷却マント! フリルがついてて涼しげで、背中に氷袋が入ってるの! それに、ほら、耳元で小さな風が吹くようなイヤリング型送風機とかどう!?」
彼女の妄想に合わせ、フェリィが魔力を練り上げて――
ぽんっ! と、可愛らしい魔法冷却アイテムが現れる。
「冷やすだけじゃ治るわけじゃないけど……ちょっとでも楽になればいいよね」
「魔力の枯渇って、体の熱がどんどん逃げてく感じがして……だから逆に冷やすと落ち着くのかも」
ルミナが帽子をかぶり、杏奈が手早くマントを羽織らせる。
「ん、よし……いけそう。ありがと、みんな」
その時、ぬるりと何かが岩影から這い出てきた。
「っ、来たわよ! スライム!」
杏奈がナイフを構え、辰人が巨大なスキレット鍋を手に前に出る。
「でけぇな今回の……!」
「“とろける溶岩スライム”です!体温が極端に高く、倒すと希少な“火核ゼラチン”が採れる可能性が……!」
千尋の実況が魔導通信から響く。
「よし、素材回収も兼ねていっちょやるか!」
隼人が魔導銃を構えた。
スライムの体がぶわっと広がり、熱波のような攻撃を放ってくる。
「距離を取って! ルミナは下がって!」
「っ……任せて、補助魔法だけでも……!」
ルミナは震える指先で、仲間の武器に魔力を乗せる補助を施す。
隼人の銃弾がスライムの中心を撃ち抜き、辰人の一撃で粘液を吹き飛ばす。
杏奈がすばやく駆け抜け、弱点の核部分を切り裂いた。
ぶしゅっ……!
熱い蒸気と共に、スライムは崩れ落ち、淡く赤いゼリーのような結晶が残った。
だが、その直後――さらに奥の岩の裂け目から、同種のスライムがぞろぞろと現れる。
「増えた!? 群れで来るタイプかよっ!」
「もう少し火核ゼラチンを集めるチャンスです!」
千尋の声が高まる。
「まとめて料理素材にしてやるぜっ!」
辰人が気合を入れ直し、再び突撃する。
ルミナも懸命に支援を続け、ついにはすべてのスライムを撃退。
「……これだけあれば、しばらくは大丈夫ね」
ルミナが力なく笑う。
その後、安全な空間を見つけた一行は、キャンプの支度を始めた。
焚き火の香り。小鍋に注がれた出汁。刻んだ火竜トマトとフレアミント、そしてたっぷりの火核ゼラチンを入れて煮込む。
じゅわ、ぐつぐつ、ふわっと香る。
「……美味しそう」
「このスープ、ルミナが復活する鍵になるかもな」
隼人が小さく呟いた。
「食べることで魔力も体力も回復するんだよ〜」
フェリィが得意げに胸を張る。
スプーンを手に、ルミナがひとくち――
「……おいしい」
頬をゆるめ、目を閉じる。
「火核ゼラチン、うまみが身体に染みてくるな……」
辰人がぼそっと呟きながらも、にんまりと笑う。
そのときだった。
焚き火の炎が、ルミナの目に反射して揺れていた。
その光を見つめながら、ルミナがそっと目を閉じる。
フェリィが静かに手を握った。
「大丈夫。もう、ルミナは一人じゃないよ」
仲間たちのまなざしが、静かにルミナを包み込む。
焚き火の残り火が、ぱち、と音を立ててはぜる。
その温もりの中で、ルミナは静かにまぶたを下ろし、ゆっくりと夢の中へと落ちていった。




