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第24話:魔女っ子バーガー部隊ダンジョン突入!

 異世界の北東、〈焔の牙山〉の山腹に突如として現れた“食魔のしょくまのほら”。

 灼熱の空気と鉄のにおいが立ち込めるこの場所に、今日、バーガー屋の仲間たちが初のダンジョン探索へ挑む。


 ルミナ、隼人、辰人、杏奈、そして妖精のフェリィ。

 ド派手な登場は控えめに、慎重に、でもどこかワクワクを抑えきれない一行だった。


「空気が熱いわ……まるでオーブンの中みたい」

 額の汗を拭いながら、ルミナが呟く。魔力探知の魔法陣を展開し、周囲を警戒する。


「焔の牙山の地熱は強力です。内部では更に高温になるでしょう」  街から中継しているクラウスの声が、耳飾り型の魔導通信機を通して響く。


「なにそれ、実況ってより注意喚起?」

 杏奈が毒気を抜くようにぼやく。いろはの軽快な実況も入ってきた。


「こちら魔女っ子バーガー放送局!記念すべきダンジョン第一階層、現在進行形で探索中です!おや? 先頭のルミナ嬢、なにかを発見した模様!」


「これ……植物ね? でも、こんな高温地帯に?」

 ルミナが摘んだのは、淡い紅色の葉を持つ草だった。


「調べました!それは“フレアミント”という灼熱系ハーブ!高温でも香りを保ち、料理にスパイシーな清涼感を加えるとか!」

 千尋の解説が頼もしい。


「これは……新メニューに使えそうね」

 ルミナが満足げに笑う。フェリィは鼻をひくひくさせて、


「くんくんっ、この香り、絶対ハンバーガーに合うやつ〜!」


「おっ、見ろよ! あっちには“火竜トマト”があるぜ!」

 辰人がずかずかと進み、赤黒く光る実をつけた植物を発見する。


「まさかここで野菜系食材が見つかるとは……!これは焼くと甘味が増すタイプですね」

 千尋の声が興奮を帯びる。


「さすが、暑さに強い食材たちね」


「ちょっと! わたしのチョコレート、溶けてるんだけど!?」

 杏奈がポーチから出したチョコを見て叫ぶ。


「この熱じゃ仕方ないかと……」

 隼人が苦笑するが、杏奈の顔は怒りで染まっていた。


「もう我慢ならない!この岩、どいてもらうわ!!」

 ルミナが指を鳴らすように、バチンと音を立てて魔力を一点集中。炎のような魔法を拳にまとわせ、洞窟壁を一撃。


 ドゴォンッ!!!


 砕けた岩の向こうから、冷たい空気がすうっと流れ込んでくる。


「……風?」


「す、涼しい……!」

 フェリィがふわふわと飛び回りながら喜ぶ。


「これで通気口できたな。さすがチート魔女っ子」

 隼人も安堵の笑みを浮かべる。


「岩をぶっ壊して空気通すとか……そっちのが脳筋じゃん!」

 杏奈がツッコミを入れる。


「うるさいわね! チョコが命だったのよ!」


「これ?あたしのチョコよ」


「うおっ、見ろよこっち! 岩肌の隙間にオレンジ色の鉱石が光ってるぞ!」

 辰人が指差した先には、どろりと半透明な鉱石が埋まっていた。


「“とろける炎玉チーズ石”……加熱でとろける性質がある鉱物型乳脂。加熱すると旨み成分がじゅわっと……!」

 またもや千尋が熱弁する。


「チーズって……岩から出てくるものだったっけ?」

 隼人が苦笑しながらも、つい採掘に手を出す。


「よーし、これは俺の筋肉出番だな!」

 辰人が巨大ピッケルを肩に担いで、豪快に岩を割る。


 ゴンッ! ゴガゴガガンッ!


「おいおい、削りすぎじゃないか?」


「えっ!なんか……宝箱あるわよ」

 杏奈が少し奥で不思議そうに指をさす。確かにそこには、ぽつんと佇む大きな木製の宝箱が。


「……怪しくね?」


「開けてみようぜ!」

 辰人が迷いなく駆け寄る。


「ま、待て!慎重に開け――」


 隼人の制止も虚しく、辰人はその巨大な腕で宝箱にぐいっと力を込める。

「バンッ!」と激しい音を立てて蓋が跳ね上がった――その瞬間、内部の仕掛けが発動しかけるが、あまりの勢いに箱は粉々になっていた。


 中から飛び出した牙のようなものも、地面に転がる。


「……ミミックだったな」


「辰人、開けた勢いで倒したわね」

 隼人が呆れ顔で肩をすくめる。


 街の中継スタジオでは、クラウスが淡々と補足する。


「通常のミミックなら、あの瞬間に反撃するはずですが……ええ、力技の勝利と申しましょうか」


「ちょっと、聞いたことないってば! 開けた瞬間に倒すとか!」

 いろはのツッコミが響く。


「フフ、千尋様も思わず唖然としていらっしゃいますね」


 ミレイの呆れたような笑い声も入る。

「これは昼ドラ枠の私のでも流石にドン引きです!」


「ミミック対処も力業で……。ええ、これは魔女っ子バーガー一行の通常運転でございます」


「ねえ、なんか、天井からバサバサ音が……」

 フェリィがピクリと羽を震わせた。


 次の瞬間、天井の影から、黒い影がいくつも飛び出してきた。


「飛行系モンスター! “魔蝙蝠まこうもり”です!」

 千尋の声が上ずる。


「距離を取って! 私が……っ」

 ルミナが即座に魔法陣を展開するも、


「魔力の回収反応が早い!? この魔物……魔力を吸ってるのかも……っ」


「隼人、援護する!」

 辰人が鍋を構え、ぐわん! と振り回す。


 隼人の魔導銃が火を噴き、杏奈のナイフが鋭く一体を切り裂いた。


 しばしの激戦の末、魔蝙蝠たちはすべて地に落ちた。


「ふぅ……あれが噂の魔力吸収型ってやつか。すごい群れだったな」


「こっちの魔法、防がれたっていうか、飲み込まれた感じだったわ」

 ルミナが額の汗をぬぐいながら座り込む。


 その時、地面がゴゴゴ……と鈍く揺れた。


「ちょ、なに今の……」


「まさか……!」

 ルミナが振り返った先で、洞窟入口の岩壁が――


 ガラガラガラッ!!!


 ――崩れ落ちた。


 熱風と共に舞い上がる土煙。


 全員、息を呑んだ。


「……閉じ込められた?」


「や、やっべぇ……! 出られなくなった……?」


「これって……さっきのピッケルの衝撃?」

 全員の視線が、無言で辰人へ。


「お、俺のせい!?」


 街の中継室では、いろはが口を開く。


「……今のは、事故です! 事故で〜す!!」


「ピッケルというより壁を破壊したルミナ様の影響かと……」

「撤退経路の喪失……想定して、非常用通路の探索を進めます。ルミナ様、まずは安全確保を」

 クラウスの冷静な指示。


「でも……魔力、回復しないわ。ずっと吸われてる感じがする……」


「今は焦るな。奥へ進むしかねぇだろ」

 辰人が仲間を励まし、隼人は背負っていた荷物からコンパス型魔導地図を取り出す。


「次の層まで、あと一つ下り階段がある。そこに向かおう」


「……そうだ、フェリィ! 冷んやりグッズ、お願い!」


 ルミナの呼びかけに、フェリィがきゅるんっと宙返りしながら飛び出した。


「おまかせあれ~っ☆ こんなこともあろうかと、ちゃ~んと妄想してたのよ!」


 光の粒をまき散らしながら、フェリィがくるくる空を舞う。


「冷やすならね、ズバリ――“首”よっ!!」


「……えっ、首?」


 みんな思わず振り返る


「そう!冷却のコツは、首、手首、足首! 三首を制する者は、夏を制すのっ☆」


「なにその格言……」

 杏奈が半分引きながらツッコむ。


「というわけで~、まずは《くびひやリング》! つけるだけでひんやりキープ、ふわもち素材で首にフィット♪ 魔法冷却ジェル入りで、お昼寝にも最適なの〜」


「ちょっと欲しい……」


「次は《てくびすずやかブレス》! オシャレに見えて、実は中から冷風がしゅわしゅわ出る、すご腕アイテムよ! しかも、ペアで左右に装備可能!」


「って、手首から風出るの!?すごっ!」


「でしょ? そして最後は《あしくびミントバンド》! 歩くだけで涼しい風が巻き上がる! ほら、これで地面からの熱もへっちゃら〜♪」


 ふわんふわんと、フェリィの手元で魔法陣が三重に回転し始める。


「さーらーに! あくびをしたときに気づかれずに冷却する、究極の癒しアイテム……名付けて《ひんやりあくびマスクZゼット》! あくびした瞬間、ふわっと冷風&ミント香りでリラックスモード突入ぅ〜!」


「そこまで首にこだわる!?」

 隼人が思わず吹き出す。


「だって、“くび”って名前についてるんだもんっ! あくびも“くび”ってつくし、冷やしたらきっと気持ちいいと思って~」


「それは……語呂だけじゃない?」

 杏奈が苦笑したが、ルミナは静かに頷いた。


「いえ……正しいと思うわ。あくびの快適化、考えたこともなかった」


「さすがルミナ様〜!」


 そして魔力がフェリィの妄想に共鳴し――


 ぽんっ!


 冷気とミントの香りをまとった可愛いグッズたちが、ふわっと出現した。


「完成〜!《三くびひんやりスペシャルセット》、略して“ひんくびセット”よっ!」


「……略すとっていうか、むしろ言いにくくなってるから!」

 杏奈の叫びが洞窟にこだました。



「……いや、略すとちょっと変だから!」

 杏奈の叫びが洞窟にこだました。


 その頃、街の中継スタジオ――


 いつの間にかクラウスも、《ひんくびセット》を着用していた。

 首にはひんやりリング、手首にはすずやかブレス、足元にもミントバンドがちらり。


「実況席も……案外、熱がこもるので」

 冷静な顔で言いながら、あくびマスクZをそっと装着するクラウス。


「ちょ、クラウスさん!? なんで持ってるの!? 配信中に完全装備!?」

 いろはが驚きと笑いの声を上げた。


「い、癒される……これは……よい文明……」

 千尋が若干とろけた表情で、手首ブレスを手のひらでぱたぱたしながら呟いていた。


 かくして、第一階層の戦闘と発見、そしてトラブルの果てに、一行は次なる層へ進むことを決意した。


 灼熱のダンジョン、食魔の洞。


 美味しさの向こうを目指して、魔女っ子たちの冒険は続く。



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