第23話:魔女っ子バーガー部隊、突入準備OK!……たぶん。
翌朝。
魔女っ子バーガー1号店の裏庭は、なにやら騒がしい。
クラウスがダンボール箱を積み上げ、千尋がチェックリスト片手に仕切っている。
「非常食よし、魔法ツールよし、飲料水……なんで“星降りベリーシロップ”が7本もあるの?」
「ルミナ様が“多めに”と言いましたので……」
「そりゃ、言いそうだけどさあ」
その当の本人、ルミナは軒下のベンチに腰かけ、ポテトにチョコレートをとろ〜りとかけながら、のんびりしていた。
「チョコポテトって……いいよね。甘いとしょっぱいの……魔法の共演だよ……」
「ルミナ、状況わかってる? ダンジョン攻略って命がけだよ? 食フェスじゃないんだから」
隼人がタオルを首にかけ、荷物を背負いながらツッコミを入れる。彼の手には、やたら大きく重そうな鞄。
「これ……杏奈の荷物?」
「う、うん……! 実はね、現地で料理できるように道具一式持ってきたの……ホットプレートとか、砥石とか、フライパン三枚とか……」
「お前、修学旅行じゃなくてグランメゾン開店するつもりだろ」
隼人が苦笑しつつ鞄を担ぎ直す。そして、ふと杏奈の方を見て、さりげなく言った。
「……俺が持つよ」
「えっ……」
杏奈は一瞬、目をぱちくりさせて、それから頬を赤らめた。
「べ、別に……そんな、ありがと……」
そのとき、空からキラキラと何かが降ってきた。
「ん? なにあれ」
ひらりと宙に舞い、ルミナの前に着地したのは、ラメ入りのピンク色に輝く箱だった。
王家の紋章が刻まれている。
「王宮から……え、なにこれ」
開けると、中にはひときわ可愛く、そして妙に本格的な光沢のある魔法銃。
ラメピンク、グリップにはハートのエンブレム。
「なんか……ファンシーすぎて逆に強そうなんだけど」
「それは……まさか……!」
千尋が書簡を読み上げる。
「『親愛なる隼人様へ。これは貴方が以前に語っていた“スカーレット・ウルヴズMk-7”──魔導銃界の伝説的モデル──の意匠をもとに、特注でお作りしました。見た目はラブリーでも、性能は折り紙つきです♪』
──フィオナ・グランリリー王女より」
「……うわ、ほんとに好きなんだな」
隼人は顔を赤らめながら、受け取ったピンク銃をじっと見つめた。
「え、これ……マジで俺の好きなモデルそのまんま……。サイトの形状も、トリガーの感触も……チューニングも完璧……」
隼人は無意識に説明モードに入る。
「……これは、“スカーレット・ウルヴズMk-7”。魔導銃界じゃ伝説扱いされてるモデルでさ。精密射撃から連射までこなせて、軽量でバランス型。FPSで例えるなら、安定性と反応速度に優れた“魔法版M4A1”みたいなやつ。本来は漆黒のボディなんだけど、これは……ラメピンク姫カスタムってやつか」
語るうちに、頬がじわっと赤くなる。
「……なのに性能は一級品とか、ギャップでやられるだろ普通……!」
「ところでさ、ルミナ。ダンジョン攻略はチート魔女お前一人でよくないか? 魔法使ってどーんってクリスタル割って終わりでさ」
「えー? あたし、チョコポテト食べないと魔力出ない体質なんだけど。あと一人ぼっちだと心細いし」
「そんな“腹が減ると魔力も減る系ヒロイン”設定で押し通すなよ……」
そのとき、裏口から筋肉と鉄の塊のような人影がぬっと現れた。
「ったくよー、集合って言われたのに誰も迎えに来ねえから、パン工房のバーベル担いで来ちまったぞ!」
東雲辰人。筋肉担当、いや、筋肉そのもの。
「ちょ、辰人! それ火の魔石グリルじゃん! !」
続いて、背後からひらひらと羽ばたくように飛んできたのは、小さなメイド妖精フェリィ。魔導レシピノートと、よくわからない妄想設定のメモ帳を何冊も抱えている。
「ふふふ、あたしの中ではすでに“魔法ダンジョンレストラン編”が始まっているのです……♡」
「待て、待て、そんな展開じゃねぇ!」
クラウスがため息をつきつつ、ふたりに声をかける。
「辰人さん、フェリィさん。装備をお持ちになりましたか?」
「装備? ずっと装備してるぜ、筋肉をな!」
辰人は腕をぐいっと曲げてポーズを決める。
「私は……空想がありますので」
フェリィはうっとりとした顔で胸に手を当てた。
ルミナがぽりぽりとチョコポテトをかじりながら、呟く。
「……あー、これ、いよいよ本気でバラエティ番組だよね」
「はいはーい、はい! 始まりましたよー!」
いろはの明るい声が響いた。
仮設の投影台の前に立ち、《マジカル・ウィッチ放送局》から借りた実況マイクを手にしている。
「こちら《実況☆ドリームスタジオ》からお送りいたします! ダンジョン突入目前、魔女っ子バーガーチームの準備が整った模様です!」
「いろは、テンション高いな……」
「そりゃそうよ、わたし実況って言われてさ、ずっと温めてたマイク芸が火を吹くってわけ!」
クラウスが遠巻きに嘆息する。
「……平和な出陣ですね」
千尋は一枚の地図を掲げ、全員に呼びかける。
「よし、これより“食魔の洞”へ向かいます。目標は、ダンジョン内部の調査と、魔力クリスタルの破壊。それができないと、魔物が王都へあふれ出してしまう可能性があります」
ルミナがふいに真面目な表情になる。
「うん。……世界を壊すために生まれたものなら、壊すしかない。あたしたちは、そのために来たんだもん」
隼人は銃をホルスターに収めながら頷く。
「よし、じゃあ行くか──俺たち、異世界最強部隊!」
かくして、魔女っ子バーガー組は“食魔の洞”へと歩を進めた。
炎と鉄の香りが、じりじりと肌を焼く灼熱のダンジョンへ。
戦いと食と、ちょっぴり恋の冒険が、今始まる。




