表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/53

第20話:フィオナ・グランリリーからの手紙

 朝日が差し込む『ラ・シュガー・パルフェ』の店内。


 カミラはテーブルにカップを並べながら、ふぅとため息をついた。


「昨日は……まさに戦場でしたわね……」


「私は燃え尽きたよぉ~! クレープ巻きすぎて、手がクルクルなままだもんっ!」

 フローラは机に顔を突っ伏して、両手をぐるぐると回している。


「……でも、お客様の“もちもちでしたわ♡”が聞けて、わたくしは満足ですの」

 エルミナは優雅に紅茶をすすりながら、ちゃっかり王族風の口調になっていた。


 そこに、カラン、と扉の音。


「おう、朝の会議って聞いたけど……なんか、貴族の朝食会になってない?」


 隼人が片手を上げて入ってくる。


「いらっしゃいませ〜♪ ……って、隼人さん!? 今日はバーガー組じゃなかったんですか?」


「配達の帰りにちょっと寄っただけ。そしたらこの空気よ。優雅すぎてビビるわ」


 と、そこへバタン!と勢いよく扉が開き、ナナが飛び込んできた。


「みんなーっ! 大変ーっ!! 王女様から、お手紙届いたーっ!!」


「えっ!? まさか……フィオナ様!?」


 ナナが広げた封筒の宛名には、しっかりとこう書かれていた。


 ――受取人:隼人・グランリリー様へ


「……いやいやいや、俺、グランリリーじゃねぇから!!」


「なにそれ!? どゆこと!? け、けっこん!? 結婚したの!?」


「してないしてない!! 昨日は逃げ回ってただけだっての! てか、どのタイミングで婚姻届出すんだよ!?」


 店内が騒然とする中――封筒がふわりと光り始めた。


「うわっ、まさかこれ魔法……? ちょ、転送魔法!? 待て待て待て――」


 ピカンッ!


 光に包まれ、隼人の姿は跡形もなく消えた。


 呆気にとられたナナとメイドたちは、しばしポカンとその場に立ち尽くすしかなかった。


 * * *


 ――気がつけば、そこは王宮の一室。


 絢爛豪華な調度品に、甘い香り。そして、ひときわ強烈な存在感が部屋の中心にいた。


「おっそーい! 何分待たせるのよ、わたくしを!」


 両手を腰に当てて仁王立ちするのは、暴走系わがまま王女――フィオナ・グランリリー。


「いや、いきなり転送してきておいて時間厳守って、どういう理屈だよ……」


「細かいことは気にしませんの! それよりもっ、あなた――FPSって何の略ですのっ!?」


「え? ええと……フィオナ・プリンセス・すき……とかですの?」


「ふわっ……♡」

 なぜかほおを赤らめるフィオナ。


「ちがいますの? わたくし、そうかと……!」


「いや、ゲームだって……First Person Shooter。銃で撃ち合うやつだよ」


「なにそれっ! すっごく楽しそうですわ!!」


 次の瞬間、フィオナは両手を掲げて叫んだ。


「いっくわよ~ん♪ 《王家の錬成術・プリンセスカスタム☆》!」


 ドカンッ!と光がはじけ、宙に現れたのは――


「……ピンクのハンドガン!? キラキラしてるし、グリップがハート型なんだけど!?」


「当然ですわ! わたくしの武器ですもの♡ あなたにはこれを貸してさしあげますわ」


 そう言って渡されたのは、同じくピンクのハンドガン。リボンとラメつき。


「……ちょっと、俺が持っていいデザインじゃねぇってこれ……」


「さあ、勝負ですわ! わたくしに勝てるか試してごらんなさいな!」


 ファンシーな外見とは裏腹に、繰り広げられるのは超本気の撃ち合い(※弾は魔法のキラキラ光弾)。


 そして数分後。


「はぁ、はぁ……ちょっと楽しすぎたかも……」


「おなか……すきましたわ……」


 バトル終了の合図は、フィオナの空腹宣言だった。


 隼人は半ば強制的に、王宮の厨房に立たされることになる。


「ちゃんと見ててくださいましっ! わたくし、お肉の焼けるところ、初めて見ますの!」


「味にはうるさいくせに初体験なんかよ……。よし、焼くぞ」


 ジュウゥ……と焼ける音。鉄板の上で肉がじゅわっと音を立て、香ばしい匂いが広がる。


「完成っと。王女専用、スペシャルバーガーだ」


「まぁっ! とってもいい匂い……♡」


 ぱくり、と一口。


「おいしっ……!? な、なにこれ! ソースの魔法、発動してますわっ!!」


「いや、普通に作っただけだって……」


 すると、フィオナはモジモジしながら、口元に手をあてた。


「……ちょっとだけ……ついてますの、ソース……♡」


「えっ? ああ――」


 隼人はさっと手を伸ばし、フィオナの口元をそっと拭った。


 その瞬間――


「な、な、ななななっ!? なによその距離っ!? 恋愛イベント!? 乙女ゲームのスチル突入ですのーーっ!!」


「……いや、ソースついてただけで……」


「ず、ずるいですわっ……! し、心臓が……バクンってしましたの……っ!!」


 赤面王女、パニックモード。


 そして隼人の脳裏には、一つの疑念が浮かぶ。


(……マジで俺、帰れるのか?)


 ――つづく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ