第16話:クレープカフェ、誕生の夜!
その日の夜。クレープカフェの建設が、ルミナの魔法とパンナの手際によって、着々と進んでいた。
「ねえねえ、お店の名前はどうするの?」
ぱたぱたと脚を動かしながら、パンナが材料の積み下ろしをしつつ尋ねると、ルミナがすかさず腕を組み、得意げに答えた。
「“セレナの甘やかしクレープ城”!どう?お城っぽくて、ふんわり甘やかしてくれる感じで!」
「それは……少し恥ずかしすぎます……」
セレナが顔を赤らめてうつむくと、ふわりとフェリィが浮かび上がり、星の粉を空に散らしながら夢見るように呟いた。
「“ラ・シュガー・パルフェ”とかどう?乙女ゲームのヒロインが通ってそうな、可愛くてロマンチックな……」
「それ、とっても素敵です!」
セレナが目を輝かせて頷いた。
「よし、決まりっ☆」
ルミナが指をぱちんと鳴らす。
「ところで、建て方はどうするのです?」
セレナの問いかけに、ルミナは腕を頬に当てて少しだけ首を傾げながら、いたずらっぽく微笑む。
「フェリィ、妄想全開でよろしく!」
「いくよーっ☆」
フェリィは空中に魔法陣を描きながら、ぽつぽつと妄想を呟きはじめる。
「店内にはほんのりレモンの香りがして……壁は淡いクリーム色……ふわふわのクッション席に……うーん、空想が止まらない……」
その呟きが形になっていく。星粒がきらきらと舞いながら、建材や構造が魔法で組み上がっていくのだ。
「よし、それでいいわ! いっくよー!イミテーション・リアリティ!」
――ドゴォン!
光がはじけるように現れたのは、白とレモンイエローを基調にした、柔らかく上品なクレープカフェだった。
落ち着いたレンガ壁に、ハーブが並ぶウッドテラス、柔らかな曲線の屋根とレースのカーテン越しに差し込む陽光。
「これは……」
クラウスが思わず息を飲む。
「なんだか……本当に夢みたいな場所ですね」
セレナの声にも、どこか感動が滲んでいた。
「今回はちゃんと我慢したの! 王子もティーカップもナシ!」
フェリィが胸を張ると、クラウスが小さく頷いた。
「十分に妄想力は強烈でしたが、今回は調和と美しさが両立されております。お見事です」
さらにフェリィは、ふたつの店舗の間にドライブスルー通路を構築。
光のアーチと魔法の鈴が並ぶその道を通れば、声に反応して自動注文できるという。
「“マジカル・フードフロー・レモンパス”って名付けたの!」
「……ネーミングセンスが……っ、素敵すぎる……っセレナ姫の夢が叶ったんだな……」 ライアスが感極まり、そっと目元をぬぐって呟く。
クラウスは手帳を開き、ぴたりと記録しながら告げる。
「ギルドへの申請も、すでに完了しております」
「待って!?まだ店できたばかりなのに早すぎるよ!?」
魔法の光と笑い声が交差する、聖都のにぎやかな夜。
こうして、異世界ハンバーガー店の隣に、夢と甘さがぎゅっと詰まったクレープカフェが、そっとその扉を開こうとしていた。