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第13話:魔法宮廷から追手来店。美味しいの魔法をこめて

 突如、店の扉が重々しく開いた。


 深紅のローブに銀の紋章。

 魔法宮廷の紋章をまとった一行が、静かに『魔女っ子バーガー1号店』へ足を踏み入れた。


「……き、来た……来てしまいましたわ……」


 フェリィが小声で震える。


「この展開……きっと私たちは、あんな鉄格子の塔のてっぺんで魔力吸引されながらお説教されて……!」


「そのあと地下の魔法拷問室で、『なぜ逃げたのか』って問われ続けるやつ……!」


「終いには『宮廷再教育セミナー』に無理やり参加させられて、無限に難解な魔法式を写経させられるんですのよおぉぉぉ!!」


「やめてフェリィ!想像がリアルすぎて怖い!」


 ミーナが真っ青な顔で、そっと身を隠そうとする。


「わ、わたし……また『メイドから冒険者に逆もどり』させられちゃうのかも……! 魔道具庫の掃除からやり直しとか……ひえええぇぇ……」


 その隣で、クラウスが一歩前に出た。


「お二人とも、お心を強くお持ちください。お嬢様の叛旗は、もはや『ハンバーガーの包み紙』ほどに正当な革命でございます」


「その例えどうなの!? 破れるじゃん!」


 だが、宮廷筆頭補佐官――シルヴィオ・エルメロイは何も言わず、ただ静かにメニューを見つめていた。


 そして、淡々とした口調で言う。


「『カツ丼バーガー』と、『星降りベリーシロップのソーダ』を」


「え、えっ……ご注文!?」

 杏奈が目を丸くして、慌てて準備にかかる。


 シルヴィオは、届いた品を見つめるように手を伸ばし、そして――


 ――ガブッ。


 しっかりと、バーガーにかぶりついた。


「……ふむ。タレが染みたカツ。揚げたての香ばしさ。上品な甘さのバンズ。そして……これは『努力』の味ですね」


 彼は、ふうと深く息を吐いてから、ゆっくりと視線をルミナへ向けた。


「私は、貴女を連れ戻すつもりはありませんでしたよ」


「――え?」


「ただ、見たかったのです。あの頃――『王室の机にホットケーキを召喚して三日間会議を潰した』ルミナ嬢が、何を創ろうとしているのか」


「いや~、あの時はホットケーキの魔法式が暴走しちゃってね!」


「『一面ホイップの大地』と化した謁見の間……あのときは、床一面が滑るホイップまみれで、魔法陣の上に座っていた魔導師たちもすってんころりん……忘れはしません……」


 だが――と彼は言葉を続けた。


「貴女は、ただのわがまま娘ではありませんでした。確かに常識外れ。だが今こうして、多くの者を巻き込み、人を笑顔にし、街を活気づけている。ならばそれは、もう立派な『魔法』ですよ」


 ルミナは、少しだけ照れくさそうに笑った。


「へへーん。じゃあ、先生も『魔女っ子バーガー認定』ってことで?」


「……渋々、認定します。宣伝はしませんが」


 クラウスがぴしりと背筋を伸ばす。


「かつてのお嬢様は、世界に甘えておられました。しかし今は、世界を笑わせ、満たす側になられた。これは明白な進化でございます」


「うぅっ……クラウス、口が堅いのに、セリフがいちいち染みるのずるいよ……!」


「ふっ、口数は少なめに、心意気は多めに――これぞ執事道にございます」


 最後に、フェリィがそっと前に出た。


「よかった……みんな連れ戻されないで済んだんですね……」


「でも、魔法拷問室の想像だけは消えないんだけど」


「ふふ、あれはあれで空想力がはかどりましたわ!」


 すると、シルヴィオがふとルミナに問いかけた。

「ところで、他にもこういった『バーガー』なる品は開発されているのですか?」


 ルミナはにんまりと笑った。

「もちろん!次は『牛丼バーガー』とか『親子丼バーガー』とか、夢は広がってるよ!」


「丼もの……その発想はなかった。だが斬新ですな」


「うん、ルールなんてないんだよ。美味しければ、全部ハンバーガーにしちゃえばいいの!」


 無邪気な笑顔で語るその言葉は、ただの冗談のようにも聞こえた。

 けれど――

 その場にいた誰もが、感じ取っていた。


 その軽やかな声には、この街を笑顔にしたいという真っ直ぐな想いが詰まっていたのだと。


 それは、ひとつの革命だった。  特別な力も、大きな魔法も使わずに。  ただ、『美味しい』と『笑顔』だけで、人を幸せにしてしまう、魔女っ子の革命。


 ――誰も言葉にしなかったけれど、シルヴィオの目元には、かすかに涙がにじんでいた。

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