第10話「届け!笑顔とバーガーと、空飛ぶ馬車便!」
陽が傾きはじめた頃、広場には活気と達成感が満ちていた。
「ふっふーん、これでドリンクの仕入れもコンプリート!」
いろはが胸を張って、焼きたてパンの箱を片手にくるっと回る。
「これでパン、ドリンク、そして野菜と乳製品もばっちりってわけ!」
その隣で杏奈が静かに頷く。
「このドリンク、魔法がかかってるみたいに美味しい……甘すぎないとこが好き」
「乳製品も、最高のを仕入れてきたぜ」
辰人が力強く言いながら、背中に斧を背負ってミルクの樽をどすんと下ろした。
「なんで斧?」
いろはが指さすと、辰人が少し照れたように笑う。
「ミネルバって牧場の番人からもらった。筋肉で語るタイプでさ。『お前ならこの斧、使いこなせる』って」
「筋肉で語る……」
いろはが絶句し、クラウスが咳払いで笑いをこらえる。
「みんな、お疲れ様」
帳簿を閉じた千尋が小さく頷いた。
「野菜も、パンも、ドリンクも、乳製品も。これで、必要な材料は揃ったわ」
「いや、まだだ」
腕を組んでいた隼人が口を開いた。
「届ける手段がなければ、どれだけ美味くても意味がない」
――まさにそのとき。
「きゃあああああっ!! 避けてえぇぇぇ!!」
空から甲高い叫び声が落ちてきた。
次の瞬間、白銀のたてがみを揺らす馬が空を駆けるようにして急降下!
背には魔力の翼をばちばちさせた奇妙な馬車が――
「ぎゃー!シルベール右ーっ!そっちは岩!って、岩ァァァ!!」
ぎりぎりで旋回、そして――どさっ!!
馬車は広場の端に不時着し、煙とススを巻き上げる。
ばさっ。
煙の中から、ポニーテールの少女が飛び出した。
「ナナ・ベルハート! 配送係です! ……ちょっと魔力制御に失敗しちゃいました!」
制服の袖は少し焦げ、顔にはスス。
けれど、笑顔はどこか明るくて、元気いっぱいだった。
「……あの子、ナナさんじゃない?」
千尋がひそかにメモを取り出し、つぶやく。
「評判の配送係よ。でも……馬車、ボロボロね」
「実は……星霧石の補充が間に合わなくて……シルベールもお腹ぺこぺこで……」
ナナが涙目で説明する。
「星霧石……あの虹色のやつか」
隼人がうなるように言った。
「高濃度の魔力を蓄えて、空を飛ぶ系の道具に使われるやつ。そりゃ枯れたらエンストもするわ」
「……私の馬車、古くて、時々魔力も足りなくなって……」
「ふんふん、つまり……」
ナナはぱちぱちと瞬きをして、ルミナを見る。
「魔力が足りないとき、私がどうしてるか知ってる?」
「え?」
「お菓子を食べるのよ!」
ルミナが得意げに言い放つ。
ナナはぽかんとしたが、思わず笑ってしまった。
そのまま、ルミナが一歩前へ出る。
「私たちも最初はバラバラだった。魔法でトレイを窓から飛ばしたり、レジが急に爆発したり、ドリンクが謎のガスを出したり……」
「それ、全部ルミナじゃん」
隼人が小声でツッコミを入れ、杏奈がうなずいた。
「でもね」
ルミナは続ける。
「みんなで協力して、笑って、ぶつかって、進んできたの。ナナも、夢に向かって一緒に走ろうよ」
「……わたしでも、いいの?」
ナナの声がかすかに震える。
「馬車、空を飛べるんでしょ?」
ルミナがにっこり笑う。
「それって、最高にカッコいいじゃない!」
ナナの胸の奥が、じんわりと熱くなる。
「じゃあ……一緒に、バーガーと材料を届けてもいいですかっ!」
「もちろん!」
一同が笑顔でうなずく中、白銀の馬シルベールがぶるるっと鼻を鳴らした。
ナナちゃんちょっと待って! ルミナは馬車を見ると、
――ぼろぼろの外装、あちこちガタつく車輪、装飾は半分以上焦げている。
天使の羽の装飾も片側だけ、泣いているように見えた。
「だめっ、これじゃ夢が飛べないわっ!」
ルミナの瞳がきらーんと輝いたその時、横からふわっと浮かび上がるフェリィ。
「来ましたっ、空想の出番!」
くるくると空を舞いながら、小さな指をぴっと突き出す。
「ナナちゃんのために〜、ふわもこ配送馬車、カスタムイメージ展開っ!」
「……ふわもこ?」
ナナがぽかんとした隙に、フェリィが呟き出す。
「虹色ラッピング、羽のエアロライン、荷台にはスイーツ収納。
クッションは星柄ふかふか、窓にはレースカーテンで乙女力UP。
配送メーターは魔力残量が見えるスライム式、フロントにはシルベールくん用のキャロットホルダー!」
「ふふ……イメージは伝わったわ」
ルミナが指を鳴らす。
そして――空に手を掲げた。
「イミテーーーション! リアリティー!」
魔力がきらめき、光がはじける。
空に広がる魔法陣が回転し、幻想と現実が融合していく。
「馬車改装・魔力転写展開……風の精霊よ、配送の翼となれ!」
風が巻き起こり、キラキラと星屑が舞う。
フェリィの空想とルミナの魔法が共鳴し、ボロボロだった馬車がみるみるうちに――
白とピンクを基調とした、ふわもこ天使仕様の配送馬車へと生まれ変わる。
屋根にはスイーツ型のマーク。
側面には《ナナ便・空色配送》と書かれた金文字プレートが輝いていた。
「……わ、わたしの馬車が……!」
ナナの目に、涙がにじむ。
「これなら、夢だって届けられるでしょ?」
ルミナが、少し誇らしげに笑った。
こうして――
空を駆ける馬車と共に、新たな仲間・ナナ・ベルハートが加わった。
バーガーの夢は、ついに空を飛ぶ。