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1-6

リツは迷わず引き金を引いた。

その瞬間、ドローンは小さな爆発を起こし、ベタッと雪の上に墜ちた。


それが合図だったのか、潜んでいた化け物が突如姿を現し、小屋に向かって突進してきた。


リツは、分厚い雪の上に背中から倒れ込むまで、その光景をただ見ていることしかできなかった。


化け物は、カガチの言った通り足元で爆発に巻き込まれ、枝のように細い脚が無惨に吹き飛んだ。

それは見るに耐えないほど異様な断面を晒し、獣とは思えない金切り声で咆哮する。


リツが呆然と見つめるなか、カガチはただ小屋の前で仁王立ちしていた。まるでその姿が脅威ではないとでも言うように、微動だにしない。


リツは直感的に理解した。

――この男、ドローンが全部片付くまで、動かないつもりだ。


「くそっ、くそっ……!」


リツは短く息を吐きながら、雪の中を転がるようにして木の影に身を隠し、再び猟銃を構える。

ドローンはかすかに揺れていたが、リツにとっては野鳥よりも遅い。二機目を、あっさりと撃ち落とした。


「リツ、あと四機です。頑張れ〜」


「簡単に言うんじゃねーよ!!!」


リツの焦りをよそに、カガチは冷静そのものだった。視線は一貫して、化け物を捉え続けている。


リツは腹を括った。残る四機も、次々に撃ち落とした。

そして――最後の一機になったとき。

化け物の目が、こちらを見ていた。


腹の底が跳ね上がる。

それは恐怖というより、自分の命をどこかから握られたような感覚だった。


「リツ、小屋に戻って!!!」


カガチの声に、リツは全速力で駆け出した。雪に足を取られながらも、小屋に滑り込む。

その刹那、化け物の腕が小屋の入り口へと伸びてきた。


耳のすぐ後ろで、ぐちゃりと、肉が擦れる音が響いた。

思わず振り返ると、壁に叩きつけられたように、腕が落ちていた。


……でかすぎて、自分の腕の長さも把握してねえ。


そんな馬鹿げた感想が脳裏をかすめた瞬間、化け物がリツを見据えた。

裂けた口が開き、こちらへ跳びかかってくる。


「やば、来る……!」


リツは咄嗟にその場にうずくまり耳を塞いだ。

もう間に合わない。化け物が跳ねる。口が裂ける。喰われる――

……そう思った瞬間、リツの耳が“切られた”ような錯覚に陥った。


シュッ。


空気が、線になった。


次の刹那――化け物の胸にぽっかりと、拳大の穴が穿たれていた。


煙も、閃光も、呪詛の言葉もなかった。ただ、そこに“穴”があるだけだった。


「……は?」


リツが呆然と見つめるなか、化け物はよろけて、雪に沈んだ。


見れば、カガチが立っていた。いつのまにか、リツの前に。


手は、ポケットの中。


何もしていないように見えるその姿が、余計に恐ろしかった。


「お前……今、何した?」


「穴を開けました」


「はあ!?」


「それだけですよ。なんなら、次は四角にしてみましょうか」


カガチは微笑む。軽く、まるで冗談のように。


リツは絶句しながらも、カガチの手を見た。

その手は動いていない。けれど、確かに“死”を生み出していた。


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