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リツは迷わず引き金を引いた。
その瞬間、ドローンは小さな爆発を起こし、ベタッと雪の上に墜ちた。
それが合図だったのか、潜んでいた化け物が突如姿を現し、小屋に向かって突進してきた。
リツは、分厚い雪の上に背中から倒れ込むまで、その光景をただ見ていることしかできなかった。
化け物は、カガチの言った通り足元で爆発に巻き込まれ、枝のように細い脚が無惨に吹き飛んだ。
それは見るに耐えないほど異様な断面を晒し、獣とは思えない金切り声で咆哮する。
リツが呆然と見つめるなか、カガチはただ小屋の前で仁王立ちしていた。まるでその姿が脅威ではないとでも言うように、微動だにしない。
リツは直感的に理解した。
――この男、ドローンが全部片付くまで、動かないつもりだ。
「くそっ、くそっ……!」
リツは短く息を吐きながら、雪の中を転がるようにして木の影に身を隠し、再び猟銃を構える。
ドローンはかすかに揺れていたが、リツにとっては野鳥よりも遅い。二機目を、あっさりと撃ち落とした。
「リツ、あと四機です。頑張れ〜」
「簡単に言うんじゃねーよ!!!」
リツの焦りをよそに、カガチは冷静そのものだった。視線は一貫して、化け物を捉え続けている。
リツは腹を括った。残る四機も、次々に撃ち落とした。
そして――最後の一機になったとき。
化け物の目が、こちらを見ていた。
腹の底が跳ね上がる。
それは恐怖というより、自分の命をどこかから握られたような感覚だった。
「リツ、小屋に戻って!!!」
カガチの声に、リツは全速力で駆け出した。雪に足を取られながらも、小屋に滑り込む。
その刹那、化け物の腕が小屋の入り口へと伸びてきた。
耳のすぐ後ろで、ぐちゃりと、肉が擦れる音が響いた。
思わず振り返ると、壁に叩きつけられたように、腕が落ちていた。
……でかすぎて、自分の腕の長さも把握してねえ。
そんな馬鹿げた感想が脳裏をかすめた瞬間、化け物がリツを見据えた。
裂けた口が開き、こちらへ跳びかかってくる。
「やば、来る……!」
リツは咄嗟にその場にうずくまり耳を塞いだ。
もう間に合わない。化け物が跳ねる。口が裂ける。喰われる――
……そう思った瞬間、リツの耳が“切られた”ような錯覚に陥った。
シュッ。
空気が、線になった。
次の刹那――化け物の胸にぽっかりと、拳大の穴が穿たれていた。
煙も、閃光も、呪詛の言葉もなかった。ただ、そこに“穴”があるだけだった。
「……は?」
リツが呆然と見つめるなか、化け物はよろけて、雪に沈んだ。
見れば、カガチが立っていた。いつのまにか、リツの前に。
手は、ポケットの中。
何もしていないように見えるその姿が、余計に恐ろしかった。
「お前……今、何した?」
「穴を開けました」
「はあ!?」
「それだけですよ。なんなら、次は四角にしてみましょうか」
カガチは微笑む。軽く、まるで冗談のように。
リツは絶句しながらも、カガチの手を見た。
その手は動いていない。けれど、確かに“死”を生み出していた。