episode1 檻の中の子供
白い神殿のような場所に、冷たい石の台。
その上に裸の少年が寝かされていた。
手足は黒い縄で縛られ、動けない。まだ五つにも満たない年齢だった。
周囲を囲うのは、白衣を纏った“祭司”たち。
一人が口を開けば、他の者も続けて唱える。
意味の分からない古い言葉。どこか歌のようで、どこか祈りのよう。
「ナバリ…タギエ…ナバリ…タギエ…」
彼らの手には虫の死骸。
それを掌で潰し、少年の身体に塗りつけていく。
顔、胸、腹、口元。嫌な臭いが部屋中に立ちこめ、少年は震えた。
“──これは死の儀式だ”
そう悟るには、年齢など関係なかった。
彼の耳元で、虫の羽音が聞こえる。
生暖かい風と、ヌメるような唾の気配。
目隠しの奥、暗闇の向こうにいる“それ”は、生き物のくせに静かすぎた。
ただ、息だけが荒い。
「いっ……」
──バリッ
石のように硬い四角い歯が、少年の腹を喰いちぎった。
背骨ごと砕ける音が響く。痛みに絶叫する少年。
足をばたつかせ、縄の中で叫び、泣いた。
次の瞬間、顔へと迫る巨大な口。
刃のような歯が、眼窩ごと頭蓋を噛み砕く。
その瞬間、彼の命は──絶たれた。
……はずだった。
──なぜか、生きていた。
口の中に、まだ残っていた。
脳は死んだ。心臓も止まった。
でも、“何か”が、彼を戻した。
それが神の加護か、別の何かかは分からない。
大人たちはまだ気づいていない。
神獣が喰らったその少年が、まだ“中で、目を開いた”ことに。