土曜・休日出勤(半日) 上司の定年について
俺がコンビニでサンドイッチを買って、いつものように例のホット・ドリンクと一緒にちびちびとやっていると、上司が俺の左隣に顔を突き出してきた。左の席の中村くんは今いない。きっとどこかしゃれた喫茶店に、コーヒーを一杯頼みにでも向かっているのだろうな、と俺は察した。
「なあ」
上司は妙に馴れ馴れしくいった。いつもなら「おい」とか「よう」なのに、なあとはなんだ、なあとは。
俺が困惑していると、上司も戸惑ったのか、いつもの口調に戻った。
「俺、来年度定年で辞めるだろ」
確かにそうだった。部長代理である上司は今六十四歳だった。
俺は肯定しずらかったが、頷く。
「肯定するなら思いっきり肯定してくれよ」
上司は恥ずかしいのか、後ろに右手を回し、首筋をポリポリとかいた。
「それでな、俺、ウォーキングしようと思うんだ」
なぜか体にショックを覚えた。
「でさ——。教えてくれないか?」
なんで? なぜ俺がウォーキングしているのを知っているのだろう。
「お前公園で、主婦と会わなかったか?」
確かに会った。俺は今度ははっきり「はい、そうです」といった。
「あれ、俺の嫁の、友達でさ」
そうとは思えないほどあの主婦は若々しかった。
上司は俺に皺が鮮明に見えるほど顔を近づけた。
「そいで特徴的な男の人がいたのよーって話を聞いて、俺はピンときたのさ」
俺、そんなに特徴的かな。
「なんか、若々しく、生き生きと見えたらしいんだ」
嬉しいんだか悲しいんだか、若々しくというところに違和感を覚えた。そういえば俺ももう中年であった。
速く昇進しなければ、と焦りを覚えていると、部長代理は手を合わせて、背をかがめてみせた。
「たのむ。俺にウォーキングを教えてくれないか?」
ひ、人違いじゃなくて——!?




