29.久しぶりの再会
お待ちいただきまして、ありがとうございます!
また更新が止まっている間も読みに来てくださって、とても嬉しかったです。本日より連載再開します。
とはいえ、以前のような毎日更新ではなく数日おきの不定期更新になりますので、時折覗いていただけますと幸いです。これからも、よろしくお願いします。
気候のいい時期で本日も快晴の為、窓も大きく開け放たれていて、恐らく応接室の方も開かれているのだ。
間に中庭があるのでそれまでは気にならなかったが、声の主はどんどんヒートアップしているらしく話の内容が分かるぐらいの大声で喋っているしまっている。
「……窓を閉じましょうか」
テオドロスはアシュバートンの外交官と言う立場上、アスター国議会の話を耳にするのは躊躇われるのだろう。
「そうね」
ロザリアはアスターの議員の意見に大いに興味があるが、こちらもただのアシュバートン貴族の夫人としては聞くべきではない。それぐらいの分別はあった。
彼女の答えに、テオドロスが頷いて窓を閉じる。が、その隙間を縫って再び向こうの悲痛な叫びが届く。
「このまま誇り高きアスターの文化が全て失われてもいいんですか!? オーケン様!!」
やけにくっきりと聞こえた声に、ロザリアは先客の正体が分かった。
「あら? この声。アルシ・デガルね」
「ああ……あの時の」
まだ二人がロベルにいた頃、オーケン・アスターの手紙を持って訪ねてきたアスターの外交官だ。
一度会っただけだが、彼はオーケンを王と仰ぎ尊敬している様子だった。今のように、オーケンに向かって怒鳴るだなんて、一体何があったのだろうか。
とはいえ、アスター国の事情に首を突っ込むつもりはないので、テオドロスは予定通りそっと窓を閉める。
「せっかくだから、彼が帰る時に少し時間をもらいたいわ」
デガル自身も外交官なので、アスターにずっといるわけではない筈だ。せっかくたまたま知り合いと居合わせたのだから、挨拶をしておきたい。
「では執事にそう伝えましょう」
ロザリアの言葉に、テオドロスはすぐに頷く。それからテーブルの上に準備されていた小さな陶器のベルを手に取り、チリリン、と鳴らした。
すると、すぐさま先程の執事が現れる。
「お待たせして申し訳ありません、オルブライト夫妻」
「急いでいる訳ではないから、構わない。それよりも、向かうの部屋の声が聞こえたのだが、先客はデガル氏だろうか? 知り合いなので、彼が帰る際に妻が挨拶をしたいと」
テオドロスが執事に説明している間、ロザリアは長椅子に座ったままのんびりとお茶を飲む。
待つのは少し退屈だが、たまたま知り合いに会えたのは思わぬ楽しい出来事だ。王妃ではなくなったことだし、せっかくなのでアスターに滞在している間に友達が出来たらいいなぁ、と呑気に考えていた。
「かしこまりました。伝えて参ります」
執事は頷き、一礼すると部屋を出て行った。
どうせデガルの用事が済むまでここで待つのだし、これぐらいは構わないだろう。
テーブルの上の木皿に綺麗な干菓子が並んでいたので、どれを食べようかと真剣に悩んで見つめる。そんな彼女の様子を、隣に戻ってきてテオドロスはニコニコと眺めていた。
ら、ドカドカと乱暴な足音がして、これまた開いたままの戸口から、ロベルで会ったぶりのアルシ・デガルが登場した。
「失礼します、オルブライト夫人!」
「こら! アルシ! 無礼だぞ!」
すぐ後ろから彼を追いかけてきたらしいオーケンも現れ、一つの干菓子を半分に割って食べようとしていたロザリアとテオドロスは驚く。
「こちらにお二人がおいでと聞いて、飛んで参りました。どうか、ご無礼をお許し下さい」
跪いて許しを請われ、ロザリアは意味が分からずに目を丸くする。デガルの方から挨拶に来てくれたのだろうか? それにしては勢いがおかしいし、オーケンの様子も気になる。
「お久しぶりです、デガル殿。思いがけず知り合いが近くにいたので、挨拶をしたいと思っていました」
無礼に慣れていないロザリアがポカン、とする中、テオドロスがそんな彼女の肩を抱き寄せて穏やかに言った。
突然の出来事だったが、テオドロスの腕の中にいると、ロザリアはどんどん心が落ち着いてくる。
そうなれば、冷静な思考と観察眼が戻ってきて、オーケンとデガルの様子を隈なく観察仕出した。
「俺もお会いできて嬉しいです。ロザリア様と是非……またお話ししたかったので」
「アルシ!」
どう見ても大層焦っていて、とてもただの挨拶に訪れただけには見えないデガルと、そんな彼を止めようとしているオーケン。
デガルはロザリアに挨拶とは別に言いたいことがあり、彼から怒りなどを感じないことから、助言もしくは解決策を求めていると考える。
オーケンは、デガルがそうすることを止めようとしている。先日話した彼はロザリアに随分心を開き、養女にならないか、と提案してきたぐらいなので、デガルの話を聞けばロザリアに迷惑がかかるかもしれない、と心配しているのだろう。
「……ロザリア」
テオドロスの低く落ち着いた声に、ロザリアは微笑む。
オーケンがロザリアを巻き込みたくない、と心配するならばそれはアスターの国絡みのことで、デガルがそれを話したい、と思っているのは、内容がロザリアならば解決出来る可能性があるからだ。
それはつまり、元アシュバートンの王妃としてロザリアの得意な分野の話だということ。
アスターの歴史書の件が解決してしまったので、少し退屈していたロザリアだ。
ロザリア自身とテオドロスに危険が及ばない限りは、新しい謎は大歓迎。好奇心旺盛な彼女の瞳が、きらりと輝いた。
「まぁ、そのお話し、是非お聞きしたいわ」
にっこりと微笑んでロザリアが言うと、デガルは嬉しそうに表情を輝かせ、オーケンは苦い顔をした。
テオドロスは活き活きとした妻を見つめて、うっとりとため息をつくのだった。




