第八話 攻略開始
翌日、朝のギルド会議の冒頭でおっさんが――
もう一人転移者がいるのことが判明したのですが、転移初日にダンジョンに入ってしまったようです。男性で、身長が百八十センチ以上ある非常に大柄な方ですのですぐに分かると思います。
見かけたら声をかけてギルドのことを知らせて欲しいのですが、最後に目撃された時にちょっと混乱している様子だったようなので、挙動が不審だと感じたら声を掛けずに私たちのほうに報告をお願いします。と、例の奴の――危険をさり気なく希釈した――注意報を出した。
続けておっさんが昨日のオレ達三人パーティーと一緒に行動した結果、調査二時間半で入手した金貨が八枚だったことから、まずはダンジョンに慣れるために慎重に行動した場合でも、パーティーの一時間あたりの金貨入手枚数は三枚以上にはなりそうです。と報告した後、今後のダンジョン攻略についての説明を行った。
三階のモンスターであるゾンビは一匹で行動しており、動きが遅く、のぼり竿の頭部への攻撃が非常に有効です。それこそ軽く叩くだけでもモンスターは消えてしまいます。そして金貨を一枚、三分の一くらいの確率でドロップするようです。
注意すべき点はその臭いです。臭気と言って差しつかえのない程ですので、出来るだけ距離を取って叩くこととゾンビに接近して攻撃する時は息を止めておいて、頭を殴った後は離脱するような感じで動くのが良いと思います。
のぼり竿は伸ばした状態で使う場合は、両手で槍のように持って使い、天井や壁にぶつかることがないように注意して下さい。それと、臭いは残留しないようです。
少し見にくいのですが実際の討伐については動画での撮影を行いましたので、確認されたい方は会議の終了後に私のほうに申し出て下さい。
尚、一日分の食費となる金貨三枚と宿泊費となる金貨一枚の合計四枚が、一人あたりの必要経費とした場合、三十人では合計百二十枚ですので、この百二十枚を攻略組の二十人で割ると、攻略組の人たちの一人あたりの本日の目標は金貨六枚で、それにパーティーの人数を掛けるという計算になりますが、実際に体験した限りでは、決して無理な数字ではないと思います。
初回ということで午前中十二時までの三時間弱の探索を行い、獲得した金貨で全員で昼食を食べた後に、午後の攻略を行いたいと思っています。
安全第一で、まずは様子をみてみましょう。とおっさんが提案して、攻略組の皆の了承を得た。
その後、攻略組六組二十名がゾンビ特効武器となる異世界のぼり竿で武装して、ダンジョン本格攻略を異世界転移三日目にスタートさせることとなった。
否、五組二十名か。流石にソロは無謀だと思い、昨日同様、おっさんにオレたちのパーティーの助っ人として参加してもらったのだ。
それから攻略組二十人全員で三階のダンジョンに侵入した。
皆で連れ立ってぞろぞろと歩き、前方にゾンビを発見し、オレが経験者代表として、ぽこんとやるとゾンビが消える。今回は残念ながら金貨は落ちなかった。
そして「こんな感じです」と言うと、皆がこれならば何とかなりそうだ。と安心したようだ。
おっさんから、ゾンビの臭いに注意するようにとの再度の注意喚起が為された後、皆に代わる代わるの討伐を経験して貰った。
相変わらずゾンビの出現は一匹なので、その後二つのグループに分かれ、ダンジョンをマッピングしつつ進んだ。
佐藤や鈴木じゃないけれど、ゾンビは兎に角臭くて敵わん、自分たちが臭いことに頓着していない様子なのにも腹が立つ。
ダンジョンの端っこで、もっと謙虚に生きるべき存在が、何を血迷ったのか擦り寄ってくるとか、どれだけヘイトを稼ぎたいのかと思うわけだ。
幸いなことに、ダンジョンの魔物は、ぶっ殺せば消えるわけだが、ぶっ殺すとは言っても、実際にはゾンビの頭をぽこんと叩くことでしかないし、ゾンビの外見は灰緑色で人間には到底見えないこともあって、暴力的解決という――極めて野蛮で伝統的な――手法を採るオレ達に、改悛の情を覚えさせない。
寧ろ臭いものの消去、という美化活動なのである。
まあ、ダンジョン神(自称)による超人兵士バフが効いていることもあるんだろうとは思う。
ダンジョンを探索しながら、そんなゾンビたちの頭をぽこんと叩いて撲殺していく。もしかしたら予備校生ゾンビは、オレの近い将来の姿なのかも知れないが、時に「あーうー」と人語とも思えぬ発話をしながら、噛みついて仲間を増やすために近づいてくる生ゴミは、頭を叩くに限る。
佐藤と鈴木も昨日で慣れたのか、臭いと言いつつもマップ作りの作業の合間にゾンビ見かけると、寄って行ってはぽこんと叩いている。
くっ、臭い粒子の話がしたい……
ダンジョン三階には、今日もゾンビしか居なかった。おっさんは通路をあれこれ調べていたが特に罠などは発見出来ず、オレ達は順調にゾンビを金貨に変えていった。
そしてお昼前に全員が無事ギルドに帰還、今回は池田さんパーティーも居る。
攻略組全員での獲得金貨は計五十二枚だった。昨日よりもドロップ率が上がっているようで、どのパーティーも好調なようだ。怪我人も出ていない。ゾンビの臭い被害者は高校サッカーチームの田中君と加藤君だけのようだ。
それからギルドメンバー三十人全員にそれぞれに昼食の費用となる金貨一枚と、攻略組には水筒代わりにするためのペットボトルの水の購入代金、金貨一枚が追加で支給された。
オレたち三人は水筒用のプラスチックボトルを持っていたので、お小遣いとして取っておくことにした。
そして昼食後の午後早くにダンジョン四階への階段が池田さんたちのパーティーによって発見され、新たな階層の攻略が始まった。尚、四階に出現するモンスターもゾンビだ。そしていずれも一匹だった。
本格攻略初日の成果となる獲得金貨は目標以上の計百五十枚でした。と夜におっさんから皆に報告があった。単純に三十人で割れば五枚だ。
自転車操業状態ではあるが、ダンジョン攻略がなんとか進みそうである。
夕食の時に、おっさんに攻略参加のことを聞いてみたら、日本では百聞は一見に如かず。という言葉の方が良く使われますね。人に話を聞くよりは実際その目で見た方が、より分かるのは事実でしょう。それが見るだけのものであれば充分です。
しかし、人がやっていることを見るだけで、それを分かろうとするのは無理がある。
それで満足してはいけない。
実際、現場の目線でものを考えるためには現場に行ってみるだけではなく、実際に自分でやってみないと分からないことが多いんです。これからも出来るだけ機会を作って攻略に参加していきたい。とのことである。
そして、その後の夜のギルド会議終了時に、全員に宿泊費である金貨一枚が渡され、全員が元ホットヨガスタジオな宿屋に泊まった。
個室と言って良いのか、広さは二畳もないし、二段になった詰め込み型なカプセルホテル風ではあるのだが、ベッドはふかふかと柔らかく、シーツも真っ白、おまけにシャワーも宿泊費に込みなのが嬉しい。
ちなみに、ダンジョン神(自称)の配慮なのか、宿は男女LGBTその他に区分けされていた。