幼馴染の橘瑛舞
ゲームしてたら悠久の時が流れていましたすみません。
前話でこの世界の男女比が変わってしまった理由の説明をしていたのですが、男の性欲が減退したという旨も追加しました。でないと伊波のお気に入りの内容が変わった理由がないですよね。失礼しました。
ピピピピピピッ。
「うーーーーーん」
先ほどまでアラームをかき鳴らしていたスマホを見ると6時を示している。いつも俺が最初にアラームを止める時間だ。ここから5分ごとにスヌーズが鳴って最終的に6時半に起きるのが俺のモーニングルーティーンだ。ってことでおやすみ。
無事にルーティーンをこなしリビングに降りるがそこには誰もいない。両親は昨日帰ってきてないし星奈は朝練でもうとっくに家を出ているからだ。星奈は水泳で全国大会に出るくらい打ち込んでいるが、そのための努力のひとつがこの朝練だ。
普通の部活ならせいぜいグラウンドに7時集合とかだろうが、星奈は中学校に水泳部が無く、プール施設の運営するスクールに通っている。スクールの朝練はプールが一般向けにオープンする前に行われるので、6時スタートとかでくそ早い。6時スタートということはもちろんその前に到着していなければいけない。大体毎日朝練はあるから、基本的には俺が起きる時間に星奈は家にいない。
誰もいないなら朝ご飯も自分で作るしかない。とはいっても自分の食べるためのご飯なんだから適当でいい。六枚切りのパンにチーズを乗せてトースターに入れ、ジャーで水を沸かす。空いている時間で今日の持ち物を準備。昨日の残りもないし今日は弁当じゃ無くていいや。
準備が終わった頃にはトーストもできているので沸かしたお湯でレトルトのポタージュを作って、いただきます。
食べ終わったら皿を流し場で水につけておく。朝は忙しいから皿洗いは帰ってからでいいっていうのがウチのルール。洗顔と歯磨きをして髪を軽く整えたらもういい時間だ。
「いってきまーす」
家に誰もいなくてもいってきますとただいまは言うのがマイルール。玄関の鍵を閉めていると隣の家の玄関扉が開く音がする。そちらを振り向くとどこか異国情緒のある佳人がいた。
「おはよシュン」
「おはよー瑛舞」
我が幼馴染の橘瑛舞だ。彫像を思わせる大きな瞳と高い鼻筋はイギリス人の母親譲り。出るところは出つつすらっとしているという理想のようなスタイルをしている。身長こそギリギリ負けていないものの、膝上丈のスカートから覗く美脚を見るに足の長さは負けているだろう。ちくしょう。
「今日バイトの日だけど覚えてるわよね?」
「もちろん覚えてるしちゃんと空けてるよ」
「別にバイトなくてもシュンは大体放課後空いてるでしょ」
「なんてこと言うんだ」
瑛舞、真実は時に人を傷つけるぞ。だって放課後でも遊べるくらいの仲の友達って孝也くらいだけど、孝也は部活命なんだよ。そしたら放課後は1人でゲームするくらいしかないじゃんよ。
「そんな顔しないでよ。しょうがないから今日のバイト私も一緒にいてあげよっか?」
「元々瑛舞も今日は一緒って聞いてるぞ」
「ちぇ。知ってたのか」
話の流れから察せると思うけれど僕のバイト先には瑛舞もいる。まぁ瑛舞もいるというか…その話はまた今度でいいか。
雑談しながら歩いていたら駅にたどり着いていた。定期で改札を通り抜けてちょうど着いた電車に乗る。呼吸もしづらいほどすし詰めの満員電車とまではいえないが、朝の電車はやはりなかなかの乗車率だ。
いつも電車の中では2人ではあまり話さない。満員電車で人がすぐ近くにいるというのもあるが、1番の理由は僕たちが通う高校ではほぼ毎日何かしらの小テストがあり、その勉強を僕も瑛舞もしたいからだ。
小テストの難易度は前日からみっちり対策するようなものではないが、授業前の5分の休憩時間の勉強では足りないくらい。それなら登校中の電車に揺られる時間はその勉強に使えばいいじゃん、というのが高校に入って1週間ほどで2人が出した結論だった。
そんなわけで電車に乗ってから英単語帳を集中して10分くらいペラペラめくっているわけだが、今日の範囲は割と簡単な単語が多かったので大丈夫そうだ。これならあとは授業前に見直せばいけそうだ。きっと今日覚えた単語も明日には半分くらい忘れてるんだろうけど知ーらない。まだ受験生じゃないんだから目の前の小テストを乗り越えられればいいんだ。
(瑛舞は何の教科やってんだろ)
そう思って瑛舞の方を向くとぱっちりとした目と視線がぶつかりドキッとする。なぜかは知らないが瑛舞もこっちを向いていた。瑛舞もまた目が合うとは思っていなかったようで、目を逸らしながら焦ったように喋り出す。
「え、あ、ど、どしたのシュン。もう今日の分見るの終わったの?範囲どこだっけ?私のクラスがもうやったとこだったらどの単語出たか教えるけど」
「うん、今日の範囲はmechanicalからのとこで簡単なやつだったから大丈夫そう。てか他のクラスのテストと問題違ったりするから教えてもらっても意味ないんじゃなかったっけ?」
「いやもしかしたら同じ問題出てくるかもしれないでしょ?でもその範囲だったら昨日やったけど簡単だったし多分大丈夫ね」
まだ少しドキドキしているが、目が合ったことなどまるで無かったかのように会話が進む。なんでこちらを向いていたのか聞きたいが、それを聞くことがひどく恥ずかしいことのように思えて切り出せない。
「そっちは古典?今回の範囲どんな感じ?」
「まっじで大変よ。授業で出てきてない単語ばっかりだし、現代語にありそうな言葉なのに意味全然違うやつもあるしで結構頑張らないとかも。古典1限だから前の授業で内職ってわけにもいかないし」
「うわーそれはお疲れ、頑張って」
向こうが大変そうならこっちが終わったからって喋りかけるわけにもいかないし、大人しくSNSでも見てるか。
ポケットからスマホを取り出しながらチラリと瑛舞を見ると、先程まで自分に向けられていた麗らかな目は古典単語帳の上を滑っていた。
空調の効いた電車内は涼しいはずだったが瑛舞の頬は少し色づいている気がする。僕の頬と同じように。
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