六人の悪役令嬢! 悪役令嬢が多すぎる不発乙女ゲームに転生したので羽目を外して魔王に愛されます。
……何ていう事だろう、私伯爵令嬢キャスリーヌ・ヴァイセンフェルトは幼い頃から許嫁として長い時間を共に過ごし、相思相愛だと信じ込んでいた王国の第二王子アルカジア・ランフェルートから人々の視線の中、お城の大広間で突然の婚約破棄を突きつけられてしまった。
「貴様……敵国の王子と結託し、国軍の機密情報を流出させ、さらには悪の貴族達を扇動しこの国に革命を起こそうとしていた事、ここにいるラフィエラ・アロミエルから全て聞いたぞ。相違無いな?」
「友達だと……思っていたのに……今でも信じられません」
愛しのランフェルートの横に居る、ラフィエラはわざとらしく薄っすらと涙なんかを浮かべながら、きっちりと私に指を差し全くの真っ赤な嘘のでっち上げを告げ口している。
ラフィエラ・アロミエルは庶民の出ながら貴族が通う王立魔導学院に飛び級で進学して来た草の根的少女。私はいじめられている彼女を何かに付けて助けて来て上げたはずだが、何でそんな嘘を付いちゃうの?? しかもランフェルートってそんな告げ口一つで嘘を信用して、貴様とか言っちゃうなんて変過ぎるわよ。
「そ、そんなの全てでっち上げの嘘ですわっ、何か証拠がありますの? 私を信じてランフェルート」
「ええい貴様まだ言うかっ! これが証拠の敵国王子への手紙だ! 筆跡鑑定も済んでいるぞ!!」
「そ、そんな……筆跡鑑定だなんて……この世界にあるの……」
「本来なら断頭台に行くべき重罪、しかし長い間一緒に居ながら罪を見抜けなかった僕の落ち度でもある……そこでキャスリーヌ・ヴァイセンフェルトを国外永久追放とする!!」
がーーん、そんな事って……これからどうして生きて行けばいいの? という不安感と恐怖心の他に私はおかしな既視感に襲われていた。あれ、これ何か見た事ある、凄い見た事ある!! と。単なるデジャヴュ? いや違う思い出した、これは前世で私が寝食も勉強も忘れて熱中した乙女ゲームの一場面にそっくりである事に。そう『ヴァイセンフェルトは振り向かない! 魔王に見初められし悪役令嬢』がそのゲームだ。
このゲームは悪役令嬢ブームに便乗して、悪役令嬢モノに出て来る様な過激な乙女ゲームは実際には存在しないというユーザーの不満に対応し、小説の物語中に出て来る架空の乙女ゲームを実際に制作したら? というコンセプトのもとに作られた物だった。ゲームは一週目は実際に悪役令嬢小説に出て来る様な悪の悪役令嬢をプレイヤーが操作し、ヒロインつまりラフィエラに数々の意地悪を連発して陥れ他にも悪事を為し、それが発覚して最後は国外追放や断頭台に登る事的な数種のエンディングを迎える。所謂ハッピーエンドは無い。そして二週目、ようやく今度は改心した悪役令嬢としてゲーム内でループ転生しテンプレよろしくヒロインを助け下僕を増やし逆ハーレムに貴族や王子をはべらせてエンディングを迎える。
でも残念ながらコンセプトが良く分からないという理由で発売三か月後には1,980円でワゴン行きとなったが、どうしてだか私は度ハマリして寝食を忘れてプレイしていたのだ。
……いやちょっと待て、私は一生懸命いじめられてるラフィエラを助けてたじゃないか、つまりそれは私の他に新たなる雑魚悪役令嬢が発生している二週目のストーリーで私は国外追放なんてされる訳が無いのに。ちなみにヒロインとも友情を育み、ヒロインが実は転生者で悪役令嬢化する……なんてストーリーも無かったはずだが。
「……こんな時に何を長時間ぼーっとしている? この者を捕縛せよっ!!」
このゲームが現実なら現実を忘れ物思いに耽る私に向けて縄を持った城兵が迫って来る。
ドドーーーン! バリーーーン!
と、突然お城の大広間の壁と窓が爆発し、妖しいマスクを付けた謎の集団が押し入って来る。
「きゃーーーっ」
「何何? 何が起こっているの?」
「ええい、賊を逃がすな!!」
人々が大騒ぎする中、私の腕をガッと掴む者が。
「助けに来た、一緒に来い!!」
この声には聞き覚えが……二週目で仲間となり私を何かに付けて助けてくれる魔王のエルメリッヒだ。つまりこの世界はやはり二週目なのか。
―魔王城。
「気が付いたか?」
ふと目を覚ますとエルメリッヒの魔王城の一室で眠っていた。いろいろな事が起こり過ぎてショックで眠ってしまっていたのだろう。
「此処は何処?」
私は知っているが一応聞いてみた。
「魔王城だ。驚いただろうが聞いて欲しい。この世界はゲームの中の世界らしい」
ええ、知っていますとも。しかし魔王は何故その事を知っているのだろうか??
「何故その事を?」
「実は……全て彼女から聞いた。入って来て良いぞ」
彼女? 誰??
するとドアを開けて若い女性が入って来た。その姿は見るからに悪役令嬢然とした高貴で冷たそうでツンとした美女だった。
「初めまして……わたくしは氷の悪役令嬢、ナターシャ・アリエナですわ、よろしくね」
え、そんなキャラ知らない……
「貴方が知らなくとも当然よ、私はダウンロード特典で手に入る三週目のプレイヤー悪役令嬢なの」
三週目? ダウンロード特典?? 全然知らない。どういう事なの。
「良く分からないわ」
「実は貴方が事故で死亡した5年後、突如このゲームが再ブームとなって、続編に近い新たなるシナリオとプレイヤーキャラがダウンロードで入手出来る事になったの……だから貴方は何も知らないのよ」
私の全く知らない世界……ていうか何で私が二週目しか知らずに死亡したとか知っているのよ!! ていうか不発のクソゲー扱いだったのだから、再ブームて言葉おかしくない?
「貴方の正体は誰なの? それに私はどうなるの??」
思いの丈を素直に聞いてみた。
「実は私は……貴方と全然関係無い赤の他人の転生者なの」
「全然関係無い赤の他人の転生者なんだー」
てっきりクラスメイトとか兄とかゲームを売りつけた店員とかゲーム開発者とか何か深い因縁があると思ってしまった。
「でも何故私が転生者だと?」
「それは……彼女達に聞いてくれれば分かりますわっ」
「彼女達??」
そう言われて部屋の中に新たに四人の若い女性が入って来た。
「私は極貧の中でも輝く華、ライフハックならおまかせっ貧乏悪役令嬢のデイジー!」
デイジー……急に名前が手抜きに!? 貧乏な時点で令嬢じゃ無くない!?
「私は毒物と黒魔術ならお任せ、ヤンデレ悪役令嬢のクロミザよ……うふふふ」
クロミザってモロに名前が黒い頭巾をかぶった可愛い生物のアレっぽくてヤバイですわよ。
「くくく、悪の華を見せてやるよ……徹頭徹尾悪、三週目ですら反省しない絶対悪のシャレにならん悪役令嬢、マーガレッティ!! よろしくな」
……絶対友達になりたくなーーい。
「ヒロインは仮の姿……影の支配者的悪役令嬢、ラフィエラ・アロミエル……よ」
最後に入って来た子を見て驚いた、ラフィエラだった。
「ちょ、ちょっと貴方、どういうおつもり!? 私を陥れてぬけぬけと……」
「待ちたまえ、この子はあのラフィエラでは無い。三週目で悪役令嬢として出現するパターンのラフィエラなのだよ」
食って掛かる私を魔王が優しく制止した。
「私ラフィエラと城に居たラフィエラは本来同時に存在しては駄目なバグ。あの子と私が出会うと対消滅反応を起こしてしまうの……最終兵器として使って下さい」
……使わないわよ! 何よ対消滅反応って怖すぎでしょっ。
「そ、それでこの子達がどうしたって言うのよ?」
「つまりこの子達は全て熱心なゲームのプレイヤーであり、彼女達の元が何等かの理由で死亡した後に、生前最も愛した自分のプレイヤーキャラに転生したのだ。私はその事に気付き、彼女達を救って回っていたのだよ……」
ああ、エルメリッヒはこの壊れた世界でもプレイヤーの悪役令嬢を助けてくれる優しい役なのね。
「一週目が正悪役令嬢として破滅、二週目が反省悪役令嬢としてハッピーエンド、なら三週目はどんな展開ですの? 私プレイする前に死んでしまったみたいで分かりません……」
私の素朴で簡単な質問に何故かエルメリッヒは黙り込んだ。
「ど、どうしたんですの? 教えて下さいっ!!」
「…………………………………………百合になる」
魔王エルメリッヒはぼそっと小声で言った。続けて氷の悪役令嬢ナターシャ・アリエナが教えてくれる。
「製作者が迷走して……普通のイケメンを取りあう乙女ゲームから、百合に路線変更したの……うふふ、つまり此処に居る私達は全て百合ゲームと化してから入ったプレイヤーなのですわっ。魔導学園の生徒も複数の魅力的な女性が編入されていますの……」
あ、ああーーーーー製作者の人、折角再ブームの最中に迷いに迷って百合に走った……。私は額に手を当ててくらくらした。しかし今時分、あからさまに嫌悪感を示すと差別主義者のレッテルを貼られてしまう。でも私は百合じゃない……どうすれば……出来れば此処にいる魔王様と仲良くしたい。それが今出来る最善の道。
その夜。
「魔王さま、私達どの様にすれば良いと思いますの?」
私は一人魔王の書斎に入り、今後の身の振り方を相談した。
「……詳しい彼女達の話によると、百合ゲームと化した物語ではプレイヤー以外の悪役令嬢は攻略対象となる。つまり彼女達にとって君も攻略対象足りえるのだ。しかし二週目しか経験していない君はその話は苦痛であろう……私もどうしてやれば良いか悩んでいるのだ」
魔王様の話を総合的にして考えると、彼女達は三週目の百合ゲームと化した世界のプレイヤーキャラクターだが、この世界、私がさっきまで過ごしていた世界はノーマルな乙女ゲームの二週目に相当する……彼女達は生まれ来る世界を間違えてしまった様だ。いや……私もか。
「魔王様……此処に居るラフィエラと、都に居るラフィエラを出会わせて対消滅反応を起こしてしまったらどうなるのかしら?」
私は思わず最大の疑問を投げ掛けた。
「……それは私にも分からない。この世界が正常に戻るか……はたまた無に帰すか……全く想像も出来ない」
魔王は目を閉じてゆっくりと首を振った。魔王様にも分からないだなんて……しかし私は何故か好奇心に歯止めが効かなかった。
「……魔王さま、私どうしてもどうなるか見てみたいの」
「君はそれで良いのかい? 私の力があれば君を振った王子にざまぁ出来たり、取り敢えず適当なイケメンを連れて来てそれなりの幸せにしてあげる事も出来るのだよ」
魔王の言う事も最もだった。ゲームのキャラならゲームの世界設定に与えられた小さな幸せを追求するのが最も正しい道とも言える。しかし今となっては多少壊れているけど、ゲームの設定通りに動く王子にざまあしたって何の意味も感じない私が居た。それに……
「私……ゲームとして一番好きなのは二週目で仲間になって助けてくれる魔王様、貴方が一番好きなんです。だからもう王子にざまぁとかどうでも良いのです。ですからゲームのプレイ期間である残り二年間、幸せに二人で暮らして頂けませんか?」
私は勇気を振り絞って思い出した本心を打ち明けた。
「……実は……私も其方を一目見てから心から好きになってしまった。其方たちが言うゲームのプログラム、設定なのかも知れないが、もはやそんな事はどうでも良い。我も其方と一緒に暮らしたいと思う」
そう言って魔王様は私を優しく抱き締めてくれる。凄く嬉しい。
私達二人はそれから二年間という物、とても幸せに暮らした。残りの悪役令嬢たちも街から可愛い女の子を連れて来たり、自分達で愛し合ったりあまり深く関わらない様にはしていたが、それなりに幸せに暮らしていた様だ。
「魔王様……どうしましょう……プレイ期間である合計して三年間が過ぎてしまいそうなのです」
私は立派な椅子に座る魔王の大きな体に抱き着きながら訴えた。
「三年が過ぎるとどうなるのだ?」
「三年を過ぎても好感度が上がらずエンディングが見れていないと強制エンディングが起こって、全てゼロに戻ってスタート地点に還ってしまうのです。けれどこの世界で何がエンディングに相当するのかも、もう分かりません」
私は目を閉じて眉間にしわを寄せて苦しみながら言った。この幸せを失いたく無かった。
「だとすれば魔王エンディングというのはあったのかな?」
「い、いいえ……魔王様は色々とサポートしてくれて助けてくれるけど、最終的に結ばれるのは人間の男性のみ。魔王様は攻略対象では無く、最後は王子達に討伐されてしまうの……」
私はさらに強く魔王を抱き締めた。
「それは悲しい別れだな」
「タイトルに魔王って書いてるのに攻略対象じゃないなんて詐欺だーって小さい騒ぎになって」
魔王様も暗い将来に声が小さくなってしまった。
「このまま……じっとして消えてしまうのは嫌です……駄目元で、どうなるのか分からないけど、ラフィエラ同士を鉢合わせて対消滅反応を起こしたいの……一緒にやって下さい……」
私は半分心中に近い気持ちで訴えた。
「良いだろう……一緒にやってみようじゃないか。君となら思い残す事は無い」
私達二人は夜の書斎で体を寄せ合った。
私達二人は遂にラフィエラ同士を鉢合わせる為に、お城の庭園にラフィエラと悪役令嬢化したラフィエラ、二人を騙しておびき寄せた。
「……こんな所に本当に行方不明のキャスリーヌが居るのかしら? あれから二年、何をしてたのだろう?」
一応正ヒロインのラフィエラが手紙を持ちながら庭園をキョロキョロしながら歩いて来る。
「……あんな所に私のファンの町娘が待っているのか?」
そこに悪役令嬢と化した側のラフィエラも歩いて来る。もう少しで二人は鉢合わせし対消滅反応が起こるはずだ。
「待て――――――!! その二人、そこで止まれーーーーーー!!」
残りの四人だった。それぞれ自前の武器を持ち、魔法を放ち二人の対面を阻止しようとする。
バチバチバチ!!
ガキーーーン!!
カキーーーーーーーーん!!
魔王様もこうなる事をあらかじめ予想し、準備していた武器と魔法で激しい攻防を繰り返した。
「な、何なの!? 何が起こっているの!?」
お城の近くで普通に暮らしていた正ヒロインのラフィエラが激しい閃光の中で繰り広げられる攻防に腰を抜かしておののく。
「魔王さま! どうしましょう、こんな騒ぎだと二人のラフィエラに逃げられてしまうわっ!」
「仕方ない……例え彼女らを殺しても、無理やりにでも二人のラフィエラを遭わせる、其方の望みの為にっ!!」
「魔王さま……」
私は結果がどうなろうと嬉しかった。
「……私を街のラフィエラに会わせようとしてるのね?」
「くっ」
彼女達と魔王様の激しい戦闘の一瞬の隙を突き、突然私の横に悪役令嬢と化したラフィエラが武器を持ち迫った。特に戦闘力が強い訳でも無い私は突然の事だが死ぬ事を覚悟した。
「私の最後の望みを聞いて……そうしたら、街のラフィエラに会ってあげるわ」
突然の言葉に驚く私。
「望みって何かしら? 命とか??」
その言葉を聞いて悪役令嬢と化した側のラフィエラが悲し気ににっこり笑った。
「……私が一番好きなキャラ、それは貴方なのよ。キャスリーヌ・ヴァイセンフェルト、悪役令嬢の貴方が一番好きなの。最後にキスをして、それであの子、ラフィエラに遭ってあげるわ」
私は絶句した。そんな気持ちを抱いていたなんて全く気付かなかった。でも迷いは無かった。
「ええ、いいわよ。ごめんね……でも私は魔王様が好き」
「それでいいのよ」
そう言うと、ラフィエラは私の唇に軽く口付けをした。当然女の子相手なんて初めてだった。だが悪い気はしなかった……
「じゃ、ね、出来ればまた会えることを願って!」
悪役令嬢と化した側のラフィエラは走って行くと、戦闘の間近で腰を抜かしている同じ姿をした街のラフィエラに抱き着いた。
カッッ!!!
その直後、抱き合う二人を中心に白い光が広がって行く。
「駄目ーーーーーーー消えたくない!!」
「一体どうなるの私達!!」
他の悪役令嬢たちが恐怖に叫び声を上げる。
「魔王様っ!」
「ヴァイセンフェルトッ!!」
一瞬で私の元に戻って来てくれた魔王様と私も強く抱き合ったまま白い光に包まれた。
「寝てたぁーーーーーー!!」
寒い冬の夜、コタツに突っ伏してた私はがばあっと飛び起きる。ずっと度ハマリしている不発乙女ゲームをしたまま寝てしまっていたのだ。
「あ……れ? 生き返った???」
私は煌びやかなドレス姿では無い、ださいジャージ姿の全身を見て驚いた。
「夢……夢オチ?」
ふぅーーーっと溜息を付きながら思わず『ヴァイセンフェルトは振り向かない! 魔王に見初められし悪役令嬢』のパッケージを見る。
「ふむふむ……パート2では新たに魔王も攻略可能に……ふーん」
え?
「パート2?? 魔王も攻略可能に??」
私は見覚えの無いゲーム内容に再び寝食を忘れてゲームをプレイした。その所為で実際に事故にあうはずだった日にも外出せず、事故にも遭う事無く普通に生き延びた。
「はぁはぁ根性で魔王様攻略したった……素晴らしいエンディングだ」
私は深夜、軽くハイになりながらエンディング映像を観続けた。最後にヒロインである私の分身と魔王が抱き合った画像でおしまいとなった。
『……あの光の中、これが精一杯だ……其方とその世界で再会する力は無かった。いつの日かまた会える日を……』
突然静止画像に噴き出しが付き、ぽつぽつと文字がたどたどしく浮かんだ。
「あああ」
私は画面に両手を置いて涙を流し続けた。ありがとう生き返らせてくれて。
ブックマーク、評価ありがとうございます。
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PVも☆評価も下がってしまったのですが、
中身と結末を微妙に変化させた
改稿版が御座います。両方消す事はありませんので、
よろしければ是非お読み下さい。