Merry Christmas?
「メリークリスマス!」
「…………は?」
なんだこの状況は。
今朝家を出発した時は何もなかったはずなのに、今やそこら中の壁や天井が飾り付けられ、今にもパーティーが始まりそうな空間と化している。
「は?じゃないでしょ! メリークリスマス!」
これまた今朝別れたばかりの顔が目の前でその瞳をクリクリと光輝かせている。
というかその格好は……
「サンタ?」
「そっ! サンタ! 結構似合うでしょー!」
「ああまぁ……じゃなくてお前何やってんだよ」
「それはこっちのセリフだよ! メリークリスマスって言われたら、メリークリスマスって言うの!」
どう考えても理不尽なことを言いながら頬を風船の如く膨らませている。
確かにその姿はケン〇ッキーのバイトサンタも顔負けな可愛らしさを放っているのだった。
「何で俺が。ってかもうクリスマス過ぎただろーが」
「だっかっらー! まだ12月だよ! 12月って言ったら毎日がクリスマスなんだよ! 毎日プレゼント貰えるんだよ!」
こいつの頭の構造はどうなっているのだろうか。
こんな子供たちがウキウキするような訳分からないことを言い始めるとは。
「………………お前低レベル」
「なっ、おまっ、そこまで言わなくてもいいだろ!? ってかそもそもお前には言われたくないね!」
「何でだよ」
「ふふん。俺のが年上だもんねー」
「…………」
「何その目! だってそうじゃん! 文句ある!?」
「……いいからお前は黙れ。頭が痛くなる」
「んなっ!?」
「黙れ」
「………………だからそこまで言わなくてもいいのに」
「五月蝿い」
「………………ううっ」
俺が相手にしないでいると、そっぽを向いて拗ねてしまった。
「は────……」
深い溜息をついて、俺は荷物を部屋に置くべく階段を上っていった。
「なんだよ……。あそこまで言わなくてもいいのに……」
階段を上りドアを開ける音を聞いてから、誰にも聞こえないように小さな声でそう呟いた。
「だって今日は────……」
「は────……」
部屋に入り荷物を置いてからも、自然と溜息が出てきてしまった。
今日は学校が冬休み前最後だったので終業式やら大掃除やらで大忙しだったのだ。
自分は生徒会長という非常に面倒な肩書きがあるため、一般生徒よりも準備や片付けやらで走り回っていたのだった。
「ったく。あいつも俺が疲れてることぐらい分かってるだろうに。ちょっとくらい休ませてくれよ……」
本日何度目かの溜息をついて自分のベッドに腰掛けた。
「クリスマス、ねえ……」
そのまま仰向けに倒れて天井を見つめてみる。
何であいつはあんな風にしていられるのだろうか。今までのクリスマスを思い返してみる。そう言えばあいつはいつもああだった。
去年も一昨年もその前の年も、そのまた前の日も、更にその前の前の前の前の前の前の前の前の前の前の前の前の年もずっと。
今年みたく突然クリスマスモードに入ることは無いにしろ、あいつはずっとああだった。
「…………なんだよ。これじゃまるで俺だけが────じゃないか……」
その言葉は誰の耳にも届かないくらい、消え入りそうなものだった。
気が付くと目の前では2人の男女が何やら揉めていた。
しばらくの間ずっと大声で怒鳴り合ってたのだが、突然2人とも口を閉じるとこちらを向いた。
笑顔で話かけてくる。
けれども何を言っているのか全く分からない。分かるのは何か自分に向かって話しかけているということだけ。
見るといつの間にか自分の隣には泣きじゃくっている自分とそっくりの顔があった。
そいつの泣き声は聞こえなかったがひとまず宥めて、先程の2人の方へ顔を向けた。
しばらく自分へ話しかけ続けていたが自分が無意識に何かを呟くと、2人とも急に口を噤んで自分に微笑みかけると自分から顔を背けてしまった。
2人は自分に微笑んだ時の顔のまま、お互いに向き合った。
すると、一体どこに隠し持っていたのやら2人は何かを取り出すと、それを相手に向けた。
そしてそのまま近づくと、それを────────────────────
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
気が付くと俺はベッドの上で横になっていた。
ゆっくりと起き上がると、そのまま何ともなしに視線を横に向けた。
そこには一枚の写真が飾ってある。
その写真に反射して映る自分の体が汗だくなことに驚きながらも、ふとあることを思い出した。
「ああそうか……。今日は────……」
そう言うと一階に向かうべく、部屋を出たのであった。
「何やってんだ……」
一階に戻るとあいつがサンタの格好のまま、ソファーの上で荒い寝息をたてていた。
その姿が微笑ましく、自然と笑みが溢れてきた。
揺すってみる。
「…………」
起きる気配はない。
「おい。起きろ」
今度は強めに揺すりながらそう言ってみた。
「ふぇ?」
頭がはっきりしていないらしい。
「あれ? 何でここに…………ってあれ?」
嫌な夢でも見ていたのだろうか。
びっしょりと汗をかいている。
「あれ?じゃねぇよ。クリスマスパーティーやるつもりだったんじゃないのか?」
「へ?」
「早く始めよう。腹減った」
そう言うと、目をぱちくりさせながらも、みるみる笑顔になっていく。
「え、いいの?」
「腹減った」
「あ、うん! 分かった! 今ごちそう出すから!」
そう言うとパタパタと台所に走っていった。
目の前にはテーブルを埋め尽くすほどたくさんの御馳走が並んでいる。
そしてその御馳走達の更に先にはあいつの満面の笑み。
「じゃあいくよ!」
「おう」
「いっせーのーせっ!」
「「メリークリスマス!」」