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【完結!】ぼくらのオハコビ竜-あなたの翼になりましょう-  作者: しろこ
第19章『最後の一日』
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『おはようございます。オハコビ隊報道局がお送りする、ニュースAIRのお時間です』



壁に備えられたモニター画面に、


銅色のオーバル眼鏡をかけた女性キャスターが映った。


凛々しいショートヘアの人間キャスターだ。



『――警備部が昨夜にて決行した、『スズカ様救出作戦』が完了いたしました。


対策本部の発表によりますと、黒影竜のガオルが潜伏していた島から救出された


スズカ様は、とくに外傷は見られず、健康状態も良好であるとのことです。


しかし、警備部の調べによりますと、ガオルは潜伏地点にて、


高度な科学実験施設を持っていたため、スズカ様の体を複雑な科学実験に


利用していたということですが、詳細は不明です。オハコビ隊は現在、


セントラル・ターミナル内にある医療施設にて、スズカ様の体に異常がないか


検査を進めております。



黒影竜のガオルにつきましては、警備部と、対策本部が編成した


特殊戦闘部隊の活躍により、その身柄を完全に拘束され、現在、


竜族大監獄『リンドブルム』に収監されているとのことです。



今回起きた、オニ飛竜によるセントラル・ターミナル襲撃事件と、


それにともなう黒影竜ガオルによる地上人ツアー客誘拐事件について、


新たな事実が判明いたしました。警備部の調査の結果、


この二つの事件の背景には、オハコビ隊エンジニア部所属のハマ・クロワキ氏が


深く関与していたということです。



クロワキ被告は、オハコビ隊の科学技術の責任者である


《マスターエンジニア》の一人として、長年エンジニア部を牽引していました。


しかし今回、ガオルの計画を援助していた証拠が発覚したことにより、


現在は警備部によって身柄を拘束されています。


クロワキ被告は、今年三月、エンジニア部の実験施設がある島を訪問中、


ガオルから直接的な接触を受け、計画を援助するよう強引に迫られたと、


先ほど警備部の取り調べにて自供しました。


これらを受け、現在オハコビ隊全体に激震が走っている状況であり――』



「やっぱり、ガオルがやろうとしていたことや、


オハコビ隊にとって都合の悪い情報は、ある程度ふせられているみたいだなあ。


ガオルの恋人のガアナさんのこととか、


主任が死に際のガアナさんに遭遇していたこととか……」



フラップがニュースを聞きながら、そうつぶやいた。


今はフライトスーツをぬいでいて、作戦後のリラックス状態にあった。


頬の火傷部分に貼られた傷パッドは、まだそこに貼ったままだった。



「オハコビ隊に関わる人間が、瀕死の竜を見殺しにした、なんて報道されたら、


オハコビ隊を支援している竜族や亜人のスポンサーから、


悪評が広がるだろうし……」



ハルトは、じっと立っているフラップの横でソファに腰かけ、


ひたひたと迫りくる睡魔と戦っていた。他の子たちと違って、


ハルトはほとんど一晩中起きていたため、眠くて仕方がなかった。


のしかかるような眠気に、一瞬首がカクンと折れ曲がった時、


フラップがこちらを見下ろしてこう言った。



「だから言ったのに……ホテルで他の子たちと休んでいたほうがいいよって」



「……ううん。ここにいる」



しょぼしょぼとまぶたを手でこすりながら、ハルトは答えた。



「スズカちゃんの検査が終わるまで、ぼく帰らない……


すぐにあの子を迎えてあげられるように、ここで待っていたいからさ……」



「このあと、フロルの病室にも行くから、


ホテルに帰るまでさらに時間がかかるよ?」



「フロルのお見舞いにも、いっしょに行くよ。


だって、ぼくたち二人とも、フロルにはお世話になったから……」



時刻は朝の七時。ハルトとフラップは、ターミナル第三層にある、


警備部が運営する例の病院のロビーにいた。つい先ほどまでは、


戦いのあとの事後検査のために、他の虹色の翼のメンバーも全員がいたが、


検査を終えてもロビーに残っているのはフラップだけだった。


多くの警備部員もここに詰めかけていたが、


今では検査を待つ部員数もだいぶ減っていた。



昨日のターミナル襲撃事件以来、


負傷者の看病のために一夜漬けで営業していた病院。


ほとんど一睡もしていない、竜や亜人の看護婦たちの懸命に働く姿に、


ハルトは今の自分をなんとなく重ねていた。


あのヒトたちのように、今のぼくは、少しでも大人になれているだろうか。


早くスズカちゃんの笑った顔が見たい。それまで、眠気なんかに負けるものか。



それにしても、ツアー期間中に三日連続でここを訪れることになるとは――


思えばこのツアーは、とんでもない展開続きだった。


おかげで、かなり刺激的な異世界ツアーになったのはたしかだったが――。



「オハコビ隊員のフラップ様。フラップ様はいらっしゃいますか?」



ロビーの奥の通路から、白い猫の看護婦がやってきて名前をよんだ。



「あ、はい! フラップはぼくですが」



フラップが看護婦のところへむかった。スズカの検査が終了したに違いない。


ハルトも眠気をふりはらいながら席を立つと、すぐにそのあとに続いた――が。



ドシン!



ハルトは勢いあまって床に転倒してしまった。


ひじとひざを同時に打ちつけてしまい、ずきずぎと痛んだ。



「大丈夫です!?」



フラップが手を差しのべてきた。ハルトはその手につかまって立ち上がった。


いきなり、恥ずかしさで顔が紅潮した。


ああもう、ちゃんと寝ていないせいだな、これは。



「あわてない、あわてない」と、フラップが言った。




「フラップ様、お待たせいたしました。


スズカ様の検査がすべて終了いたしましたので、ご案内いたします」



ハルトとフラップは、白猫看護婦のあとに続いて、明るい通路を進んでいった。



しばらく歩いたすえ、


むこう側に『特別検査室』と扉の上に書かれた部屋の前にたどり着いた。


一分後、部屋の扉が開くと、水色の患者衣に身を包んだスズカが、


白い犬の看護婦とともに出てきた。さらに、モニカさんの姿もあった。


いつものように赤ぶち眼鏡をかけ、タブレット端末を小脇に抱えている。



「スズカちゃん!」


「スズカさん!」



元気よく出迎えたハルトとフラップに、スズカの顔がパッと明るくなった。



『ふたりとも! 待っててくれたんだね!』



スズカはふたりのもとにかけよった。



「検査の結果は……?」


ハルトはモニカさんに聞いた。



「心拍、神経、五感、すべて正常。


つまり、健康そのものってこと。安心だね、ハルトくん」



モニカさんは、ハルトの頭をそっとなでてくれた。



『心配かけちゃったね。わたしも、検査を受けてほしいって言われたそばから、


何かまずいことがあるんじゃないかって、ドキドキしてたよ』



「大変、だった?」ハルトはまた聞いた。



『ううん。検査って言っても、わたしは眠るだけだったから。


おかげでほら、ゆっくり休めちゃった』



スズカは両手を左右に目いっぱい広げて、元気のよさをアピールした。


あのキャンプ場でおどおどしていた時の彼女とくらべれば、


見違えるような変化だった。



『検査室にはね、オハコビ竜や亜人のお医者さんがいっぱいいてね。


わたしは、白くてゆったりした気持ちいいイスに座って、


いろいろ細かい装置をつけられたけど全然痛くなくて。


大勢にじっと見られるのは落ちつかなかったけど、


オハコビ竜の看護婦さんが甘い息を吹きかけてくれたから、


すぐにストンと眠れちゃった』



「――ホントにお疲れ様、スズカちゃん。


散々なツアーになっちゃって、申しわけないって思ってる」



モニカさんがスズカのそばに来て、そう言った。


彼女をよく見れば、目の下が少し落ちくぼんでいて、


昨日よりもやつれた様子だった。



「モニカさん……そろそろ、休んだほうがよいのでは?」



フラップが気づかわしげに言った。



「昨夜からほとんど眠ってないでしょう?


子どもたちのお世話は、オハコビ竜にまかせてください。


だってほら、今回はその……いろいろあったし……」



「心配ご無用」



モニカさんが笑顔できっぱりと言った。大したことはないと言いたげに。



「気持ちの整理ならついてるよ。


あの人が逮捕されちゃった今だからこそ、


わたしがしっかりと子どもたちのツアーの面倒を、最後まで見なくちゃ。


それに、今朝も『ドラゴンソウル』を飲んできたしね」



のちにハルトがフラップに聞いた話では、


遅くまで働く日も多いサポーターたちに愛飲されている、


強力なエナジードリンクの一種で、オハコビ隊が独自開発した商品らしい。



「ですが……」



「うん……まあ、でも……まだ整理が甘い部分もあるかも……


わたし、クロワキさんのこと、すごく尊敬してたから……」



クロワキ氏がガオルと通じていたことは、


すでにスズカもフラップの口から明らかにされていた。



ショックだった……あんなに優しい人が、自分をだましていたことが。


頭の中で真相をくり返し噛みしめるごとに、


今でもスズカは心臓に穴が開いたように辛い気持ちになる。


頭に着けたテレパシー・デバイスだって、あの人から貸してもらったものなのに。



「だから三月の頃、


あの人から今年のツアープロジェクトに誘われた時、もう嬉しかった。


それから、あの人の補佐官に任命されて、二人でツアーの行程をセッティングして、


いろいろと準備して……あの人、マスターエンジニアとして多忙な身だったのに、


プロジェクトのことを何も知らなかったわたしのために、


たくさんフォローもしてくれた。それに、今回の事件だってあの人、


結局は最後の最後までいい人だった……あの人の強い気持ち、


わたしがしっかり引き継いでいかなきゃ」



モニカさんの意気ごみに、ハルトもスズカも胸を打たれていた。



『本当に、最後までいい人だったの?』



スズカがたずねると、フラップがにこやかになってこう答えた。



「あの城でハルトくんがキミを助けられたのも、あの人のおかげですよ」



スズカは、別れ際までサングラスをはずしたクロワキ氏の顔を思い出していた。


あの疲れ切ったような笑顔は、長らく良心の呵責に苦しんできた顔だったのだろう。


だったら、あの人が逮捕されたのは、悲しいことじゃない。


むしろ、人を笑顔にするのが上手だったあの人のように、


笑って祝福するべきなのかもしれない……。



「さあ、フロルちゃんのお部屋に行こう」



モニカさんは言った。



「ハルトくんとスズカちゃんもおいで。


いろいろあったし、あの子とちゃんとお話ししておきたいでしょ。


――看護婦さん、よろしくお願いします」



白犬の看護婦がうなずいた。


彼女に続いて、背筋をのばしてついていくモニカさんのさらに後ろを、


ハルトたちは拍手を送りたい気持ちでついていった。



「やっぱり、モニカさんは素敵すぎます」



フラップがひとり言のようにつぶやいた。



「こういう人だから、ぼく、


これからもこの人と仕事を続けたいって思えるんです」


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