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【完結!】ぼくらのオハコビ竜-あなたの翼になりましょう-  作者: しろこ
第18章『光と影の決着』
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3-Ⅱ

ほどなくして、


フーゴが大勢の警備部員をともなって、子どもたちのもとへやってきた。



正面口階段上の足場がかなり狭くなっていたので、


フーゴと部下たちは空中で整列するほかなかった。


もともと勇猛かつ威圧感あふれる顔だったフーゴは、


額に痛々しい爪痕を負ったおかげで、


ますます貫禄が増したかのように子どもたちの目には映っていた。



十一頭の虹色の翼のメンバーが、フーゴの前で気をつけの姿勢になった。


フーゴは、フリッタの不在を気にしたので、


フレッドが、「行方不明です」と答えた。


するとフーゴは、あいつはあれでいてしっかりしている、


だから無事でいるだろうし、心配はないだろう……と、


あっさりした口調で言った。



フーゴの口から、さまざまな言葉が伝えられた。


まず、スズカの無事にたいする喜びと、謝罪。


彼もスズカの警護をまかされていた警備部の者として、


もっとも強い責任感を負っていたようだ。


オニ飛竜の襲撃にすっかり気を取られ、


ガオルの策略を見ぬくことができなかったと……。



「申しわけございませんでした!」



フーゴは部下たちとともにそろって首を垂れ、謝罪の言葉を述べた。



『……えっと、わたしこそ、ごめんなさい。


もういいの……こんなに大勢で助けにきてもらえたから』



スズカは、フーゴの顔を見て気恥ずかしそうにそう伝えていた。


サポートタワーのリフレッシュエリアで、


自分もわがままな態度を取ってしまったことを悔いたからだ。



それからようやく、フーゴの口から作戦成功をねぎらう言葉が発せられた。


虹色の翼が作戦に加わってくれなかったら、


何もかも最悪の結果で終わっていたということを――。



「とはいえ……今回は《あの方》の助力もあったからこそ。


わたし自身も、《あの方》の作戦介入にはじつに驚かされたが、


うむ……今は無事に作戦が成功したことを、素直に喜ぼう」



フーゴのいう《あの方》とは、あの白い小さなオハコビ竜のことかと、


ハルトは思った。


フーゴですら尊敬の意をこめるあたり、やはりあの子はただ者ではない……。



「俺さー、もうみんなくたくただろーから、


早くターミナルに帰ったほうがいいと思うんだよなー」



ケントがハルトの背中を軽くつついて、ひそひそと小声でそう言った。



「同感。あたし、早くホテルでスズカちゃんといっぱいおしゃべりしたい」



「お風呂にも入りたいよね。女子ならなおさら」



「ふかふかベッドで寝たいです……」



アカネ、タスク、トキオも小声で続いた。



さらにフーゴは、城内にいるすべてのエンジニア部員たちも、


今次々と警備部が拘束していると説明した。


よせられた報告によると、今回ある人物のよびかけで、


大勢の部員がガオルの協力者として働かされていたらしい……


そんな説明もなされた。


じきに、違反者たちをターミナルに送る護送機が到着するという。



また、虹色の翼のメンバーと子どもたちの帰りについて、


警備部がここを引きはらったあと、


任意のタイミングでターミナルへの帰投を開始するようにと言った。



「そして最後に……主任」



クロワキ氏が、フレッドのそばからフーゴの前へと進み出た。


普段はサングラスに隠れて見えない黒いコガネムシのような瞳が、


ようやく悪行から解放される安心に浸るかのように、


そっとフーゴの顔を見上げていた。



フーゴはクロワキ氏の前に降りてくると、


重々しく威圧するように、無言で相手を見つめ返した。


フーゴにも彼の犯した所業の詳細が、すでに周知されているはずだったが、


くわしい事情を知らないツアー参加者がまだ大勢いるにも関わらず、


彼は何一つくわしい説明をしようとしなかった。



ちょうどそこへ、警備部がどこからか要請したであろう護送機らしい船が、


一同から百メートル離れた空中地点に、十機くらい到着した。


どれも月明かりにも鋭く光るグレーの箱型の船で、


四方に設置された四つのプロペラが低いうなりを上げていた。


グレーの各機体には、例の赤いオハコビ隊のエンブレムがついている。



「……行きましょう」


フーゴが厳かに言った。



「ええ、連れてってくださいね。


二度と機械いじりのできない、鉄の監獄へ……」



スズカと、先ほどまで気絶していた十九人の子どもたちは、


この重たい空気に話がまったく見えずにいた。


クロワキ氏の背中にフーゴの右腕がそえられる様子を、


みんなただポカンとした顔で見つめるばかりだった。



ハルト、東京四人組、そして十一頭の虹色の翼のメンバーたちは、


言葉すら出ない複雑な気持ちで、クロワキ氏の背中を見送ろうとしていた。



『ねえ、フラップ……』


スズカはフラップに説明を求めた。



「……あとで、くわしく、ご説明しますから」



フラップは、またもや泣きべそをかきそうになっていたが、


今日はもう数年分の涙を流したとでも言うように、ぐっとこらえているようだった。



「そうだ、ツアー参加者のみなさん――」


フーゴとともに飛び立つ直前、クロワキ氏がふり返り、こう言った。



「もっとも、わたしにはもう、そうよぶ資格はありませんが。


……あとのことは、すべてモニカ補佐官にまかせています。


いろいろと、ご迷惑をおかけしましたね。……では、さようなら」



クロワキ氏は、最後に子どもたちにニコリと笑いかけた。


ハルトが彼の温かくも怪しげな笑みを見たのが、それきりになった。


クロワキ氏はフーゴの腕に抱えられ、エンジニア部員たちの身柄を城の裏口から


続々と運ぶ警備部員たちの流れに加わり、護送機へと運ばれてゆくのだった。



『あ……』


スズカはふと左手を見た。



四頭の警備部の部隊長たちに拘束されたガオルが、


今まさに護送機に運ばれようとしていた。


彼は、ぼんやりと暖色に光るピラミッド型の収容機器に入れられている。


ピラミッドを模した四枚の壁は、ステンレスガラスのように透明で、


部隊長たちに包囲されながら宙をすべるように移動していた。



当のガオルは、収容機器の中でただじっとあぐらを組んだまま、瞳を閉じていた。


罪も罰も何もかも受け入れたような、物静かな表情で――。



『待って! わたしに話をさせて!』



突然、スズカの心が叫んだ。


その声を聞いた四頭の部隊長たちがぴたりと停止し、


ガオルがこちらを見下ろしてきた。



ガオルは、大勢に囲まれたスズカにたいして、すましたような目をしていた。



「――俺は、キミにとってかけがえのない世界を、奪おうとしていたみたいだな。


俺のことは、忘れてくれてかまわない。


さよならだ……もう二度と会うこともないだろう」



ガオルが顔を背けた。


スズカは、子どもたちやオハコビ竜たちをかき分けて進み、


ガオルに一番近い石柵から身を乗り出した。みんなの注目が彼女に集まる。


スズカとガオルの距離は、十メートルしかなかった。



『あなたは、わたしを地上界から引き離そうとした。


でもそれは、わたしを助けるつもりだったからなんでしょ?


その気持ち、わたしは否定したりしないよ。だからね――』



スズカは深呼吸をした。


そして、自分自身の口から、あらんかぎりの力をふり絞ってこう言った。



「わ、たし……あな、た、を……忘れ、ない。


こん、ど、会う、時は……友達、だよ!」



友達――その言葉を聞いたとたん、


ガオルは、亡くしたはずのガアナの声を聞いたかのように、


さっとスズカのほうにむき直った。ガオルは、寝耳に水という顔をしていた。


ゆれるガオルの瞳の中に、さまざまな思いと光景がめぐりめぐった。


ガアナと過ごした懐かしい日々――鮮やかすぎる風景の中に、


彼女の声、彼女のしぐさが満ち満ちていく……。



もし、も……あなた、が、死ん、で、しまって、も、


わたし、は、あな、たを、忘、れな、い。いつま、でも……。


あ、なた、とと、もに……ずっと、生き、て、いきた、い、から。



やがてガオルは、ガアナとの思い出の光を改めて噛みしめたかのように、


少し晴れやかな顔で、小さく笑った。



「……ありがとう」



ガオルは、スズカに聞こえるか聞こえないかの小さな声で、そう答えた。



そしてガオルは、護送機へと運ばれていった。



警備部員と護送機の黒い影の点々が、


紺青色の星空のむこうへ小さくなっていく様子を、


ハルトとスズカ、そしてフラップは、最後まで何も言わずに見送っていた。


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