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ハルトたちは、小さなオハコビ竜に続いて、大急ぎで来た通路を逆戻りしていた。
スズカは病み上がりにしては――病気だったと言えるかは分からないが――
元気よくハルトの隣に続いて走っていた。
スズカがなんとかとよんだ『適応ゾーン発生器』のおかげで、
だれも酸欠になることなく、探索用スーツに搭載された酸素マスクは
必要にならなかった。
先ほどエンジニア部員の集団と遭遇した階段もスルーした。
ハルトたちはここで、フリッタと別れたのだ。
「フリッタは――どこに行っちゃったんだろ?」
アカネが走りながら心配そうに聞いた。
『フリッタといっしょだったの?』
「このへんまでね……ああ、もう、無事でいて……」
アカネは祈るようにつぶやいた。
エントランスへと降り、正面口から外へ出るまで、
ハルトたちはだれとも遭遇しなかった。
正面口から飛びだすと、馬蹄型の階段の上にフレッドとクロワキ氏がいた。
クロワキ氏は、まだフレッドの腕に支えられて立っていた。
「フレッドー!」
タスクがよびかけると、フレッドがくるっとふり返った。
「スズカちゃん! 無事だったんだな!」
フレッドにたちまち笑顔が広がった。
『えっ、クロワキさんがいる! どうして……?』
事の次第を聞かされていないスズカは、
背中を鋭い爪で襲われ、手負いの哀愁ただようクロワキ氏を見て、
わけも分からず驚いていた。
「……やあ、スズカちゃん」
サングラスをはずしたクロワキ氏は、バツの悪そうな顔でスズカを見た。
「キミの知らない間に、いろんなことが起きたんですよ。
そう、いろんなことがね……」
「あとで説明してあげるね」
ハルトが言った。
「なあ、子どもたち。フリッタはいっしょじゃないのかい?」
「途中ではぐれちまってさあ……どこ行っちゃったんだよ、もー……」
ケントは、出てきた入り口をふり返りながら、泣きそうな声で言った。
『フラップは? フリッタとフレッドがいるなら、フラップもいるんでしょ?』
スズカは、青い炎の海を見渡しながら、赤いオハコビ竜の姿を探した。
「あそこだよ」
フレッドが夜空を高く指さした。
「ガオルと戦ってるんだ」
月が隠れて漆黒に陰った夜空に、赤と青、二頭の竜が放つ闘気の光が、
尾を引きながら激しくぶつかり合っていた……戦いはまだ続いていたのだ。
ちょうど今、青い炎の散弾と、金色の竜気砲が三発光った……
あの二頭がどれほどタフなのかはだれも想像がつかないが、赤い光の動き――
フラップの動きがガオルよりも速くなっているように感じる。
まるでガオルのほうが翻弄されているような――。
『どういうこと? なんでフラップがガオルと戦ってるの!?』
スズカは何がなんだか分からず、顔が蒼白していた。
「フラップの異名は『赤き超新星』。キミとハルトくんの担当フライターは、
とてつもない戦闘能力の持ち主だったのさ。そういう家系のもとに生まれたからな」
フレッドの言葉に、スズカのみぞおちが冷たくなった。
『そんなの聞いてない、一言も――』
「キミたち人間に、いや、
叶うならだれにも知られたくないと言ってたな、あいつは。
ひとたび超新星になると、だんだん理性が麻痺してしまう……
敵対する相手を、コテンパンに叩きのめすまで、
戦いをやめられなくなっちまうみたいでさ……
それは、笑顔と穏便さを信条にするあいつにとっては、
劣等感の要因でしかないんだ。あいつは、自分の中に巣食う猛獣を、
まだ飼いならすことができずにいるんだよ」
「でもさー、ガオルだったらコテンパンにしてやっても、いいんじゃねーか?」
ケントが顔をしかめながら言った。
「そうですよ。あいつはスズカさんをさらった極悪人なんですから!」
「ぼくも同感だ!」
「フラップ、やっちゃえー!」
タスク、アカネ、トキオの三人も、怪物フラップを擁護した。
フラップとガオルが、徐々に高度を下げてきた。
どうやら、フラップがガオルの後ろを取っているようだ。
あんなに素早い動きで、十二頭の虹色の翼を圧倒していたガオルが、
今やフラップの剛腕パンチや竜気砲を受けまくって、
スピードが鈍くなっているようだった。
フラップは、子どもたちの三十メートル先でさらに飛行速度を上げると、
本物の雷のような信じがたい動きで、四方八方からタックルを仕かけた。
『ダメ……そんなのはダメ!』
スズカが心の叫びを上げた。
ガオルはたまらずターゲット位置から離脱していく……
しかし、フラップの猛威から逃げきれなかった。
フラップはすぐさまガオルの両肩をつかまえ、
ぐいぐいと手前に引き戻すように動いた。
「観念しろ、ガオル!」
「スズカはっ、くぅっ、俺のものだぁー!」
ガオルは必死にもがいた。
フラップは反対に、ガオルの腕と胴体を全身で強くしめつけ、
いよいよ有利な体勢に入った。
『フラップ、もういいの!』
ケントたちが応援するなか、
スズカはテレパシー・デバイスの力を全開させて、戦いの中止をうながした。
『わたしはここにいるよ! もう大丈夫だよ!
だから、もう戦わなくていいの!』
スズカの必死な表情と心の声に、ハルトは気づいた。
ハルトもスズカに同感だった。スズカは助かった。今、彼女はすぐ隣にいる。
目的は達成されたのだ。
ハルトは無意識のうちに、スズカといっしょに大声でよびかけていた。
「フラップ、戦いをやめるんだ! スズカちゃんはここだから! 無事なんだ!」
ぼくたちのために戦ってくれている。それは感謝してもしきれないくらいだ。
けれど、これ以上やったら、彼は同族を手にかけることになりかねない。
「お願いだよ、ぼくらの優しいオハコビ竜に戻って!」
一瞬、フラップがガオルの体を解放した……
しかしすぐに、両手でガオルの左腕をがっちりととらえた。
それから勢いよく体をひねると、まるでスクリューの中心となって高速回転し――
ガオルをハンマーのようにふり回しはじめた。
「『フラップ、やめてええぇぇええーー!!』」
フラップがガオルを放り投げた。
ガオルの黒い体が、大砲のような勢いで城の壁にむかって吹っ飛んでいく。
しかしその瞬間、フラップはハッとわれに返った。
その視界に、スズカとハルトの姿が映ったのだ。
猛獣のように険しかった表情が、すうっと一瞬にして和らいでいく。
フラップは音速で飛びだした……
しかし、ハルトたちの方にではなく、
自分自身の手で投げ飛ばしたガオルのほうへ……。
(間に合って……!)
黒い巨体の後ろに素早く回りこみ、その体を両腕両足でしっかりと抱きこむ。
そして、竜の力のおよぶかぎりをつくして急ブレーキをかけた。
ドガアァァン!!
フラップの背中が、城の外壁に激突した……。




