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【完結!】ぼくらのオハコビ竜-あなたの翼になりましょう-  作者: しろこ
第17章『本当の自分へ』
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「ここじゃな。かすかに奇妙な音も聞こえよる」



小さなオハコビ竜は、大きな両開きの鉄扉の前で停止した。


城の内装に似つかわしくない、わりと新しそうな鋼鉄扉。


その右側に、厳重そうな制御盤も設置されている。



「スズカはこの奥で違いないぞよ」



「ロックされてるとか?」


アカネが聞いた。



「こんな鉄扉ごとき、わけないわ」



小さなオハコビ竜は、子ウサギのような両手をポキポキと鳴らすと、


しゅっと両手のひらを制御盤の前へ突き出した。


すると、制御盤がショートしたかのように小さく破裂し、金色の火花が散った。



「すごっ! ……いのかな?」


タスクがあいまいな表現をした。



ハルトとケントが、手分けして鉄扉を開けることにした。


扉は重々しい音を立てて内側へと開いた。


小さなオハコビ竜は、滑りこむように中へ突入した。



子どもたちははじめて、


白いエッグポッドとガアナのレプリカが安置された部屋を見た。


銀色や灰色の周辺機器が四方を埋めつくし、


聞いたこともないいくつもの機械音が不快なハーモニーを奏でている。


中にはだれもいない。ハルトたちだけのようだ。



「おっと。だれか、その鉄扉をしっかりふさいでおけ。邪魔が入っては面倒じゃ」



ケントとタスクの二人は、鉄扉を元通りに閉めると、


だれが来ても開けられないように扉に背中を当ててふさいだ。



最初に子どもたちの視線を釘づけにしたのは、ガアナのレプリカだった。


外見からしてメスだと分かっても、


まるでもう一頭のガオルが目の前にいるようで、


否が応でもぞっとしてしまうのだ。



「これって……黒影竜?」


ハルトは胸をドキドキさせながら聞いた。



「の、模造品じゃな。


そして、この人形に精神移植されつつある、哀れな少女――」



小さなオハコビ竜は、ガアナのレプリカから離れ、


その左側にある白いエッグポッドのそばへゆっくり近づいた。


白真珠色のポッドはかすかに中身が透けて見え、


そこに、一人の少女の安らかに眠る姿が――。



「スズカちゃん!!」



ハルトはポッドのそばへ駆けよった。アカネ、トキオの二人がそれに続いた。



「スズカちゃん! ぼくだよ、起きて! 迎えにきたよ!」



ハルトはシェルター越しによびかけた……が、スズカが目を覚ます気配はない。


彼女の身には、いくつものロボット装甲のような機械がまとわりつき、


ひっそりと人体改造でも施されているような具合になっていた。


テレパシー・デバイスは頭につけたままだったが。



「どうしたら目を覚ますの?」



ハルトは自分でも無意識に、小さなオハコビ竜に打開策をたずねていた。



「うーむ、こいつをいじってみたが――」



小さなオハコビ竜は、細長い台のような端末の上で腕を組んでいた。



「手動ではマシンを停止できん。


どうやら彼奴によって、システムロックされておるようじゃな。


スズカの精神移植のほうじゃが、もう半分も進んでおる。


記憶の消去も、九十八パーセント完了ずみときたか」



「はーあ!? それ、かなりヤバいんじゃねーの!?」


「というか、キミって機械いじれるんだ?」



ケントとタスクが扉のそばで別々の反応を示した。



「しかし、心配はいらん。


わしの秘術で、マシンのプログラムに干渉してみよう。


プログラムをだまして、精神移植システムを逆行運転させ、


スズカの記憶を引き出す!」



「そんなことができるの?」


と、ハルトは聞いた。頭ではチンプンカンプンだったが……。



「機械ごときに、神秘なる人の記憶を消し去るなどという芸当はできぬ。


消すといっても、ただサーバーに記憶を保管するだけじゃ。


スズカという一人の人間の記憶をな」



「細かいとこはよく分かんないけど、あなたの力でなんとかなるんだね?」


と、アカネが聞いた。



「ただし、わしの力だけでは危うい。


レプリカから移植された分の精神を引き離すのと、


記憶を元に戻すのを同時に行うのは、難易度の高い所業。


しかも、速攻でやり遂げるとなれば、かなりの荒療治じゃ」



「荒療治ですか……」


トキオが身震いした。



「もっとも問題なのは記憶じゃな。


スズカの意識が反発し、自分の記憶を受けつけない恐れがある。


わけの分からない古傷を押しつけられるようなものじゃからな……


うまくやるためには、ハルト、おぬしの力が必要じゃ。


友を思うおぬしの言葉を、スズカに伝え続けるのじゃ。


その声が、スズカみずから人格を取り戻す手助けになる!」



「分かった。やってみるよ――」


ハルトがうなずいた、その瞬間だった。



ダンッ! ダンダンダンッ!



だれかが鉄扉のむこうから、力いっぱいノックしはじめたのだ。



「うわっ、なんか来たしー!」



ケントとタスクは、すぐに背中で扉をおさえつけた。


まさか、エンジニア部の大人たちが目を覚まして、駆けつけてきたのでは……?



「ああ、いかん、わしは手が離せん!


アカネ、トキオ! おぬしらでケントとタスクを手伝うんじゃ!」



アカネとトキオは、それぞれケントとタスクのそばに駆けつけ、


四人で招かれざる客を入らせまいと奮闘しはじめた。



小さなオハコビ竜が端末の端に両手をそえて、


ぶつぶつと何かをつぶやいているのを見ながら、


ハルトはますます不思議がっていた。



(この子、だれも名乗っていないのに、全員の名前を知っている……)



鉄扉が一瞬、ガタンと大きくゆれた。


ケントたちはたまらず声を上げたが、


それでもいっそう力を合わせて扉を押し返した。



「すまん、わしが制御盤をショートさせたばかりに……。


――ハルト、急ぐぞ! とにかく、ひたすらよびかけよ。


わしはこちらで、やれるだけのことをやる!」



もう、なるようになるしかない。


ハルトは、一切の悩みを頭からシャットアウトして、目の前の使命に当たった。



「スズカちゃん! ぼくだよ、ハルト! 迎えにきたんだ!」



ぼくの声が鍵になる。ただそれだけを信じて、スズカによびかけていく。



「みんなで助けに来たんだよ! お願い、目を覚まして!


みんながキミを心配してるんだ。頼むから、ぼくを見て――


ねえ、目を開けて、ぼくを――ぼくを見てよ!」


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