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「真打ちィ?」
ケントが頭をひねった。
「ねえ、キミはだれ?」
と、ハルトは小さなオハコビ竜に聞いた。
今目の前にいる相手が、どうしてもフラップたちのような成獣には見えなかった。
「むむ? わしのことが気になるかの?」
小さいオハコビ竜は、ハルトの目と鼻の先まで近づいてきた。
頭のてっぺんからつま先まで、じつに三十センチ程度の大きさしかない。
「気持ちは分かるぞ。でも、今は詮索無用じゃ、少年」
「少年……」
ハルトは思わず口答えしそうになった。
「あのう、このヒトたち……キミがやったんですか?」
倒れたビケットたちを指さしながら、トキオが半信半疑でたずねた。
「無論じゃ。他にだれがおる?」
と、小さなオハコビ竜は事もなげに答えた。
「まったく、
おぬしたちをこんな危険にさらした愚か者は、いったいどこのどいつじゃ?
今すぐ見つけ出して、とっちめてやりたいところじゃが……
ふう、ここは辛抱せねば。今は他に優先すべきことがある」
子どもたちよ! 小さなオハコビ竜は、フーゴのように厳格な口調で言った。
「どうやらおぬしたちは、なかなかに勇敢な者たちと見える。
そんな者たちが、友人のためにありったけの勇気をふりしぼり、
無理も無茶も押し通す意欲でもってのぞむ姿を、わしは心から愛おしく思う。
たとえそれが人であってもじゃ」
「あのさー、チビ助。何が言いたいワケ?」
と、ケントが横柄な態度で聞いた。
「コレ! チビ助とはなんじゃ、チビ助とは!」
小さなオハコビ竜は、片手をふりふり憤慨した。なんとも愛らしいしぐさだ。
「助太刀すると言っておるんじゃ!
本件については、わしもとある伝手を通じて、バッチリ把握しておるからの。
――ハルトよ。おぬし、スズカを助けたいのじゃろう?」
「あ、はい!」
「なら、わしについてまいれ!
この中でもっともスズカに近しいおぬしなら、彼女を助ける手がかりになりうる。
他の四人も来るのじゃ。遅れるでないぞ。それ、駆け足!」
小さなオハコビ竜は、それだけ言うと、颯爽と曲がり角の先へと飛び去っていった。
だれがこんな展開を予想できただろうか。
ハルトは、どうしてあの白いオハコビ竜に敬語を使ってしまったのか、
自分でも分からなかった。まるでとんちんかんにかられたみたいに、
他の四人とともに彼の小さな後ろ姿を呆然と見つめていた。
子どもらしい見た目に、なんともそぐわない年寄りじみた口調。
颯のように現れて、くわしい自己紹介もまるでなし。
強いのか、弱いのかも見当がつかない。こんな切羽詰まった状況の中で、
子どもたちに力を貸そうとしている小さなオハコビ竜は、いったい何者なのか。
「どうします?」
トキオが聞いた。
「あいつさー、ゼッタイ怪しーって」
ケントは完全に疑ってかかっていた。
「でも、ぼくとスズカちゃんのことをよく知ってるふうだったし。
オハコビ隊に関わりがあるんじゃないかな?」
と、ハルトは推測した。
「同感。どう考えても味方だよ、ケントくん」
と、タスクが言った。
「というか、そうであることを望むしかないね」
「むこうが俺らをだます気だったら、バレーボールみたいにぶっ飛ばしてやる」
この、この! と、ケントはスパイクを決めるような動きをした。
「ケントくんソレ、だいぶヒドイやつです……」
と、トキオがあきれ顔をした。
「はーやーくーせぬかぁー!!」
子どもたちはぎょっとした。
いつの間にやら、あの小さなオハコビ竜が子どもたちの近くに戻っていた。
どうやら、この小さな珍客に逆らうべきではないらしい。
子どもたちはわけも分からないまま、大人しくそのあとを走って追っていった。




