表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結!】ぼくらのオハコビ竜-あなたの翼になりましょう-  作者: しろこ
第15章『オハコビ隊の戦い』
81/105

最後まで攻撃をかわし切ったのは、


フラップ、フリッタ、フレッドの三頭だけだった。


三頭とも虹色の翼の中では、敵の攻撃をかわすスキルがかなり高かったのだ。


三頭はガオルと同じ高度まで下がって、彼の前に再び対峙した。



その三頭の後ろの火の海から、


墜落していた他の九頭のメンバーがすぐに飛びだして、三頭の後方に集まってきた。


九頭は体のあちこちが黒く焼け焦げ、翼もわずかに焼かれていた。


焼けた肌の表面には青い火がかすかにくすぶっている。


みんな火傷したところに手を当てて、かなり苦しそうだ。



「……なかなかの根性だな」


ガオルは言った。



「だが、今のお前たちは全力ではない。――今すぐ子どもたちを解放してやれ」



「はぁ? なん、だって?」


フレッドが理解できないという反応をした。



「言ったはずだぞ。竜の戦場に人間を連れこむのは、狂気の沙汰だと。


どこでもいい。一人残らず、早く降ろしに行ってやれ。


そろそろ、ポッドの中にいる子どもたちの気力も限界だろう。


いくらいい設備の中に保護されようと、体の小さい子どもが、


竜の力で方向感覚も分からなくなるほどふり回され続けたら――


お前たちなら想像がつくだろう?」



ガオルの言葉に、虹色の翼のメンバーたちはバツの悪そうな表情になった。


そしてすぐに、各自ポッド内の子たちに声をかけた。



「ハルトくん、調子は大丈夫ですか?」



フラップがそっと聞くと、ハルトのくたくたな声が返ってきた。



『……だ、大丈夫だよ、フラップ。


だいぶ酔っちゃったし、頭もクラクラだけど、まだいける――』



「そんな、もうボロボロじゃないですか!」


フラップは泣きそうな声で言った。



ハルトは全身エアパッドにしっかりと包まれたまま、


まだかろうじて手すりを握っていた。


四年生の頃、学校でマラソン大会を経験し、


あれ以上にしんどい思いは他にないだろうと思っていたのに、


今はそれよりずっときつい状況だった。



フリッタとフレッドの乗客たちも、もうろうとした状態とはいえ意識はあった。



ただし、その他の参加者たちは、ガオルの炎攻撃に吹っ飛ばされたせいなのか、


みんな気絶しているようだった。



「なんでキミが、アタシたちのお客様の身を案じるワケ?


敵なんだから必要ないんじゃナイ?」



フリッタがガオルにむかって難癖をつけた。



「聞かなくたって分かるさ……」



フレッドが落ちつきはらった声で言う。



「やっぱりこいつも、俺たちと同じってことだ。


人間が好きでたまらないんだよ――敵に塩を送りたくなるほどにな。


自分では、オハコビ竜とは別物だってぬかしているけれど、


何か勘違いをしてるんじゃないか?」



「勘違いをしているのは、お前たちだろう!」



ガオルがフラップたちにむかって鋭く指をさした。



「その子たちの願いを聞いてやらなければ、


もう二度とツアー客として参加してもらえなくなると、


不安がっているんじゃないのか? 結局お前たちは、


つかまえた人間客が去っていくのを恐れているだけだ!


オハコビ隊が存続していくには、お前たち虹色の翼というチームが


人間客を得ていくことが、何より肝心なんだろう?」



ガオルが何を言っているのか、ハルトにはまったく読めなかった。


それにどうして、オハコビ隊の事情についてこれほど詳しいのかも――。



(ああ、ぼくだめだ。頭がクラクラして……まともに考えられない……)



「だれが勘違いなんて!」


フラップが憤慨した。



「ぼくたちは、そんな気持ちで子どもたちを連れて来たんじゃない!


あなたにも大切な友達がいるのなら、きっと分かるはずです……


ぼくたちが、あなたの言ったような安っぽい理由で、


彼らをここに運んできたわけじゃないと――」



「もういいっ、時間の無駄だ」


ガオルがぴしゃりと言った。



「俺の城を貸してやろう。さあ、中へ来い!


入ってすぐに子どもたちを降ろせる場所がある。


そうしたら、城の者にその子たちをあずけよう。戦いはそれからだ――」



ガオルは十二頭に背中を見せると、解き放たれた城の扉へと戻っていった。



フラップたちはあんぐりと口を開きながら見送っていた。



「何アレ……ガオルちゃんたら何のつもり?」


と、フリッタが警戒の色をあらわにした。



「ぼく、ピンときちゃったよ」



ガオルの姿が消えた扉の奥をにらんだまま、フラップは言った。



「あいつは、ぼくたちが人間の子ども抱えていると、とても都合が悪いんだ。


だから、本気で戦っているつもりでも、


なかなかぼくたちにトドメを刺せないでいる。


その身にオハコビ竜の血が流れていると言わんばかりだ。


自分の手で人間の命を脅かす……それはオハコビ竜の血に抗うということだし、


同族を手にかけるよりも耐えがたいこと」



『――じゃあフラップくん、あいつがまだ力をセーブしてるってこと?』



モニカさんがあぜんとした声で聞いてきた。



「たぶんですけども。


ぼく、昔からなんとなくですが、こういうことにも鼻が利くんです」



「で、どうするんだ? あいつは自分の城に子どもたちを招くと言ってたぞ」



フレッドの問いに、フラップは少し考えてから、


モニカさんにたいしてこう聞いた。



「これ以上、子どもたちを抱えながら戦っても、


ガオルを追いつめられるとは思えません。


モニカさん、ここは不本意ですけど、ガオルの言葉に従いましょう」



『そうだね……ポッドから出しさえしなければ、


ハルトくんたちの身の安全は保障されるわけだし……


ゼロ式には、厳重なロック処置が施されているみたいだから、


簡単には開放されないはず。


気絶してる子どもたちも大勢いるし、抱っこして戦うメリットはもうない』



「――ということですので、すみませんハルトくん。


いったんキミたちをポットごと降ろさせていただきますね。


ガオルを倒したら、いっしょにスズカさんを探しましょう」



『……分かった。ここまで運んでもらえただけで、十分だよ。


正直言って、これ以上は厳しかったんだ。


――ケントたちも、それでいいよね?』



『――だーね。じつはさ、おれもかなり、きびしめ……』


『あたしも……同感……』


『ぼくも、アタマ、ぐるぐるして、さ……』


『こんなの、さすがにヤバすぎ、ですぅ……』



ハルトより年上の東京四人組も、今にも吐きそうな声だった。



フラップ、フリッタ、フレッドの三頭はともかく、


他のメンバーはガオルの炎をもろに受けたせいで、


これ以上の戦いは厳しいようだった。そこでフレッドの提案により、


他は自分の子を抱えたまますぐにこの島を離れることになった。


つまり、戦力の大幅ダウンだ。


しかし、フラップもフリッタもまったく異存はないと言ったし、


他のメンバーも満了一致で提案を受け入れた。



「わ、悪いなフラップ。勝負がすんだら、すぐおれたちをよんでくれよ――」



負傷者たちの中から、フリーダが一言だけ去り際にそう言い残した。



九頭と別れたあと、フラップ、フリッタ、フレッドは、


青い炎の海に抱かれたガオルの城とむかい合った。



「アタシたちだけで、ガオルを倒すしかないネ」



「その前に、あいつに聞かなくちゃ」


フラップが言った。



「オハコビ隊の深い事情について、いったいだれから入れ知恵を受けたのか。


クロワキ主任を拉致して、何を企んでいるのか――


スズカさんをどうするつもりなのか……」



『――まあ、だれかはだいたい想像がついてるけどね』


と、モニカさんが静かに言った。



「えっ、本当ですか?」


フラップが聞いた。



『フラップくん、ここからはさらに心を鬼にしてかかるべきだと思うよ。


何があっても、絶対に動じないようにね』



モニカさんの声は、しっかりと地面に構えるような重みがあった。



「分かりました。――さあ、行こう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ