表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結!】ぼくらのオハコビ竜-あなたの翼になりましょう-  作者: しろこ
第1章『姿の見えない竜』
7/105

ハルトの顔を見つめていたスズカは、


彼の瞳になかに、心が吸いこまれていくような感覚をおぼえた。


胸がきゅっとする。こんな感覚は、生まれてはじめてだった。



彼なら、ほんの少し心をゆるしても、よさそうな気がする――。



「……あ、あのさ」


ふいに、ハルトが先に口を開いた。


「もしかして帽子、持ってないの?」



恥じらいながらも、言葉の引き出しからようやくつまみ上げたような言葉だった。


スズカはドキリとした。


気づかってくれている? そんな、どうしよう。なんて答えればいい?



「……持ってる」


しぼりだすような声でそう答えたが、すぐにかぶりをふって、



「ううん……持って、ない……!」



うっかり、答えを切りかえてしまった。見え見えの嘘だ。


ああ、なんてことを言ってしまったんだろう。


せっかく心ゆるせそうな子に出会えたのに。


親切心ほしさに嘘をつくなんて、やっぱり、わたしは最低だったんだ。



一方、ハルトは彼女のおかしな返事に戸惑っていた。


女の子の心は世界で一番読み取りにくいと、


何かのドラマかアニメで耳にしたけれど、本当のことだった。


上着を持っているのに、持っていないと言いかえる理由はなんだろう?


かわいくてきれいな顔のわりに、ひどく内気な女の子だと思っていたのに、


こんなあからさまな嘘をつくなんて。



(もしかすると、この子、


うっかり他人に見せたくない帽子を持ってきちゃったのかな。


そうだ。きっと、そうに違いない)



確証はなかったが、


どんな対応をすればいいか、ハルトは小学生なりに導き出した。



「じゃあ、さ……貸してあげようか?」



えっ? 思いもよらない優しい返事に、スズカは顔を上げた。



「……い、いいの?」



「うん。ぼく、もう一個持ってきてるんだ。


ゲームのドラゴンキャラの刺繍が入ってるけど。


どうせなら、キャンプが終わるまでずっとかぶってていいよ」



「……あ、ありが、と」



スズカはかなり面食らったような顔をしたが、ハルトに後悔はなかった。


これが、ふたりが最初に言葉を交わした時となった。




「――ふふふ、なんだかあのふたり、いい感じ。


ああいう素敵な子たちといっしょに、ぼく、飛びたいなあ。


あの人に相談してみようかな」



ふたりの気づくよしのない空の上で、だれかが微笑ましそうにつぶやいていた。


姿の見えない彼は、無重力のなかで全身を優雅に翻したあと、


来るべき出会いの瞬間にむけて、ある場所へ飛んでいくのだった――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ