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【完結!】ぼくらのオハコビ竜-あなたの翼になりましょう-  作者: しろこ
第1章『姿の見えない竜』
5/105

3(挿絵あり)

「オオカミ? 日本の野生オオカミは、とっくの昔に絶滅してるはずだよ」


「それがさ、いるらしいんだよ。まだこの山の中に、オオカミが」



わざとらしくあたりをはばかるようなタスクの小声に、


ハルトは信じられずに唇をへの字にした。



「それもさあ、ただのオオカミじゃねえの。なあ、トキオ?」



「はい、ケントさん。ぼくたち四人が知っているのは、


あざやかでカラフルな毛につつまれた、それは不思議なオオカミなんです」



「カラフル、な……?」



「あのね、一瞬でいろんな色に変色する毛を生やしているの。


まばたきする間に、まるで芸人が早着替えするみたいにね。


……赤、青、黄色、ほかにも緑とか紫とか」



そんなアカネの言葉を聞いた瞬間、


ハルトはまるで、頭をぱあん! と横殴りされたような気がした。


ああ、もう少しで年上のでたらめを真に受けるところだった。



「いやいやいや! いないでしょ。


野生のオオカミってところから、すでにありえない」



ハルトは目の前のハエをはらうように手をふった。



「でもよう、全部ありえないかどうかは、分からないと思うぜ?


これさ、このあたりでわりとよく知られている噂なんだよ。なあ、みんな?」



タスク、アカネ、トキオの三人は、そろってうなずいた。



「まだ言ってなかったかな。ぼくたち、東京の学校で、


幻の動物研究会っていうのを設立してるんだ。学校側非公認だけどね。


で去年の学期末、ぼくらは、関東地方にいる幻の動物の情報を集めていた時、


このあたりに伝わる奇妙なオオカミの噂を知ったんだ」



「そのオオカミが撮られた写真は?」



「残念なことに、ないんです。一枚も。あるのは真実味のない目撃証言だけで。


でもぼくたち、そのオオカミに会いたくて、今年で二度目の参加なんです」



「会うのが目的なの? 一枚も写真に撮られたことのないオオカミなのに。


スマホで撮ったりとか、しないの?」



「しない、しない」

と、ケントたちはみんなでにこやかに答えた。



「写真を撮ることに注力したら、


一瞬の出会いの素晴らしさが味わえないですから」



なにそれ、変なの。


けれど、どこかかっこいい。それにみんな楽しそうだ。



「ほかに変わった謎とか、ない?」



「あるとすれば、あれかしらン。


ほら、このサマーキャンプって、全国から小学生の参加を募集してるでしょ。


そのわりには、ものすごく抽選が厳しいって噂だよ」



「そーそー! 今年も何千人も応募したって話だけど、


今回抽選で決まったのは、たったの二十四人だってよ」



何千人の中から、たったの二十四人! そんなに倍率の高い抽選だったのか。


あれ、でもおかしいぞ。今回のキャンプ参加者は、全員で二十八人のはずだ。


そのうちの四人は、いったいどんな方法でこのキャンプに参加できたんだろう?



「その抽選の厳しさを裏づけるのが、やっぱりあれだよなあ。


ハルトくんも、応募するときに答えただろ。あのアンケート」


「ん、え、あぁ……」



考え事をしていたところに、タスクが話しかけてきたので、


返事があいまいになってしまったが、質問の中身は分かっていた。



ハルトは、新学期前の春休みのことを思い出した。


このキャンプに参加するため、取りよせた応募用紙には二種類あった。


一枚は、名前や住所などの個人情報を書くもの。


そしてもう一枚は、アンケートになっていた。



ところが、そのアンケートが奇妙奇天烈だった。


八十近くもある質問事項がびっしりとならんでいて、


大きな三つ折りの横書き用紙だった。


食べ物などの好き嫌いを問うものと、性格を問うものがだいたいを占めていた。



高いところは好きか、心から空を飛んでみたいか、という質問もあった。


これはサマーキャンプの趣旨を考えればべつにおかしくない。


でも、遊園地の絶叫マシンはへっちゃらか、


毛におおわれた巨大動物に抱っこされても平気か、


といった意味の分からない質問もあって、少し驚いた。


春休みの夜、寝る間を惜しんで全問回答したのは、ちょっとした思い出だ。



「明らかにおかしなアンケートだったよね、あれ?」



ハルトが聞き返すと、ケントたち一同は、


新しい理解者を得たような嬉しさをにじませながら、何度もうなずいた。



「スズカちゃんも、ハルトくんと同じ反応するかしら?」



「どーだかなー。あの子さ、


なんだかおれらのこと嫌ってるような感じするから、話しかけづらいんだよなあ」



「無口だし、きっと大勢といっしょに話すの、慣れていないんじゃないかい?」



「でも、きれいな子ですよね。話しかけずにいられないというか……


あの、そろそろ戻りませんか。


スズカさん、たぶんさびしがっていると思いますし」



「トキオが一人にさせたようなもんでしょうが!」



東京の四人組に急かされ、ハルトもキャンプ場に戻ることにした。


明日こそ、また同じ時間にここで竜の姿を激写したいところだけれど、


パラグライダー体験会がかぶるからそうはいかない。


時間をずらしてでも、再挑戦するしかないだろう。



ケントたちに続いて崖を立ち去ろうとしたその時だ。


ふいに後ろから吹きつけてきた強風に、ハルトはピタリと足を止めてしまった。



(なんだ……?)



ただの風じゃない。


背後におおいかぶさるような巨大な気配を感じる。


これはなんなんだ? 視線をむけられている?


挿絵(By みてみん)


「ぼくの姿は、撮らせてあげませんよ」




生温かい吐息のような空気とともに、すぐ耳元から声がした。


女の人みたいに高く、しっとりとして優しそうな声が――。



「だ、だれ!?」



勢いよく振り返ったハルトの大声に、ケントたちはパチクリとまばたきをした。



「おい、何かいたのかよ?」


「あ、れ……?」



いない。あの大きな気配の主が。


まるで風に吹き散られたみたいに、


ハルトのそばから跡形もなく消え失せたようだった。



「ねえ、だれか見た? ぼくのすぐ後ろに、何かがいたんだ。


熊みたいな大きな生き物の気配がして……」



「――ううん、何もいなかったけど」



何事もなさそうに首をふるアカネの様子が、なんだか奇妙だった。



「か、隠してないよね? たしかにいたんだ。


言葉でからかってきたんだよ。自分の姿は撮らせないって……」


「空耳じゃないのかい?」


「そうですよ。風がみずから言葉を話すわけありませんし。ねえ?」



トキオの同意をもとめる声に、ケントもタスクもアカネもうなずいた。



そんな。あれが気のせいだって言うのか。


あの生々しい空耳の正体――きっと、例の写真に写った竜のささやきに違いない。



やっぱりいるんだ、このキャンプ場のどこかに。


明日こそ、絶対にその姿をカメラにおさめてやる! でも……。



(そんな竜が、そもそもどうして、こんな長野のキャンプ場にいるんだろう?)



ハルトは、キャンプ場へと降りる道へとむかう。


まだ見ぬ生物への興味はつきない。


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