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【完結!】ぼくらのオハコビ竜-あなたの翼になりましょう-  作者: しろこ
第9章『サーキットの赤い伝説』
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レッスンを終えた子どもたちは、モニカさんに続いて部屋を後にし、


また通路をいくらか移動して、広い待合室へと入った。



待合室には長いソファーがいくつか設置され、


レースの模様がよく分かる大きな空中モニターもあった。


だれがいつレースを開始できるかも分かる順番リストも映っている。


その部屋の奥にあるドアから、本番機に乗りこむ場所へと降りられるようだった。



「あ、フラップたちがいない」



ハルトはまわり見回して、オハコビ竜たちの姿が消えていることに気がついた。



「竜さんたちには別の待合室があるからね。途中で別れたんだよ」


モニカさんがそう説明した。



「というかハルトくん、みんなでちゃんと別れたの気づかなかった?


フラップくんもせっかく手をふってくれたのに」



「……操縦方法を頭で復習してて、気づかなかった」



今回のレースルールは、子ども四人と竜二頭の一組で、


一位から四位までを争う形式らしい。


だれでも好きなオハコビ竜と競えるということだったが、


子どもたちはみんな、それぞれのオハコビ竜とのレースを選んでいた。


これも自然な流れかもしれない。



レースは、午前十時から順番にスタートした。



『――お待たせしました!


川上ツヨシ様と、長谷川タイジロウ様。徳島ユウナ様と、東山レミ様。


マシンの準備が整いましたので、下のガレージまでどうぞ!』



このように、室内アナウンスに都度よばれた二組が、


待合室からいそいそと出ていく姿を、ハルトは何度も見送った。



異世界の超ハイテクマシンを操縦するなど、


ツアーの常識からみればかなり異質だ。


それも動かすのは、超高速で疾走するレースマシンだ。


それなりの勇気とセンスがなくては、


ゴールまで満足に滑走できはしないだろう。



しかし、ここに集まったツアー参加者に、不安や恐怖はなかった。


それに、モニカさんが何度か伝えてくれたのだが、


このサーキットと、レーシングマシンは、


スカイランドでも最高レベルの安全が約束されているという。


子どもたちに疑問はなかった。



そのうえ、ドラゴンスピーダーの操縦は、いたってシンプルだった。



まず操縦者は、左右のレバーを前後に倒すだけで、


アクセルやブレーキを入れたり、カーブを曲がることができた。


後ろの補助者は、コースの随所に設置されたラインを通過する時、


前の手すりについたボタンをタイミングよく押せば、


マシンをグンと加速させられる。


まさに、二人協力して遊ぶレーシングゲームそのものだ。



ドラゴンスピーダーの速度はすさまじかった。


最高で百八十キロもの速さで走ることができ、


竜たちの最大飛行速度におよぶ速さだった。


ジェットコースターのようにコースを走りぬけるマシンの乗り味も、


ツアー参加者たちを熱狂させる部分だ。


いつしか、子どもたちの間で、『ドラスピ』という愛称まで生まれていた。



ちなみに、だいたい五分くらいでサーキットを一周できるらしい。



マシンやコースの両端には、透明な弾力バリアが張られる仕組みだ。


マシン同士が接触しても衝撃はかなりおさえられるし、


コースアウトも防いでくれる。


おかげでだれもが、竜たちとの超高速バトルに集中することができた。



とはいえ、対するオハコビ竜たちはなかなか強かった。


小型竜らしい素早い飛行で、加速しなくてもマシンのスピードに難なく続く。


竜としての尊厳を守るためか、あるいはただ一位を獲得したいだけか、


はたから見ても手をぬいていない様子だった。



待合室の子どもたちは、レース中のメンバーの走りを応援しつつ、


自分たちこそはもっと早く走ってみせるだの、


あの加速ポイントは逃さないだの、さかんに話しあっていた。


みんな、初挑戦で一位になれるとは思っていなかったので、


むしろ、自分たちならどのくらい早くゴールできるかに注目していた……


ただひとり、ハルトをのぞいて。



――さて、ここまで十ペア……つまり5つのレースが終わったが、


オハコビ竜を一頭ぬいて2位でゴールできたのは、たった3ペアだった。


とくに、ケントとアカネのペアはセンスがよく、


なんと、暫定で最速タイムをたたきだした。待合室は大いにわいた。



「おおおお! すっげ!」


「あの二人、息ぴったりってカンジ!」


「お手本になるー! ずっとアクセル全開だったじゃん!」


「あたしたちも、あんな風に走れたら勝てたかなあ!?」



対するフリッタは、おとぼけのセンスはあっても飛行速度はイマイチだった。


同時に走ったタスクとトキオの二人は、


トキオが加速ラインでうまくボタン入力を決められなくて、結局ビリだった。


一位はフレッドだった。



ケントとアカネが待合室に戻ってきた。


それから、興奮冷めやらぬ上気した顔で言った。



「ただいまー! もー、すごかったぜドラスピ! とにかく燃えた!」



「は~、あたしたち、もうちょっとでフレッドを追い越せたけど、


楽しかったからいいや」



他の子どもたちが二人をぐるりと囲んで、二人を騒々しいほどほめそやした。


タスクとトキオが続いて戻ってきた。この二人にはだれもよりつかなかった。



「……あのふたりはいいよな、最速タイム出たみたいだから。


はあ~、初挑戦だったとはいえ、せめてフリッタには勝ちたかったよな」



「でもぼく、ドラスピに乗れただけでも満足ですよ。最高の乗り心地でしたから」



「やあ、ハルトくん。キミとモニカさんが最終レースメンバーだったよね」


タスクは、ハルトの隣に座って話しかけた。



「フレッドが言ってたけど、竜たちはわりと本気で勝負してくれてるってさ。


それに、フラップはかわいい顔してすごく手強いやつだ、とも言ってたよ。


どう? ハルトくんなら勝てそう?


……いやあ、キミさ、集中するのはいいけど、ぼくのほうをむいてほしいな」



ハルトといえば、前の一点だけを見て、イメージトレーニングに没頭していた。



(レバーを両方前に倒せばアクセル全開。


右を手前に引けば左ドリフト。左を手前に引けば右ドリフト――)



いっぽう、部屋のすみではモニカさんがタブレットを操作していた。


何やら怪しげな笑みを浮かべていたが、


どんな作業をしていたのかはだれにも分からない――。



そこへ、熊の姿をした亜人のおじさんが部屋に入ってきて、


おそるおそる彼女に近づくとこう聞いた。



「つかぬことをおうかがいしますが、


モニカ・パーラーさんでいらっしゃいますか」



「え、あ、はい。わたしがモニカですが?」



操作に集中していたのか、モニカさんはびっくりしながら熊のおじさんを見た。



「ああ、やっぱりだ! お会いできてうれしいです。


わたし、あなたが現役だった頃の大ファンでしてね。


ここに来られたということは、またレーサーに復帰なさるので?」



「いえいえ、とんでもありませんわ。


わたしはもうプロを引退しましたので。


今日は仕事で、この子たちのツアーの面倒を……」



「そうでしたか。いや、でもそちらの格好……


あなたが現役の頃に着ていたのとまったく同じ。


やはり、今日はスピーダーに乗られるのではないですか?」



「まあ、そんなところです。


彼……ハルトくんと言うのですが、


彼の相方が来られなくなったので、急きょわたしが」



「なるほど! これはいいことを聞きました。


じつは今日、仲間たちと観戦に来たのですが、


あなたにそっくりな人を見かけたので、待合室へ確認しにいけと言われましてね。


ああ、《赤い伝説》とうたわれるあなたが、ここに現れるとは!


これで仲間たちも大喜びですよ」



モニカさんたちが会話していると、タスクが興味本位で近づいてきた。



「今、赤い伝説って言いましたよね?


ずっと聞いてたんですけど、モニカさんって昔レーサーだったんですか?」



「その通りさ、地上人の男の子。


この方は、八からスピーダーを操縦しはじめて、


十五の時にグランプリで初優勝されたんだ」



「八歳で初操縦!? 十五歳でグランプリ優勝!?」



めずらしく大きな声で驚くタスクに、ハルトもさすがに反応した。


ソファーの上からあわてて乗りだすと、モニカさんにこう聞いた。



「モ、モニカさんて、そんなにすごい人だったの!?」



「まあその、えへへ……」



モニカさんは、いかにも照れくさそうだった。



「でも、スピーダーを操縦するのはハルトくんだよ。


いい? 加速ラインはもれなく通過。


コーナリングは、なるべくマシンを内側によせるようにするの」



かつてのプロからの惜しみないアドバイスを受けて、


ハルトはありがたい反面、頭がクラクラしそうだった。



『――福田マサハル様と、西山シン様。風間ハルト様と、モニカ・パーラー様。


マシンの準備が整いましたので、ガレージまでどうぞ!』



「ほら、よばれたよ。じゃあ、いこうかハルトくん」



ハルトはモニカさんといっしょに、


部屋からガレージへ続く階段を降りていった。


マサハルとシンは先に降りているようだ。


下からいろいろな機械音が聞こえてくると、


ハルトは今になって緊張がつのってきた。



「ふう、初優勝はほんのまぐれだったのに。


それに、赤い伝説だなんてオーバーだと思うんだよね。


ただ趣味で走ってただけだもの」



と、モニカさんは謙遜ぎみなひとり言を言っていた。

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