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幕間2-Ⅰ『サングラスのエンジニア』

オハコビ隊のエンジニア部には、


恐ろしく高度な機械工学に精通した技術者が大勢いる。


そこにはオハコビ竜にかぎらず、亜人、そして人間もまた多く所属しているのだ。


なぜなら、スカイランドにあふれる多様な種族の客人を、


もれなく安全に運び、また十分にもてなしていくためには、


オハコビ竜の知識力と科学力だけではとても足りないからだ。


そのために、他の種族で培われた技術力も、それ相応に必要になってくる。


オハコビ竜たちは、長い年月をかけて、


方々から優れた技術力と、それを担うエンジニアをかき集めてきた。


それがなければ、


オハコビ隊はこうして巨大な組織へと発展することはなかったのだ。



こうして、あらゆる種族の力を一手に集約し、さらに洗練させて、


冗談のような科学力を開発してきたのが、オハコビ隊のエンジニアたちだ。



その中でも、とくに誉高い技術力を有しているのが、


『マスターエンジニア』とよばれる者だ。


彼らはエンジニアたちを統率するだけでなく、部門を問わずして、


オハコビ隊の重要なプロジェクトを担う存在でもある。



クロワキ氏は、まさにそのひとりだった。



地上人歓迎プロジェクトの主任でもある彼は、


ターミナルの中にあるエンジニアたちが活動する場所、


『オハコビ技術開発局』の一角に、自分のオフィスを持っていた。



弧を描いた長いのデスクの上はこざっぱりとしていて、


黒いおしゃれなタブレット端末が一つと、


ゆらゆらと湯気の立ち昇る銀のマグカップしか置かれていない。


クロワキ氏が座っている執務イスは、全体に曲線がこれでもかと使われた、


白のボディに藍色のふかふかな背もたれという、


飛行機のファーストクラスのような豪華さだ。



部屋の中には、使い方のよく分からないメカのような棚や、


通信画面のついた美しいコンソール、


さらに大きな三日月型の葉を茂らせた観葉植物。


極めつけは、執務イスの後ろに広がる三枚張りのガラス窓。


そのむこうには、ほの白い群青色にそまった夜の雲海の風景が。



「――そうですか。スズカさんにそんな過去があったとは」



クロワキ氏は、こんなところでも黒光りなサングラスをかけていたが、


受けた報告の内容を深くかみしめるように神妙な表情をしていた。



「これは、わたしとしても、


あの子が少しでも晴れやかな気持ちで地上界に帰れるよう、


なんとかサポートしてあげたくなるところですよねえ」



「ええ。わたしも、同じことを考えていました」



デスク越しに、残念そうな声でそう答えたのは、モニカさんだった。


彼女は今、クロワキ氏の補佐官としての義務のため、


彼のオフィスを訪れていたのだ。



スズカが地上界の学校で受けた痛ましい仕打ちについては、


フラップを通じて、モニカさんにすべてが報告されていた。そして、


こうして今、彼女の口から直接、クロワキ氏へと報告がなされたばかりであった。



「ただでさえ、心に深い傷を負っているのに――」



クロワキ氏は、デスクに置かれたタブレットの画面を、


ポチ、ポチッ、とタップして、目の前に出現させた空中モニターに、


あの黒影竜ガオルの画像を映し出した。



「このような得体の知れない黒い竜に、ガブガブ食い殺されかけたとなれば、


あの子の精神的なダメージはそうとうなものでしょう」



画像は、ガオルがツアー参加者たちを襲撃した場面を映していた。


ちょうど、ガオルの腕にとらえられたスズカが恐怖にわななく姿も写っている。


今日、亜人の乗客をハクリュウ島に連れてきたオハコビ隊員が、


上空から戦々恐々としながら撮影したものだ。



今もっともクロワキ氏の頭を悩ませる問題――この黒影竜への対処について。



「あの、対策本部は今、どこまで情報をつかめていますでしょうか?」


と、モニカさんが質問した。



「じつはねえ、先ほどようやく、有益な資料が集まったところなんですよ。


何しろ、存在が定かではなかった竜種なのでね、


情報収集にかなり手間取ったみたいで」



「あ、それでは、先ほど評議会から要請されたように、さっそく明日、


『黒影竜にまつわる対策会議』を開くことができますね!」



「いやいや、今日ですよ」



「えっ、今日これからですか?」



チッチッチッ、とクロワキ氏は指をふってみせた。



「モニカちゃん、そんなの当たり前ですよ~。


何といっても、ツアー参加者の命がかかっているんですからねえ。


なのでわたし、これから対策本部に顔を出さないといけなくて。


スズカさんの命をあずかるプロジェクトの担当者としてね」



さてと! クロワキ氏はイスから腰を上げると、


タブレットを手に、移動を開始しようとした……が、


ふと足を止めて、モニカさんにこう聞いた。



「そうだ、スズカさんにお貸ししたテレパシー・デバイスのほう、


どんな調子かフラップくんは言っていましたか?」



「え? ええ。つけ心地も、使い心地も、だいぶよさそうだと言っていました」



「それはよかったなあ。あれはわたしが設計した意欲作ですからねえ。


気に入ってもらえたようだから、マスターエンジニアとして鼻が高いですよ」



「フラップくんも、スズカさんの精神的な安らぎになってくれたみたいです。


きっと明日はスズカさん、今日よりもいくらか、


気持ちに余裕が生まれるのではないでしょうか」



そうだねえ――クロワキ氏は、スズカの幸福を願うような優しい笑みを浮かべた。



「異国の旅というのは、よくも悪くも、人を変えるものですからね。


きっとこのツアーが、あの子の人生を変えることでしょう」


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