表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/105

(スズカちゃんの話のなかに、嘘があるなんて思えない)



ハルトは、スズカの語ったすべてを信じていた。信じないほうがおかしかった。


彼女がこぼすたくさんの涙がそれを物語っている。


けれど、あまりにも悲しい話を前に、ハルトは絶句していた。


どんな言葉をかけるのが正しいのか分からない――。



「スズカさん」



フラップが、改まったように凛とした様子で、


スズカの前にひざを折って腰を下ろし、彼女と自分の目線を合わせた。



「あなたのことはとってもよく分かりました。


ぼくは、あなたの言葉を信じていますよ」



『……本当? 本当に信じてくれるの?』



「まあ、何度も言うようですけども、竜は嘘をつきません。


でもそれだけでなく、ぼくらオハコビ竜は、人のつく嘘に敏感なんです。


そうとう巧妙な嘘でなければ、すぐにそれだと分かります。


いわゆる、鼻が利くというやつでして。


スズカさんがちっとも嘘をついていないのは、


あなたの様子を見ていれば疑う余地もありません」



ただ――。フラップはいっそう真面目な声で言った。



「島でも言ったように、このツアーが終わったら、


ぼくはあなたを地上界に送り帰さないといけないんだ。


オハコビ隊はこれ以上、あなたを特別あつかいすることはできない」



でもね、竜であるぼくには分かる……。



「あなたの生きるべき世界はここじゃなくて、地上界にあるんだ。


その世界に背をむけてしまったら、


それこそ、夢も気力も何もかも失くしてしまうよ……



まあ、ツアーはまだ初日ですから、


残りの日をあますことなく楽しんでいただいて、


それから改めて考えてみてください。


きっとぼくたちが、あなたをまたがんばれる人に戻してみせますから」



そこまで言うと、フラップは両手をそっと伸ばして、


スズカを自分の胸の中へそっと抱きよせた。


大切なわが子をなぐさめるかのように、頬と頬を当てながら、


大きな肉球のついた手で、とん、とん、と優しくたたく。



「大丈夫、スズカさんはいい子だよ」



スズカは何も言わなかった。ただフラップの胸に身をあずけ、


時々鼻をすすりながら、さめざめと嬉し涙を流していた。


フラップの柔らかな体毛が、その涙をすっと吸い止める。



いっぽうハルトも、何も言えずにいた。


フラップに一番おいしいところを持っていかれたおかげで、


完全に形無しになっていた。仕方ないこととはいえ、やるせなかった。


この世界では、ちっぽけなツアー参加者はオハコビ竜の存在がないと、


どうあっても無力だと気づいた。



それに、もうひとつ痛感させられたことがあった。



(ぼくは彼女のお父さんの面影と、重ねられていたにすぎなかったのか)



風間ハルト、小学五年生。異世界にて。


十一歳の幼さではじめての失恋を経験した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ