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(スズカちゃんの話のなかに、嘘があるなんて思えない)
ハルトは、スズカの語ったすべてを信じていた。信じないほうがおかしかった。
彼女がこぼすたくさんの涙がそれを物語っている。
けれど、あまりにも悲しい話を前に、ハルトは絶句していた。
どんな言葉をかけるのが正しいのか分からない――。
「スズカさん」
フラップが、改まったように凛とした様子で、
スズカの前にひざを折って腰を下ろし、彼女と自分の目線を合わせた。
「あなたのことはとってもよく分かりました。
ぼくは、あなたの言葉を信じていますよ」
『……本当? 本当に信じてくれるの?』
「まあ、何度も言うようですけども、竜は嘘をつきません。
でもそれだけでなく、ぼくらオハコビ竜は、人のつく嘘に敏感なんです。
そうとう巧妙な嘘でなければ、すぐにそれだと分かります。
いわゆる、鼻が利くというやつでして。
スズカさんがちっとも嘘をついていないのは、
あなたの様子を見ていれば疑う余地もありません」
ただ――。フラップはいっそう真面目な声で言った。
「島でも言ったように、このツアーが終わったら、
ぼくはあなたを地上界に送り帰さないといけないんだ。
オハコビ隊はこれ以上、あなたを特別あつかいすることはできない」
でもね、竜であるぼくには分かる……。
「あなたの生きるべき世界はここじゃなくて、地上界にあるんだ。
その世界に背をむけてしまったら、
それこそ、夢も気力も何もかも失くしてしまうよ……
まあ、ツアーはまだ初日ですから、
残りの日をあますことなく楽しんでいただいて、
それから改めて考えてみてください。
きっとぼくたちが、あなたをまたがんばれる人に戻してみせますから」
そこまで言うと、フラップは両手をそっと伸ばして、
スズカを自分の胸の中へそっと抱きよせた。
大切なわが子をなぐさめるかのように、頬と頬を当てながら、
大きな肉球のついた手で、とん、とん、と優しくたたく。
「大丈夫、スズカさんはいい子だよ」
スズカは何も言わなかった。ただフラップの胸に身をあずけ、
時々鼻をすすりながら、さめざめと嬉し涙を流していた。
フラップの柔らかな体毛が、その涙をすっと吸い止める。
いっぽうハルトも、何も言えずにいた。
フラップに一番おいしいところを持っていかれたおかげで、
完全に形無しになっていた。仕方ないこととはいえ、やるせなかった。
この世界では、ちっぽけなツアー参加者はオハコビ竜の存在がないと、
どうあっても無力だと気づいた。
それに、もうひとつ痛感させられたことがあった。
(ぼくは彼女のお父さんの面影と、重ねられていたにすぎなかったのか)
風間ハルト、小学五年生。異世界にて。
十一歳の幼さではじめての失恋を経験した。




