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【完結!】ぼくらのオハコビ竜-あなたの翼になりましょう-  作者: しろこ
第7章『黒い竜との遭遇』
35/105

2(挿絵あり)

白竜さまは、湖の底へと帰っていった。



紆余曲折はあったものの、ハクリュウ島ツアーの目玉行事は無事に終了した。


しかし、ガオルが起こした事件は、やはりスズカの心に爪痕を残したようだ。



スズカは体調をくずしてしまった。


ハルトや他の子どもたちが見守るなか、地面に腰かけ、


探索用スーツに搭載された酸素を何度も吸引して、


自分に応急処置をするのがやっとだった。


ハルトはともかく、他の子どもたちの心配そうな視線は、


スズカにとっては痛いほど辛いものだった。


それがスズカの不調に拍車をかけているのだ。



いっぽうでフラップたちは、ターミナルに救援要請を出したり、


亜人の野次馬たちを崖のまわりから退散させたりと、忙しそうにしていた。


ツアー参加者がたかだか体調不良を訴えただけなのに、


彼らはかなり焦っているように見えた。



儀式終了からおよそ二十分後、ターミナルから救援部隊が到着した。


白いナース姿のオハコビ竜が二頭と、


青と黒の機動隊のような姿のオハコビ竜が四頭の、合計六頭だった。


頭数は少ないものの、大規模な災害があったわけではないのだ。



「救援部のフメリーです。患者様はどちらでしょうか」



「あ、こっちです」



ハルトは、飛んでかけつけたメスのオハコビ竜にむかって、手を上げた。



「ご安心くださいね。


わたしと、むこうに待機しているもうひとりのフアンナで、


スズカさんをターミナルへ運びつつ、しっかり治療しますからね」



「でもさ、ただの体調不良なんだよ? べつに、そこまでしなくても……」



「そ、そういうわけにまいりません!


皆さんは、われわれにとってとても大切なお客様ですから、


もしものことあったら一大事ですもの」



そう言って、救援部員のフメリーはスズカをそっと抱きあげた。


スズカは、ちっとも嫌がらなかった。


フメリーは彼女に優しく声をかけながら、フアンナのところまで飛んでいく。


フアンナの胸には、フラップたちと同じようなエッグポッドが抱かれていたが、


他とは違って表面が白色だった。ポッドのホルダー機器も、ピンク色をしている。



「あの、あのあの、どうかスズカさんを、よろしくお願いしますね!」



フラップが、二頭の救援部員にむかって、


落ちつきなさそうにそう伝えているのが聞こえた。



スズカは、フメリーともども白いエッグポッドの中へ入ってしまった。


あの中で、スズカはフメリーによる治療を受けるのだろう。


中はどうなっているのやら。



スズカが一足早くターミナルに運ばれていくのを下から見送ると、


ハルトは今になって、がっくりと肩を落とした。


たかだか体調をくずしただけでも、


スズカちゃんにとってはとても辛い部分があっただろうに。


ぼくは、かなり不謹慎なことを言ってしまったろうか。


スズカちゃんに嫌われてしまったらどうしよう――。



「元気出せよ、ハルト」



ケントが、横からハルトの肩をぽんとたたいて、声をかけてきた。



「まー、あの子になんにもしてあげらんないのは、みんな悔しいよ。


けどさ、おれたちはゲストの立場なんだから、


あれこれしゃしゃり出るのもどうかと思うわけよ」



そこへタスクも近づいてきて、ハルトにこう言った。



「そうだよ、ハルトくん。だから心配いらないよ。


きっとすぐ元気になって、また会えるよ」



「違うよ、ぼくはさ――」



言いかけて、ハルトはやめた。無力な自分を追いつめるのは嫌だったし、


そんなことをしたって少しも意味がない。



「……そうだよね。


ぼくがくよくよしたって、スズカちゃんはよくならないものね」



ハルトが笑顔でそう答えた時だ。フリッタとフレッドが、


一頭の灰色のオハコビ竜の後ろに続いて、崖の上に戻ってきた。



フラップは、まるで警察官のように敬礼して、


そのオハコビ竜をうやうやしく迎えた。



「フーゴ総官! お待ちしてました!」



警察の機動隊に近しく勇ましい身なりのフーゴは、


ハルトたちがこれまで見てきたオハコビ竜たちの中でも、


一回り大きな体つきをしていた。


挿絵(By みてみん)


皮膚の下にはがっしりとした筋肉がついていて、


オオカミのように鋭い顔つきだ。


いかにも歴戦の戦士らしい風格がただよう。


これほどかっこいいオハコビ竜がいたとは、だれが想像できただろう?



フーゴは、二十三人の子どもたちをじっくりながめてから、


礼儀正しく挨拶した。



「――オハコビ隊、警備部・総官のフーゴです。


スカイランドツアー参加者の皆さん、ご無事で何よりです」



ハルトは、


フラップもこれぐらいかっこいい顔になれないかなと、ぼんやり考えていた。



「事件のあらましについてはすでに聞きました。


われわれオハコビ隊の一大プロジェクトにおいて、


地上界のお客人のひとりを命の危険にさらしてしまったこと、


オハコビ隊を代表して、心よりおわびいたします」



「あのう……」



ハルトはそっと手を上げて、フーゴに質問した。



「黒影竜って、いったい何者なんですか?」



それを聞いたフーゴは、


ハルトを見下ろしながらあごに手を当てて、ふむ、と小さくうなった。



「あなたは、例の黒い竜について興味がおありのようだ。


しかし残念ながら、わたしも存じ上げないのです。


黒影竜は、われわれオハコビ隊でも、未確認の存在と認定されています。


ただいまターミナルにおいて対策本部を開いており、


黒影竜にまつわる資料を、大至急かき集めているところです」



すごい。オハコビ隊はやることがとても早い。



ハルトは、先ほどスズカを捕らえたガオルの姿をもう一度思い出した。


全身がほぼ真っ黒。


青いたてがみ、両手にウロコの甲冑、顔には悪魔のような黒い仮面。


そして、あの恐ろしい赤い爪――存在そのものがすでに凶器だ。


なのに、どことなくオハコビ竜に近い感じがしたのは、


きっとあの鳥のような翼のせいだ――ハルトはそう思うことにした。



「みんな、よく聞いてほしい」



フレッドがフリッタといっしょに、子どもたちにむかって説明をはじめた。



「ハクリュウ島での滞在時間は、残りあと二時間だ。


そのあいだ、みんなは俺たちのエッグポッドの中に入ってすごしてもらうよ。


残り時間は、俺たちといっしょに飛びながら、島を自由に探索しよう。


せっかく来たんだから、もっとこの島にいたいよな」



「んで、その後はターミナルに戻って、


ホテル《オハコビ・イン》に移動しま~す。


ちなみにスズカちゃんは、警備部の保護下に入ることになったからネ。


んまあ、これも全部、みんなの身の安全のためなんだヨ。例のアイツが、


今度はキミたちのうちのだれかのトコに来ちゃうかもしれないし」



この決定事項に、フラップも喜んで賛成した。



「それにお望みでしたら、


ぼくらは《フライング・ジェットコースター》でもなんでも、


喜んでご披露しますよ。まだまだ、いっしょに遊びましょう!」



すると、子どもたちからも安堵の声がわき起った。



「よかった~、すぐ帰ることになると思ってたよ~」


「まだここにいられるの? いるー!」


「フラップたちが守ってくれれば、平気だよー」



そう。


ここに集まったのは、肝のすわった、選ばれし勇気ある子どもたちなのだ。



ここで、フーゴは言った。



「これもすべて、今年のツアーを最後まで無事にやり遂げるべく、


クロワキ主任によって決定されたことですので。ご了承いただき感謝します」



フーゴは、子どもたちにむかって頭を下げた。


どうやら、彼もあのクロワキ氏の部下という位置づけになっているようだ。



だが、ハルト以外の参加者は、もうだれも彼の言葉を聞いていなかった。


それぞれのオハコビ竜とどうすごすか、ペア同士で相談しはじめていたのだ。





ハクリュウ島からはるか彼方に、とある小さな島があった。


草木の一本も生えていない、乾いた荒れ地ばかりの死んだ島だ。


敗北者が行きつくのにふさわしい島――。



白竜さまによって吹き飛ばされたガオルは、ここに倒れていた。


意識はあった。しかし、体じゅうが激痛を起こしていた。



圧倒的な力だった。


あれが、偉大なる白竜の末裔とよばれる理由だったとは。


ガオルは悔しさのあまり、あおむけのまま右手で地面をなぐりつけた。



(神通力を使うなど、聞いていなかったぞ……!)



だれかにたいして強い不満をあらわにした。


だが、このくらいであきらめはしない。


竜は、体の回復が恐ろしく早い。


飛べるようになったら、すぐにまた行動しよう。


次なる手段をこうじねばならない。



「待っていてくれ、スズカ。必ずまた、キミを迎えに行こう――」


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