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【完結!】ぼくらのオハコビ竜-あなたの翼になりましょう-  作者: しろこ
第6章『白竜さまの島』
30/105

2(挿絵あり)

スズカは、島の動物たちに気に入られているようだった。


その後に出会った、赤く尾の長いアカナガホウビという鳥や、


イタチみたいに胴の長いリスの仲間であるクダノリスなんかも、


スズカが近づいて手をさし出すと、彼女に興味をしめして体に乗ってきたのだ。


合計、三種類の小動物に囲まれて、スズカは今やひとり夢気分だった。



楽しそうに前を歩く彼女の様子に、ハルトはいつの間にか、


昔のアニメーション映画に出てくる、森のプリンセスの姿を重ねてしまっていた。


この森は、愛らしいスズカをさらに演出する。


このままだと、自分の脳内イメージはスズカでいっぱいになってしまいそうだ。



「そういえば、ハルトくんとはまだ、


ふたりきりでちゃんとお話していませんでしたよね」



いいタイミングで、フラップが声をかけてくれた。


うまい具合に、頭のイメージをそらせそうだ。



「あっ、うん。そうだったよね」


「ハルトくんは、竜が好き、なんですよね。


ぼくたちオハコビ竜に、とても興味を持ってくれるのは、嬉しいかぎりですよ」



「オハコビ竜ってさ、どうして犬みたいな姿をしてるの?


なんで鳥の羽を生やしてるの?」



「うーん、いきなり難しい質問ですね……なんていうのかな。


ヒジョーにフクザツで、おとぎ話みたいなお話なんですけども。


まあ、ざっくりと言わせてもらうとですね、


ぼくらの遠いご先祖さまである犬がおりまして」



「えっ、犬?」



「その犬が、長年にわたって空を飛びたいと、ずっと願い続けてきた結果、


ある日、天から鳥の羽を授かったんです」



「え、いきなり羽が生えたの!?」



「そうしてその犬は、長年の願いを叶えた結果、


やがてより強い生物……竜へと進化。


そして、今のぼくらに至る、といったところでしょうか」



「えっ、えっ、よく分かんない。ざっくりしすぎ!


じゃあ……オハコビ竜は、竜の仲間じゃなくて、


犬の仲間ってことになるじゃない」



ハルトは、フラップの道を立ちふさいだ。聞き捨てならなかった。


もともと犬だった、ということは、竜の仲間とは言えないのではないか。



「――ハルトくん。ぼくの頭をよく見てください。


この角、竜の何よりの証なんですよ」



「あ……」



ハルトは、フラップの琥珀色の角を見た。


ヤギやヒツジのそれを思わせる、かぎりなく本物に近い質感を持った角。


作りものなんかじゃない。



「起源こそ他とは違えど、ぼくらは正真正銘、竜の仲間です。


嘘はつきません。嘘じゃないことを証明するために、


オハコビ竜の起源をしっかり語ろうとすると、とんでもない時間がかかります。


だから、とりあえず今は、この角にめんじて勘弁してほしいな、なんてね」



フラップは、本当にやりにくそうな顔をしていた。


その表情からは、確かに嘘は感じなかった。


ハルトは、自分の質問がかなり野暮なものだったかもしれないと、


今になって少しみじめな気分になった。



「――うん。分かった。とりあえず、答えてくれてありがとう。


ごめんね、いきなり通せんぼうなんかして。ちょっと動揺しちゃったんだ」



「いえ、いいんですよ。ハルトくんはとてもいい子で、


スズカさんの警戒心を解いてしまうほどの、不思議な魅力を感じます。


ぼく……キミのことが好きなんですよ。だから、


そんなハルトくんの夢や興味を壊してしまわないか、ぼくも不安だったんです」



改まったような清々しい気分で、ハルトとフラップはたがいの顔を見ていた。



「あれ、そういえばスズカさんは?」



「んーと、ずいぶん先に行っちゃったみたい」



「意外と歩くの速い子なんですね」



ハルトは、駆け足で林道を急いだ。



「あんまりぼくから離れちゃダメですよー!」


と、フラップが後ろから叫んだ。



森をぬけると、素晴らしい景色がハルトを待っていた。


踊りうねる雲の波にさらわれるような島の真ん中に、


恐ろしく澄みわたった大きな湖が一望できる。


そのむこうに美しい湿原が見える。


さらにそのむこうには、青くかすんだ山肌が広がっている。



スズカはすんなりと見つかった。


彼女は、湖を見下ろす小高い丘の上に、ぽつねんと立っていたのだ。


まわりに動物たちがいない。途中でお別れをしたのだろう。



「スズカちゃん!」



ハルトがよびかけても、スズカはふり返ろうとはしなかった。


ハルトは、スズカの隣に駆けよった。



「スズカちゃん? スズカちゃ……えっ?」



スズカは、目に涙を浮かべていた。



「――アカネ、さん、の、言った、とおり」



スズカは、感動に声をつまらせながら言った。



「全部、夢、みた、い……」



「――うん、夢みたいだ。でも、全部本物なんだ」


挿絵(By みてみん)


ハルトは、息をのむようなハクリュウ島の絶景を、


ふたりでいっしょに目に焼きつけた。





そのふたりの姿を、すぐ近くの茂みの奥から見つめていた影があった。



「おお、おお……」



それは、あの黒い竜だった。


彼は、長い苦難のはてに一条の光でも見出だしたような、


期待に満ちた声をもらしていた。



(こんな奇跡が、はたして起こりうるだろうか……?)



黒い竜は、先ほどの戦いで疲労した体を、ここで静かに休めていた。


その時、森の中から歩み出てくるスズカの姿を見た。


その姿を目にとらえるなり、彼は目をそらせなくなってしまったのだ――



美しい。彼女は可憐な人間の少女でありながら、すでに美しすぎる。



人間の命をいただく。この島に来た目的は、ただそれ一つのみ――。


ただし、いただくのはたった一人だ。



(俺は、決めた)



黒い竜は、決意に瞳を燃やしていた。



(スズカ……俺は、キミに決めた)



この体が回復でき次第、すぐにキミを迎えに行こう――。


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