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【完結!】ぼくらのオハコビ竜-あなたの翼になりましょう-  作者: しろこ
第1章『姿の見えない竜』
3/105

1(挿絵あり)

小学五年生の風間ハルトは、あるあこがれをいだいていた。


あこがれがすぎて、学校の友達からは変わり者あつかいをされがちだが、


そんな周囲の評価なんて、ハルトはほとんど気にしたことがない。



ハルトのあこがれは、竜にあった。



強靭な肉体に、びっしりと全身をおおうウロコや、


その口内から飛びだす灼熱の炎――。


一年生の頃に読んだファンタジー小説で、迫力のある竜の挿絵を目にした瞬間、


ハルトはなぜか竜という架空の生物にひかれてしまった。



お父さんという優しいスポンサーの協力を得て、


本屋で竜にまつわる本という本を買いまくった……だけでは飽き足らず、


通販で竜の本や映画のDVDなどを取りよせてもらったりもした。


ネットでプロのイラストレーターが描いた竜を閲覧するのはもちろん、


自分で自由に竜を描くようにもなった。



今では自他ともに認めるドラゴン愛好家だ。



埼玉にあるわが家の自室は、竜の本やイラスト、


竜のキャラクターグッズなどでうめつくされている。



「なんというか、竜がぼくの心をわしづかみにして放さない感じ。


分かってくれるかなあ。


あ、この場合は竜づかみって言ったほうがいいのかな」



竜の魅力は、そのかっこよさや力強さだけではない。


竜は、人智を超えた存在であり、無駄なあらそいや自然界の乱れを嫌う。


愛するものを守り助けるためなら、時には人間の味方までする。


そんな竜の、危険な力とは裏腹の不思議な優しさが、ハルトは一番好きだった。


だから、どちらかというと、いかつい姿の強そうな竜より、


目に見えて優しそうな姿の竜のほうが好みなのだ。



そんな竜に会えるかもしれない手がかりを、


ハルトは四年生の学期末につかんだ。



ほんの興味本位でネット検索した、とある幻の生物の目撃情報サイトのなかに、


竜のような姿をとらえた写真が大きく取り上げられていた。


大慌てで撮影されたものらしく、被写体が手ぶれでひずんでいるうえ、


逆光でくわしい姿がよく分からない。


しかし、頭部に生えた角、背中の翼らしきもの、そして長いしっぽから、


ハルトは、これが竜に近い生物であると確信した。


挿絵(By みてみん)


「だって、この写真を撮った人も、その大きさや動きの速さなんかを、


ホントに見てきたようにくわしくコメントを残してるからさ。


間違いなく存在するはずだよ」



いまだにだれも正体を知らない、謎の黒い影――。


ハルトは、ぜひともその正体をつかもうとふるい立った。



たとえ嘘の情報だったとしても、竜かどうかを確かめるために動くことは、


ハルトにとってドラゴン愛好家のひとつの使命のように思えたのだ。





「……ふう。ここだったよね、例の写真が撮られたのは」



雑木林の細い坂道をぬけ、柵のない崖の上に立ったハルトは、


ひたいににじんだ汗を腕でぐいっとぬぐった。


ひゅううう、と吹きぬける山風が、探索でほてった体によくしみる。



晴れて五年生になったハルトは今、長野にいた。



例の生物が撮影されたのは、長野のとあるキャンプ場。


そこでは、ある小学生むけのキャンプイベントが毎年行われていた。


けれど、ただ野山でキャンプを楽しむだけではなかった。


『小学生・飛行体験サマーキャンプ』とよばれるそのイベントは、


二日目にはなんとパラグライダーを、四日目には熱気球が体験できるという!


いずれも、専門のインストラクターたちといっしょに、


キャンプ場近くの会場で開催されるよそのイベントに、


便乗する形で行われるのだ。



なんとも豪華で変わったキャンプだが、


キャンプ好きの子どもたちの間では、かなり有名なキャンプイベントだった。


そんな四泊五日のキャンプに、ハルトはひとりで参加したのである。



カメラを起動したスマホを手に、上空のおぼろ雲をながめながら、


ハルトはあの写真の生物が空をよぎる瞬間を、じっと待っていた。


たちの悪いガセネタや、ねつ造写真が拡散するこのご時世、


嘘としか言いようのない目撃情報にたいして、なんという入れこみようだろう。



「例の写真が撮られた時間にあわせたのになあ。なかなか現れないや」



もう一時間以上も待った。


いい加減キャンプ場に戻らないと、大人たちが心配して探しに来てしまう。


身勝手な理由でキャンプ初日に問題を起こしては、しゃれにならない。


スマホの待ちうけにした例の写真を愛おしく見下ろしながら、


今日のところは切り上げたほうがよさそうだと判断した、その時だった。



「あ、いたー!」



雑木林のほうから女の子の声が飛んできた。


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