2(挿絵あり)
服装だけでまったくの別人になってしまったかのようなモニカさんに、
ハルトたち六人はすっかり見とれていた。
なにしろ、もともと容姿端麗な彼女が、
さらに美しく見えるようになったのだから。
とくに、ケントはすっかり鼻の下を伸ばしているようだった。
「モニカさあん!」
ケントが手をふってよびかけた。その声に気づいたモニカさんは、
ケントを見てにこやかに首を横にそらしてみせた。やっぱり、きれいすぎる!
「じゃあ、モニカちゃん。
あとは任せましたからねえ。しっかりお願いしますよ~」
と、クロワキ氏は言った。モニカさんは、了解です、と返答した。
「ではでは、わたしはこれで……ああ、そうそう!」
その場を立ち去ろうとしたクロワキ氏は、何かを思い出したように手をたたき、
振り返って子どもたちにこう言った。
「この世界で体験したことは、地上界に帰ってもだれにも内緒ですよ?
スカイランドが地上界に公になったら、いろいろと厄介ですからねえ。
地上界の欲深な大人たちのせいで、オハコビ隊だけでなく、
スカイランドの秩序が乱れる事態にもなりえますからね~」
それからクロワキ氏は、
サングラスの角度を上げながら、怪しげな口調でこうつづった。
「そう。だれにでも、どんな物事にも秘密はつきもの。
みなさんにも、この世界の秘密を守る仲間になってもらいますよ……」
では、よいツアーを! としめくくると、
クロワキ氏は右手を高く上げながら、人ごみの間へ消えていった。
「――それじゃあ、参加者のみんな、わたしのあとについてきてね。
わたしたちオハコビ隊やこの世界などについて、おいおい説明するからね。
フライターのみんなは、先に第十五層へむかってくださいね」
モニカさんがそう指示すると、十二頭のオハコビ竜たちが声をそろえて、
「はい、了解です!」
と返事をし、いっせいにふわりと舞い上がり、
子どもたちへ陽気に手をふってから、どこかへぞろぞろと飛んでいった。
フラップも、いっしょに飛んで行ってしまった。
歩き出すモニカさんのあとを、子どもたちはただだまってついていく。
ハルトは、スズカの様子をうかがった。
「スズカちゃん、歩けそう?」
「……歩け、る」
スズカは、ハルトを見ずにボソッと答えると、先に歩き出してしまった。
やっぱり、トレインの中でぼくが口にしたことを気にしているのか――。
ヒトの波へと歩き出す子どもたちを、野次馬の亜人たちは、
「スカイランドを楽しんでくれよ」、「迷子にならないように気をつけてね――」
などと、温かい見送りの言葉をかけてくれた。
しかしまあ、歩いた距離はほんのわずかだった。
参加者たちはモニカさんに案内され、
エントランスのすぐ目の前にあるべつのホールに入った。
そこには、上にのびたガラスチューブが、全部で六本もそびえ立っている。
そのうち五本の前には、亜人たちによる待ち列ができていた。
残り一本のドアの前には、
モニカさんと同じような格好をした人間の女性が立っていた。
その人は、モニカさんと会釈をすると、その場を横へどいた。
モニカさんはドアの横で立ち止まると、操作盤をポン、ポンとタップ操作した。
すると、ドアがすぐに開いて、
中にはエレベーターらしきものがすでに止まっていた。
「これは、ターミナル全体をつなぐ『スピードリフター』と言います。
一台で、人間の大人が四十人も乗れるの。これに乗って、
わたしたちはこれから第十五層の一番ポートまで、一気に移動していくんだよ。
この六番リフターは、今わたしたちの貸し切りなの」
上昇ではなく、移動と表現したのはどういうことか。
モニカさんに続いて、子どもたちはよその待ち列のヒトたちを横目に、
ひとりももれなくリフターに乗りこんだ。
中は円筒形になっていて、全方向ガラス張りだ。その広いこと!
モニカさんが、ドアのそばに設置された端末のボタンを押すと、
ドアがしまり、リフターがゆっくりと上昇しはじめた。
なんだ、やっぱりエレベーターじゃないか。
――と思ったのもつかの間。
リフターは水平にのびる幅広のチューブの中に放りこまれた。
そこで一瞬停止すると、今度は、びゅうううん! と前進しはじめたのだ。
まったくゆれない、だれも転ばない、快適で不思議な乗り心地だった。
リフターが移動しているのは、
厚みのあるプレートのような層と層のあいだを、縦横無尽に伸びるチューブの中。
むこうから来た他のリフターとすれ違ったり、
角を曲がったりする瞬間には、なかなかの迫力が生まれる。
子どもたちはワイワイと大はしゃぎし、窓の外の光景に見とれた。
どうやらこのターミナルは、プレート内部に窓がついた厚い層と、
そうでない薄い層に分かれているようだ。
厚い層は下のほうに集中していて、
たぶん商業施設やいろんなサービスセンターがあるのだろう。
反対に、上のほうに集中した薄い層の表には、
オハコビ竜たちが停留する離陸用のポートがあるに違いない。
ハルトは、近くを並走飛行するオハコビ竜たちを見上げた。
彼らが胸に抱いている機械に挿入された卵。
あれがどうしてもよく分からない。




