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【完結!】ぼくらのオハコビ竜-あなたの翼になりましょう-  作者: しろこ
第4章『セントラル・オハコビ・ターミナル』
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ゲートの光をぬけて、車両内の子どもたちの幼い目に飛びこんできた光景。


それは、みんなの想像をはるかに凌駕するものだった。



『――まもなく、東オハコビ十番隊が到着いたします。


ウタカタ島へむかわれるお客様は、


第十層・三番ポートへ、お急ぎくださいませ――』



天にこだまするようなアナウンスの声。


駅のホームで耳にするような声とは、


ボリュームも、反響の重みも、まるで比べものにならない。圧倒的な音量だ。



ひゅん! ひゅんひゅん、ひゅーん!


ひゅひゅん! ひゅん、ひゅんひゅーん!



おびただしい数のオハコビ竜が、四方八方を飛び交っている。


色彩豊かな、数えきれないほどの竜たちが、いくつもの群れをなしている。


こんなに、こんなにたくさんいるものだったのか。


中には、フラップたちと同じフライトスーツを着ている者もいる。


そのスーツの胸あたりにつけたホルダー機器に一つずつ入れられた、


あの卵はなんだ? 橙色のやら桃色のやら。



『空の長旅でお疲れの際は、


ぜひ、サービス満載のオハコビ・インをご利用ください』



見渡す限りに目にとまる広告モニター。


見覚えのないロゴマークや映像ばかりだ。


『ドラゴン運輸』、『モクモ島リゾート』、


『オハコビ遊覧カンパニー』、『竜犬新聞社』――。



それだけじゃない。


吹きぬけになったこの大空間を見下ろすかのように、


天をあおぐほど何層にもおおい重なったたくさんの広大なフロア。


美しい曲線を描くチューブロード。


そして、吹きぬけの真上をおおいつくすガラス窓からのぞく、


目の覚めるような青い空――。



『みなさん、セントラル・オハコビ・ターミナルへ、ようこそ!』


フラップが、意気揚々とした声で言った。



『ここは空中に浮かぶ、空港と都市がひとつになったところ。


ぼくの仲間がたっくさん暮らしている場所。


ぼくたちオハコビ隊の、本拠地です!』



空中? まさか。


ハルトはすぐさま、車窓から下をのぞいてみた。



驚くべきことには、フラップの言う通りだった。


吹きぬけの下は、底がぽっかりぬけており、かわりに、


もこもこと広がる雲海がはるか下に――あの鮮やかな白さ、本物だ……。



「わああ、あ、あぁぁ……」



スズカは、目の前に広がる光景に目がくらみそうだった。


建物の何もかもが透きとおったような色をしていて、息をのむほど美しい。


さながら未来都市のようだ。


この巨大すぎる空中施設が、すべて一つの組織のものだなんて。



「さあ、まもなくスカイ・ステーションに到着しますよ」



小宇宙のような吹きぬけ空間の先に、いくつもの細い着陸ポイントが見えてきた。



フラップ、フリッタ、フレッドの三頭は、トレインと仲間の竜たちを引き連れて、


まっすぐ滑りこむように降下していった。


少しずつ空中ブレーキをかけつつ、着陸ポイントのすぐ上までくると、


トレインを乱雑に着陸させないように、そうっと優しく……


水中に沈みこむ布のような具合に降りていく。



そして、今まさに――着陸した。スライドドアが開く。



ぞろぞろと車外に出た子どもたちは、からりとした清々しい空気と、


ザワザワと大気を震わせるような喧騒に包まれた。



「ハルトくーん、スズカちゃーん。いよっ!」



一番列車のほうから、ケントたち東京四人組がふたりのもとへ歩いてきた。


声をかけたのはアカネだ。彼らが近づいてくると、


スズカは急におどおどして、背中をむけてしまった。



それにしても、さすが経験者たち。


そのたたずまいには、気持ちの余裕が感じられる。



「ふたりとも、スカイトレインで気持ち悪くならなかったかい?」



「というか、おれたちまたやってきたんだっけなあ、スカイランド!」



「ええ! ぼくたち、戻ってきたんですよ。


これからまた、楽しすぎる三日間が待ってると思うと――」



「ああもう、あたし、背中に羽が生えちゃうかも!」



ケント、タスク、アカネ、トキオの四人は、


再びおとずれる夢のような日々に期待をふくらませ、


ウキウキが五臓六腑にみなぎっている様子だった。


そうだ、とハルトは自覚した。ぼくたちは、スカイランドへやってきたんだ!





子どもたちは、左右を見回したり、興奮してしゃべったりしながら、


フラップたちに案内されて大きなアーチをくぐり、エントランスホールへと出た。



ターミナルの中は、面白いことに、


多種多様な姿をした『ヒト』でごった返していた。


しっぽを生やした動物のようなヒトに、魚人や植物人のような見た目のヒト。


それに、説明のややこしそうな異星人らしいヒトまで……。


映画やゲームでしか見たことのない光景が、目の前に広がっている。



「――ねえママ、ウサギノ島へ行けるのは、何層の何番ポートからだっけ?」


「おれはさっき、大キノコ島から来たんだが、乗りつぎが面倒くさくてよう……」


「にしても、あいかわらずでっかい施設だよねえ。


あたし、なんだか迷いそう――」


「ちょっとすまないが、魚人スキンケア・センターは何層だったかね……?」



雑踏にまぎれて聞こえてくる、大勢の利用客たちの声。


ぼくらは夢でも見ているのか。


それとも、オンラインゲームの世界に入りこんでしまったとか?



「ああ……うぅ」



スズカがかすかに弱々しい声をもらした。その足がおぼつかずにふらふらしている。



「だ、大丈夫?」



スズカは、今にも床にへたりこみそうだったが、


声をかけてきたハルトの顔を見ようとはしなかった。



「ツアー参加者のみなさん、ここまでお疲れ様です!」



子どもたちの前にならんだ十二頭のオハコビ竜たちが、いっせいにお辞儀をする。


子どもたちは、思いもよらずに目をしばたたいた。


いや、悪い気はしないけれど、なんだか照れくさい。接待を受けているみたいだ。



ガヤガヤガヤ……。見れば、周囲の利用客たちも、


この不思議な光景を見ようと野次馬になって集まっていた。


注目されたのは、人間の子どもたちのほうだ。



「おーい、地上人の子どもがいるぞ!」


「うわあ、ホントだ。オレ、ホンモノ見たのはじめてだよ……」


「へえ、みんなかわいいわねえ」


「でも、これまで何度か来たことあるらしいぞ――」



興味津々なのもそのはず。スカイランドの住人たちにとって、


地上界の人間はすこぶるめずらしい存在なのだ。


そんな利用客の群れを見て、子どもたちはふと思った。



自分たち以外の人間が、ひとりも見当たらない――。



「人間がひとりも見当たらない、と思っているところではないですかね?」



ひょうひょうとした男の声がして、


竜たちの後ろ側にいた人垣がはたと反応して道を開けた。


竜たちも、その聞きなれたような声に反応をしめし、いち早く左右に移動した。



「みなさんのまわりにお集まりいただいているは、


この世界で『亜人』とよばれている類の方々。


日々、わがオハコビ・ターミナルをご利用いただいているヒトビトですよ」



子どもたちの前に現れたのは、あのクロワキ氏だった。



彼は、子どもたちの到着を心待ちにしていたというように、


ニッコリしながら歩いてきた。


その服装は、地上界にいた時とはがらりと印象が変わっている。


まるで全身水色の宇宙船船長のような服だ。


船長帽はかぶっていないが、あいかわらずサングラスはかかしていない。



その服の胸あたりに、赤いオハコビ竜のマークが刺繍されていた。


おそらく、オハコビ隊員のしるしなのだろう。



「地上人のみなさん、スカイランドへようこそ!


あらためまして、わたしはオハコビ隊の『地上人歓迎プロジェクト』主任、


ハマ・クロワキと申します。よろしくねえ」



そう言って、クロワキ氏は子どもたちに手をふった。


そのとたん、オハコビ竜たちや、周囲の野次馬たちから拍手がわき起った。


クロワキ氏は、その拍手にたいして、


どうもありがとう、とお礼を返してから、こう続けた。



「さて、ここはスリープ状態で見る夢の中でなければ、


よくあるゲームの中でもありません。


何を隠そう、実在する異世界なんですよねえ! それも、


さっきみなさんの通ってきたゲートがなければ来ることのできない、


どこまでも広がる天空の世界」



クロワキ氏によれば、このターミナルに入ってきた方角に、


いくつかの円状のゲートが浮かんでいるという。


それらはつねに時計のように回転しながら、


地上界への扉が開かれる時間を待っていると――


のちに子どもたちも、その巨大なゲートたちの動く様子を目で見て知るのだった。



「ホントにすごいものでしょう? ――とまあ、かく語りますけども、


じつはわたしこう見えて、多忙な身でしてねぇ……。


いやあ、もっとお話したいんですが、すみません。


あとは補佐官にいろいろとお任せしてますので。


さあ、ご登場いただきましょうか……いらっしゃーい!」



クロワキ氏が、ふりむきざまに右手をあげて叫ぶと、


人垣の中に開いた場所から、ひとりのごく年若い女性が歩み出てきた。



「ああっ!」



ハルトとスズカをふくめ、ケント班はみんな思わず声が出てしまった。



それはだれあろう、ケント班の世話係、モニカさんだった。


彼女は、白のジャケットに藍色のハーフパンツと、水色のワイシャツ、


胸にはピンク色のネクタイまで巻いていた。


ただ、こちらも赤ぶち眼鏡はかかしていない。よく見れば、


彼女のジャケットにも、オハコビ隊員のエンブレムが刺繍されている。


手に携えているのは、平らなタブレット端末だ。



モニカさんは、いささか緊張したような面持ちで、クロワキ氏の隣に進み出た。



「みなさん、ようこそ。あらためまして、クロワキ主任の補佐、モニカです」



モニカさんは、


地上とはまるで違って礼儀正しく、凛とした雰囲気をかもし出していた。


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