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「さて、続いてはこちらをご覧くださあい!」
フラップがポーチから取りだしたのは、カプセル剤の形をした何かだった。
手の中に四つおさまっており、
その中からさらに何かが出てくるのかと、だれもが思った。
するとフラップは、それらを数メートルずつ間隔を開けて地面に置いていった。
彼から少し離れた場所に、別の二頭が同じようなカプセルを、
同じ間隔で設置するのも見えた。
「こっちはびっくりして結構ですよ。見ていてごらん!」
フラップが空中パネルをタップすると、
地面に置いた計十二個のカプセルが青白い光に包まれた。
かと思うと、それらは風船のごとくプクッとふくらみ、
徐々にかさ上げされるように巨大化していく。
しまいには、一つで全長四メートル以上のサイズになっていたのだ。
「すごい。まるで秘密道具みたーい!」
「不思議だあ!」
「コレなあに!?」
驚くべき科学の力を前に大はしゃぎの参加者たち。
フラップは、一台のカプセルのそばに立って説明した。
「これは、スカイトレインという乗り物です。
これで、みなさんをスカイランドへお運びいたします」
カプセル型の車両は、奇妙なことに、縦ではなく横向きにならべられていて、
上半分は清々しいガラスドームの車窓になっていた。
下半分には、なにやら穴の開いた突起物が、
中央のスライドドアをへだてて二つついている。
車両の後ろにも、同じものが二つあるようだ。
「かさばる大きさなんですが、一台につき二人乗りの快適車両。
これらが連結して四両編成、あわせて八人乗りの列車になるわけです。
……といっても、とても列車には見えないよね。
連結部はどこ? どうやって動くの? とか、
いろいろギモンがあると思うけど、まずはご乗車ください。
くわしくは、みなさんが乗りこんだ後に、分かりますから」
言われるままに、子どもたちは竜たちの誘導を受けながら、
二人ずつ順番に車両へと案内されていった。
トレインは全部で三編成あって、一番から三番と番号でよばれた。
ハルトとスズカは、偶然にも同じ車両に案内された。一番列車の三号車両だ。
「また二人になったね。にしても、ドキドキしてきちゃうよね!」
ハルトの気さくな言葉に、
スズカは嬉しいのか気分が悪いのか、よく分からない反応を見せた。
本当に、彼女にはどんな言葉をかければいいのやら。
ドアがつと上に開き、車両内に入れるようになった。
竜たちの指示で、子どもたちはゆっくりとした足どりで乗りこんでいく――。
「「「わあ!」」」
車両に足をふみ入れた瞬間、子どもたちの着ていた服が、
白く閃いたかと思うと、一瞬にして別の服装に変わっていた。
全身オレンジ色の、ふっくらした半そでウェアにズボン。
男子の両肩には青色の、女子にはピンク色のポイントカラーがついている。
着心地なめらかで、しかもひんやりして気持ちいい。
中に冷感ジェルでも入っているのだろうか?
おまけに、靴もブラウンカラーのショートブーツに変わっている。
突然のことに驚く子どもたちは、
相乗り相手と向き合いながらお互いの服を指さしたり、
あれっと自分の姿をながめたりした。
『そちらは、みなさんのためにご用意したツアー衣装です』
車両内にフラップの声が広がった。
どこかにスピーカーが内蔵されているようだ。
『みなさんのお洋服やお靴は、
帰る時まで、われわれオハコビ隊のほうで大事に保管させていただきます。
あ、心配しなくても大丈夫。悪いようにはしませんので』
いっぽう、車両内はさほど狭くはなく、気持ちよくすごせそうだった。
というのも、床の様子が、超ハイテクマシンを思わせるほど真っ白で、
つやつやにコーティングされているのだ。
まさに未来的な内装だ。床のそこここに走る青い光線もかっこいい。
四角い土台にのったシートが、たがいに広くスペースを開けた状態で、
むかい合わせに設置されている。
それらのシートには、ショルダーベルトや、
前から引き倒してお腹を固定する安全バーが搭載してある。
なんとも徹底した安全対策だ。
「いくらなんでも、すごいよね……」
ハルトとスズカは、互いの顔を見るという不思議な状態で座席に着いた。
しかし、ああなるほど、
これはかなりゆったりしていて、包みこまれるような座り心地――。
と、ふたりの目の前に、空中モニターがぱっと現れ、
そこに指示画面が映し出された。
『スカイトレインへ、ようこそ! 席に着きましたら、まず、
背もたれのショルダーベルトを、ランドセルのように背負いましょう』
なんと、音声ガイドつきだった。
ヘッドレストのそばのスピーカーから出ている。
ふたりはあぜんとしつつも、
温かみのある指示音声にしたがい、ベルトを背負った。
『それから、付属の黄色いヒモを下へ引っ張って、上半身を固定しましょう。
――はい、オーケー! おふたりとも、バッチリ装着できましたね』
子どもをやる気にさせる快活な口調で、音声ガイドは続けた。
『続きまして、前の安全バーとクッションが、
自動である程度倒れてきます――。
最後はご自身で、カチャッと音が鳴るまでお腹へ引きよせてください。
――オーケー! セッティング完了できましたね。
飛行中は、安全クッションについている取っ手に、
両手でしっかりとおつかまりくださいね。
それでは、牽引係の案内があるまで、そのままでお待ちください。
以上、カスタマーシート・ガイダンス・サービスでした。
ご協力、ありがとうございます!』
音声ガイドはそこまでだった。
そのかわり、車内にポップでリズムカルな音楽が流れ出す。
どうやらすべて、子どもを退屈させないための配慮のようだ。
おまけに、ヘッドレストが枕みたいにふかふかしているし、
このまま眠れるのではないだろうか。
車両の外には、竜たちが乗客たちの状態を見るために、
窓のむこうから子どもたちをのぞきこんだり、手を振ったりしていた。
思えば、竜たちはずいぶん団結した動きをしている。
彼らがれっきとした組織を組んでいるのだと、ハルトはやっと合点がいった。
「それにしてもさ、どうやってこの乗り物が動くんだろう。
どう思う、スズカちゃ……あ、あれ?」
スズカは、魂がぬけたみたいに上の空で、何も答えられなかった。
まだ彼女の脳内で、ここまでの目まぐるしい変化が整理できていないのだ。




