JSに毎日告白される42才VS難病JK
(このタヌキ野郎が!)
『尾持出版社』の新人編集の笹島は作家のアジシラス(ペンネーム)に媚を売る定年間近のベテラン編集。小野の気持ちが全く分からない。
「先生。主人公を高校生にしてみませんか?」
「えー。主人公は僕がモデルなのにー?」
「なんとかお願いできませんかぁ?」
「んー。くるしゅうないよ小野きゅーん」
アジシラスは3年前に未成年淫行で逮捕歴のある42才。
小野が『尾待出版社ライトノベル大賞』に選んだ『42才の俺が毎日JSに告白されるんだが?』の作者だ。
笹島は難病の女子高生が恋をして病気に立ち向かう『君と』を推したがそれ通らなかった。
(『君と』はライトノベルではないですね)
(でも面白いですよ!)
(はい。確かにね。でも僕たちの仕事は自分が面白い本じゃなくて読者が面白いと思うものを売ることなんですよ。自分の面白いを押し付けたら編集者失格。おしまいです)
モラハラだと笹島は思う。クソ気持ち悪い作者の書くクソ気持ち悪い小説を売るぐらいなら俺はこの仕事を辞めてやるとまで思っていた。
新しい『面白い』を提供するのも俺たちの仕事だろう。
「わが社としては異例ですが『俺告』は初版16000部刷らせていただきます。コミカライズも決定しており。売り上げ次第ではアニメ化まであると私は思っています」
「えー。こりゃ忙しくなっちゃうなぁ!」
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(違うんだよなぁ。俺のやりたい事と)
笹島は喫煙室でボーッとタバコを吸っていた。
『時をかける少女』『世界の中心で愛を叫ぶ』『君の膵臓を食べたい』の様な小説を自分の力で世に出したくて小野はこの道を選んだ。
だが現実は厳しく来る仕事は『異世界チーレム』『悪役令嬢転生』ばかりだ。
「……ライトノベルって中高生向けの文学と思ってたけど違うんだな」
「ライトノベルは殿馬。純文学は岩鬼なんですよ」
「うわっ!」
いつの間にか隣で小野が電子タバコを吸っていた。
「……えっ?意味わからないっす」
「ドカベン知りませんか?つまり打率ですよ」
「期待値って事ですかね?」
「そうそう。やはりあなたは優秀ですね」
(……バカにしやがって)
ライトノベルはある程度は売り上げが見込める。ヒットが打てるということ。純文学は売り上げが見込めないが時にホームランが打てる……なんとなく笹島にもそれは分かる。分かるが納得できない。笹島にとって純文学はライトノベルの遥か上に位置づけられるからだ。
「私みたいなおじさん。いや。おじいちゃんがJSとかJKと言ってるの。仕事とは分かってても気持ちが悪いでしょう?」
「……いやぁ」
(正直思ってます)
「私も恥ずかしかったですが慣れました。ハハ。ライトノベルは今やわが社の大黒柱ですからね」
「儲けさせてくれてるって事っすよね?」
「うーん。困った。濁さず言えばそうです。ライトノベルがあるから純文学が出せるってのが現状です」
流石に言葉にトゲがあったなと笹島は反省した。
だが毒を食らわば皿までと続けた。
「……あの。それでもアジシラスは売れないですよ」
「ほう?なぜ?」
「……キショイっすもん」
笹島がそう言うと小野は腹を抱え、こちらが心配になるほど笑った。
ヒーヒーと苦しそうで心配になる。
「ハハハ。お腹がいたい。……そうかぁ。キショイですか?売れませんか?ヒーッ。ヒッヒッヒッ!!あー。こりゃあ世代交代ですな!はっはっはっ!」
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「君と。は面白いです。そのまんまぶつけましょう!」
「はい!」
笹島は君と。の作者と打ち合わせをしていた。
君と。は『尾持文庫大賞』の佳作を受賞し出版が決まった。
小野が作者に相談して期限ギリギリで無理やりエントリーしてくれたのだ。
笹島は恥じていた。
(俺は文句ばかりで作品と作者の為になんの行動もしていなかった。小野さんが『君と』の道を開いてくれた。それなのに俺は小野さんにもライトノベルにも酷いことを……バカだな)
笹島は小野が辞表を出した日の事を思い出した。
(『自分の面白いを押し付けたら編集者はおしまい』。私はそう言いましたよね?だから私はおしまいなんです)
小野はそう言って去っていた。
(おしまいだって?あの人はやっぱりタヌキだよ)
君と。の発売日は3月。小野が立ち上げた出版社『タヌキ文庫』の新作と時期が被る。
あの人には負けられないな。
「では今日はこれで」
「ありがとうございました!」
打ち合わせ終了。次は小野から担当を引き継いだアジシラスの所へ行かなくては。
憂鬱だった。二巻で打ちきりを伝えなくてはいけない。
(大丈夫だよアジシラス。あんたも小野さんが認めた作家なんだから次もある!いや。俺が次も出させてやる!)
笹島はプロット案を持って立ち上がった。




