表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない  作者: 当麻月菜
お仕事のはずなのに、そんな顔であんなことをするのは少し狡いと思う
27/57

7

「─── ったく、肝が冷えましたよ。喧嘩を売るのは結構ですが、相手を見てからにしてください」

「ちょっと、待ってください! 私は向こうからの喧嘩を買っただけで、自分からは」

「黙りなさい。ムキになった時点で、あなたも同類です」

「えー……それは」

「だ、ま、り、な、さ、い」


 一語一句丁寧に区切られ、かつギロリとグレイアスから睨まれたノアは、むぐぐぐっと唇を噛んだ。


 場所は変わって、ここはグレイアス先生の私室。


 普段はノアのお勉強の為のお部屋であるが、現在はお説教部屋と化している。


「……あのう」

「黙りなさい」


 さっきから『黙れ』の一点張りであるグレイアス先生は、大変怖い顔をしている。


 でもノアは窮地を救ってくれたグレイアスに感謝の念はちょびっとは持っているが、反省する気は無く、異議あり!と全身で訴えている。


 あと片腕だけで自分の襟首をつかんでこの部屋まで引きずって来たグレイアス先生は、意外に力持ちなんだとも思うが、それは今話すことじゃないので、いつか会話のネタに困ったときに語り合おうと思っている。


 ちなみにフレシアは、多分鎮静作用がある良い香りのするお茶を無表情で淹れている。


 ただ、両者一歩も引かない今の状態では、お茶程度では和むことは無いだろう。


 ───……と、思っていたが、とてもとても珍しいことにグレイアスが先に折れた。


「頭ごなしに叱ったことは謝ります。ですが、あのような真似は今後一切やめてください。何かあれば、私か殿下を呼ぶように。ノア様に代わって、私たちが必ずなんとかしますから」


 雨でも降りそうなくらい優しい言葉をかけてくれたグレイアスに、ノアもぺこりと頭を下げる。


「……ご迷惑をおかけしたことは謝ります。ごめんなさい。確かに先生の言う通りだったと思います。でも私、また同じことをすると思うので、先生からの約束はできかねます」


 ピシッと背筋を伸ばして言い切ったノアを見て、グレイアスは半目になった。


「なら、一生声が出せなくなるようにするしか無いですね」

「えー鬼畜!!悪魔!!鬼魔術師!!」

「なら、今すぐ約束しなさい!!」


 くわっと眼をひん剝いてグレイアスが叫んだと同時に、フレシアがどうぞと言ってお茶をテーブルに並べた。

 

 このタイミングでお茶を出すフレシアはなかなかの猛者であるが、怒鳴った勢いで出されたお茶を一気に飲み干すグレイアス先生は猫舌じゃないんだと、ノアはどうでもいい発見をしてしまった。


 そして、お茶のおかげでほんの少しだけ空気が和んだような気がしたノアは、挙手をしてついさっき決めたことを宣言する。


「突然ですが、私、お城を出ることにします」


 そうノアが言い切ったと同時に、グレイアス先生はぎょっとした表情を浮かべたまま、手にしていたティーカップを滑り落した。


 でも、間一髪でフレシアがキャッチする。


「フレシアさん、ナイスです」

「……恐れ入ります」


 あまりの華麗な動きにノアが賞賛すれば、フレシアはペコっと頭を下げた。


「ところで、今のってあまりに早すぎて見えなかったんですが魔法を使ったんですか?」


 ふと思った疑問をそのまま口にすれば、なぜかフレシアはティーカップを手にしたままワゴンへと向かった。


「……今のは魔法ではございません。咄嗟に手を伸ばしたら、運よく受け止めただけです。───……ところで兄様、お茶のお替りを入れますね」

「えーそうなんだっ。フレシアさん、身体能力すごいし魔術師だし、お茶淹れるの上手だし、全部すごいです!!」

「……恐れ入ります」


 フレシアは何か動作をしながら口を動かす時は、本気で喜んでいる。


 それを覚えているノアは無視された訳ではないことを知っているし、普段よりちょこっと会話のキャッチボールができているので、とてもご機嫌である。


 ただ、この部屋の主であり、ティーカップを滑り落した当事者であるグレイアスは、茫然としたまま固まっている。


 大変シュールな光景なのだが、ノアは言いたいことを言い切ったスッキリ感で完璧にグレイアスを無視している。


 そして妹であるフレシアも、問いかけても返事をしない石化した兄を気にする様子は無い。


「……ノア様……あの、よろしければ別のお茶もありますが、何か淹れ直しましょうか?ハーブティーとか、薬膳茶とか、あと……カバノアナタケ茶も」

「カバノアナタケ茶!?」


 カバノアナタケ茶とは文字通りキノコのお茶である。


 ちなみにカバノアナタケは、極寒の地域で生息しているため、比較的温暖な気候であるハニスフレグ国では栽培不可能であり、多種多様な品種を扱う王都の市場ですら出回ることは無い。


 ─── という希少なキノコのお茶が飲める。


 キノコを愛するノアとしたら、飛び上がらんばかりに顔を輝かせた。


 そして、飲む前に是非ともカバノアナタケ茶の原型を見たいという思いから席を立つ。次いでルンタッタとスキップしながらフレシアの元に近付こうとしたけれど……


「おい、ちょっと待て」


 急にタメ口になったグレイアスに襟首を掴まれてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ