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盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない  作者: 当麻月菜
お仕事のはずなのに、そんな顔であんなことをするのは少し狡いと思う
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 グレイアス兄弟は、話し合う間もなくノアに真相を告げることを伏せた。


 付け加えるとノアがターゲットにされていると思い込んでいるアシェルは、実は毒入り菓子が出されていることに気付いていた。でも、わざと気付かない振りをしていた。


 犯人をわざと泳がすつもりでいたのだ。

 そう遠くない将来、その人物をより確実に追い込むために。


 ……というのが表向きの話。実際のところ、毒に慣れた身体なら毒入り菓子の一つや二つ口にしたとて、どうどいうことは無い。


 それよりも、そんなくだらないことでノアからの”あーん”がお預けになるほうがよっぽど嫌だったのだ。


 しかし世の中というのは、上手くいかないことの方が多かったりもする。皆、平等に。


 




「お久しぶりですわね、ノアさま」


(っわぁー、嫌なヤツに会っちゃった。最悪)


 にこりと笑ったどぎつい化粧の女性を目にして、ノアは愛想笑いもできずにため息を吐いた。


 今日も今日とてグレイアス先生の授業を受けるために、ノアは離宮から渡り廊下を通って移動していた。


 そこで運悪く、出会ってしまったのだ。


 お城での生活初日に、自分に向けて『なぶり殺しにしてやる』と眼で訴えてきた、因縁の女性─── クリスティーナ・サッチェに。


(それにしてもこの人、相変わらずの厚化粧と派手ドレスのせいで、原型がわからないなぁー)


 ノアは取ってつけたような笑みを浮かべるクリスティーナを見ながら、そんなことを思う。


 次いで何かに似ているなと考えて、すぐにわかった。


 腹痛と嘔吐、それから眩暈などの神経系の症状を引き起こす禍々しい朱色の毒キノコであるベニテングダケにそっくりだと。


 ちなみにこのキノコの毒は、そこまで酷くない。

 

 だからこのヒト型ベニテングダケを食してしまったローガンは、今は神経系の疾患を抱えながら生きているんだとノアは妙に納得してしまう。


 あと、我ながら上手い例えだと心の中で自画自賛したりもしている。


 しかしながら、ノアがどうでも良い結論に至っても、目の前の毒キノコ───もとい、クリスティーナは消えてくれなかった。


 それどころか、底意地の悪さに狡猾さも加えた笑みを深くしてこう言った。


「ノア様、殿下がお呼びですわ。わたくしと一緒に来ていただけますわね」


 ハニスフレグ国には、殿下と呼ばれる人間が二人いる。


 でもノアは「どっちの殿下ですか?」と尋ねるほど、愚かではなかった。もちろん「どこに?」と聞くことも。


 あと、身の程弁えて生きていると自負しているノアは、次期国王陛下となる男の呼び出しを断るほど、命知らずでもなかった。





「やあ、久しぶりだねノア嬢。ご機嫌いかがかな」

「……」


 にこやかに笑う次期国王陛下に向けて、ノアはとてもとても丁寧に無視をした。


 ここは、お城のどっかの豪華なサロンの一室。そこでテーブルを挟んで向き合うこの赤髪の男が、出会って数分で自分のことを醜女と呼んだのをノアは忘れていない。


 そんな失礼千万な男は次期国王陛下となるお偉い人なのかもしれないが、その前に人として色々問題がある。


 望まぬ再会をしてあげたというのに醜女と呼んだことに対して詫びるわけでも、言い訳するわけでもなく、ましてや「だってそう見えたんだもん」と開き直ることもしないということは、この男は既にあの一件を忘れているのだろう。


 そんな記憶力が残念なヤツは、もはや人ではない。ニワトリだ。


(あ、ニワトリの鶏冠(トサカ)は赤い)


 そんな奇跡的な共通点を見つけて、ノアはこの瞬間からローガンのことをニワトリ男と呼ぶことに決めた。


 ただ正直美味しい卵を生んでくれるガチのニワトリの方がよっぽど尊い存在であるので、ちょっと申し訳ない気がする。でも他に代名詞が無いので、どうか許してほしい。


 などということをノアがぼぉーっと考えていれば、現在進行形で無視をされているローガン改めニワトリ男の頬が引きつった。


「ノア嬢、私は君に質問をしているんだが?」


 あいにくノアは人間なので、ニワトリ語は理解できない。

 なのでこれもまた無視をして、部屋の隅にいるフレシアに眼を向ける。


 首を動かした際に、ローガンの隣に着席しているクリスティーナが憎々しげにこちらを睨んでいるのが見えたけれど、既にノアはベニテングダケは食したことがあるので、もはや彼女には興味はない。


 そしてすぐに、壁と同化しているフレシアとばちっと音が鳴るほど目が合った。けれど、彼女は相も変わらず無表情だった。


 それを見たノアは突き放されたと落ち込むどころか、どんな場所でもマイスタイルを貫くフレシアがカッコイイと思ってしまう。


「おいっ、聞いているのか!?小娘っ。くそっ人が下手に出たというのに───」

「まぁ殿下、そうムキになってはいけませんわ。あの娘は、殿下を前にしてきっと緊張されてるのです。それに無言でいたって私達の声は聞こえているのですから、問題は無いのでは?」

「そうか。……よし、クリスティーナがそう言うのなら、聞こえていることにしよう」

「ええ、それでよろしいですわ」


 ノアがフレシアに見とれていれば、クリスティーナとローガンは夫婦漫才にすらならない馬鹿馬鹿しい会話を勝手におっぱじめる。


 本題に入る前に、もうこの時点で嫌な予感しかしない。


 というか、この二人がタッグを組んで自分を呼びつけた時に、ある程度は覚悟していた。だが、うんざりする顔を隠すことはどうしたって無理だ。


 でも、表情一つ変えることで、より悪い方に向かう気がしてならない。


(よし、私もフレシアさんを見習おう)


 ついつい感情が顔に出てしまうノアは、むむっと表情筋を引き締める。


 グレイアス先生なら空気を呼んで、ここで自分の声帯を麻痺させるどころか表情を麻痺する魔法を強めにかけてくれるはずだか、それをフレシアに求めるのはちょっと鬼畜だろう。


 いや、問答無用でフレシアからそんな魔法をかけられたら、ノアが彼女のことを鬼畜と思ってしまうから、どうかやめて欲しいと思っていたりする。

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